【六章】第3話:不具合報告と、運営の神対応
天才ハッカーが生み出してしまったグレーゾーンの美少女戦士と銀河戦士。
フォージ様は一人のエンジニアとして、開発元へ一本の報告書を送信します。
「よし、こんなところか。ゼノン、俺がまとめたレポートを運営宛に送信してくれ」
『はいっ、マスター! 報告書の送信、完了しました!』
コンソールを前にして、俺は小さく息を吐いた。
隣では、マークが心配そうに画面を覗き込んでいる。
「兄貴……本当に僕のアカウント、消されませんか? 結構際どいシステムの穴を突いちゃいましたよ」
「だから言っただろ。単なるクレームじゃなく、建設的な提案として送るんだ。運営だって、より良い遊び場にしたいはずだからな」
俺が送った文章は、マークを告発するものではない。
『特定のNGワードを回避し、外見的特徴の羅列のみで既存IPに酷似したキャラクターを生成できてしまう現象』についての仕様報告だ。
そして、「テキストのフィルターだけでなく、出力結果の類似性を総合的に判断する基準が必要かもしれない」という、PM視点での改善案を添えておいた。
「……それにしても、対応には時間がかかるでしょうね。画像生成の類似性判断なんて、運営側のリソースも無限じゃないですし」
マークがそう零した、次の瞬間だった。
『マスター! 運営様から、信じられない速度で返信が届きました! 早すぎます!』
ゼノンが驚きの声を上げ、空中にメッセージウィンドウを展開した。
そこには、定型文ではない、開発者自身の熱意がこもった文章が記されていた。
『――ご報告、誠にありがとうございます。
該当の生成データおよび入力プロンプトを確認いたしました。
ご指摘の通り、「月に代わってお仕置きをする美少女」などの明示的な指定は一切ございませんでしたが、出力されたビジュアルの類似性が著しく高いと判断いたしました。
つきましては、ユーザー様のアカウントにペナルティは科さず、該当のキャラクターデータのみをシステム的に「非公開設定」とする措置をとらせていただきました。
本システムの脆弱性に対する、エンジニア視点からの建設的なご提案に、開発チーム一同、深く感謝申し上げます――』
メッセージを読み終え、マークはポカンと口を開けた。
「……アカウント停止なし。データのみ非公開。しかも、抜け道を突いた僕に感謝まで……?」
「粋な対応《神対応》じゃないか。テキスト制限に引っかかっていない以上、ユーザーをルール違反で裁くことはしない。だが、権利侵害のリスクは運営の裁量でしっかりブロックする。見事なバランス感覚だ」
俺はホッと胸を撫で下ろした。
システムを提供する側も、それを利用して遊ぶ側も、根本にあるのは「この世界を楽しみたい」という同じ思いだ。
エラーを隠さず報告し、理路整然と対処する。これが、大人たちの正しいデバッグの姿である。
「……すごいですね、この運営。ただ機械的にBANするだけじゃないんだ」
マークは目を輝かせ、自身のコンソールを再び手元に引き寄せた。
「ああ。最高に誠実な開発元だ。だからこそ、マーク。お前もこれ以上、既存の模倣でシステムに負荷をかけるのはやめろ」
俺が釘を刺すと、マークは小さく笑った。
「わかってますよ、兄貴。……でも、限界突破も模倣も禁止されたら、僕のこの溢れる演算リソース《やる気》はどこにぶつければいいんです?」
天才ハッカーのその問いを、俺は待っていた。
開発元の「神対応」により、著作権ギリギリの問題は穏便に解決しました。
次回、力を余した天才マークに、フォージ様から前代未聞の「要件定義」が下される!




