第30話 勝利への余裕
フォーメーションラップから戻った二十台がグリッドに並ぶ。
最前列から後方を見通すと、排気熱で生じた蜃気楼で、景色が歪んで見える。
十四時ちょうど、レッドシグナルが一つずつ順に点灯し、最後の五つ目が点いたあと、一瞬の間をおいて全てが消えた瞬間、全車が爆発的な加速で一コーナーへ向かった。
ポールポジションの水樹と、三番手の杉山が絶好のスタートを切るなか、二番手のハーパーが少し出遅れた。一コーナーで半ば強引に杉山がハーパーを抜き、二番手に上がると、前園メンテナンスのピットでは歓声が上がった。
一方、チームジャニスのピットでは、杉山の抜き方に不満を感じた石本が、怒りで右手を振り上げた。
スタートは接触やクラッシュもなく、その後、各車は順調に周回を重ねた。
杉山は序盤、初めて使うフロントウイングの影響からかバランスを崩す場面も見られたが、驚異的な修正力を見せ、次第に安定した走りを取り戻した。
しかし、それでもトップの水樹からは少しずつ遅れていった。特に裏ストレートで離されており、場内アナウンスは、ストレート手前のコーナー出口で上手く加速できていないのではないか、と解説していた。
全五十二周で争われる決勝の半分が過ぎた頃、各車がタイヤ交換のためにピットに入り始めた。
水樹と杉山は同時にピットに入り、ミスなくタイヤ交換を終えて、同じ間隔を保ったままコースに戻る。
三番手のハーパーが一時的にトップになり、翌周にピットインするも、最適なタイミングでのタイヤ交換を水樹に譲ったため、コースに戻ると杉山から少し離れてしまっていた。
レースは、水樹と杉山による一騎打ちの様相となった。
水樹は、コックピットの中で、自信に満ちていた。
チャンピオン争いをするシリーズランキング一位のドライバーは、予選から不調で下位に沈んでいた。
このまま優勝すれば、逆転での史上最年少チャンピオンの肩書きが手に入る。それを手に入れれば、来年はいよいよC1への挑戦だ。トミタ自動車も、将来有望な自分を支援してくれるであろう。
あまりにも順調なレース展開に、水樹はC1への未来を思い描くほどの余裕があった。
一方で水樹は、コース特性と杉山との差についても分析していた。
鈴与シティレーシングコースは、コースの前半が中低速コーナーの連続するテクニカル区間で、コース後半がストレートの多い高速区間である。
前半区間は杉山の方が若干速いようだが、道幅が狭く、追い抜けるところがない。逆に、抜きどころがある後半区間は水樹の方が速い。セッティングの差か、水樹のストレートスピードの方が伸びている。
鈴与で抜けるポイントは二か所しかないと、水樹は考えていた。
一つ目は、裏ストレート後の高速コーナーである140R。
もう一つは、その直後の最終コーナーだ。
その二か所は自分が最速だと、水樹は確信していた。
杉山には抜かれようがない。
水樹は、タイヤ交換を終えた時点で自身の勝利を疑わず、余裕を持ってドライビングをしていた。
すべては水樹の計算通りであった。




