第22話 駆ける才能、置いていかれる経験
杉山は、一年に及ぶ練習期間を終えてC3クラスに参戦し、型落ち車両とは思えないほどの善戦を続けて周囲を驚かせた。
高間は杉山と世良の成長を実感する一方で、AIの指示通りの作業を繰り返すことへの不満や、自分の存在価値についての不安を感じていた。
杉山は、全十八戦のシリーズを五位で終えた。車両のハンデを乗り越えての結果であったことと、雨のレースで二勝を挙げたことを、大手自動車メーカーのトミタ自動車が評価し、来年のC2クラスへのステップアップについて、内々に打診を受けた。
本来であれば諸手を挙げて喜ぶべきところだが、杉山はトミタ自動車に対して、世良も一緒に移籍先チームに受け入れることを条件として提示した。
当然のごとく、トミタ自動車側の関係者は、確たる実績もない新人ドライバーの要求を一蹴した。
高間は、天下の巨大メーカーに対して臆することのない杉山の姿勢を評価しつつ、杉山が自分ではなく、世良の名前を出したことに対して、嫉妬のような黒い感情を覚えていた。
もちろん、そんな感情を抱いてしまう自分を恥じる常識も高間は持ち合わせていて、その矛盾が高間自身を少なからず苦しめた。
杉山のC2クラスへの昇格は無理かと思われたが、トミタ自動車との交渉が決裂を迎えた直後、事態は急転した。
トミタ自動車のエンジンを使用する中堅C2チームを支援していた企業が、巨額の投資詐欺事件を起こしてスポンサーを降りることになり、そのチームが参戦を取り止めることになったのだ。
トミタ自動車はC2クラスにエンジンを十台分供給しており、一台分の枠が空くことになった。
かねてから自社の拡大を狙っていた前園は、すぐにトミタ自動車のモータースポーツ部門責任者に連絡を取り、参戦可能との意思を伝えた。普段は何をしているのか分からない前園が見せた、電光石火の動きだった。
結果、前園メンテナンスは杉山と共に、C2クラスに昇格することが決定した。
高間は、自社がとうとう国内トップカテゴリーに参戦することになったのを嬉しく思う反面、今後も自分ではなく世良がチームの中心となっていくのであろうと、一抹の不安を抱いていた。
そして高間の予想通り、C2車両のノウハウが全くない前園メンテナンスは、世良のAIを中心としてセッティング作業が進められていくことになった。
すると次第に、今まで高間の徒弟のようにして働いていた中堅と若手のメカニック達は、世良を頼りにすることが増え、高間との関係は希薄になっていった。
高間の元ではなく、世良のプレハブに向かうメカニック達を見るたびに、新しい技術についていけない自分に対する不安と、このままだとチーム内で孤立するのではないかという恐れが、高間の中で日に日に増幅していった。
そんな中、今年のC2ジャパンシリーズが開幕し、杉山の戦いが始まった。
シーズン当初は、車両に対するデータ不足によりAIが上手く機能せず、下位に沈むことも多かったが、杉山は光る走りを見せ続けた。
世良は走行の度に、AIが示す最適な走り方を杉山に指示していたが、その情報量は膨大で、要求されるテクニックもかなり高度なものだった。
並のドライバーなら音を上げたり、技術的に対応できなくなったりするものだが、杉山は、ほぼ完璧にその要求をこなしていた。
杉山は、高間が見てきたどのドライバーよりも、どんな状況にも対応する高い能力を有していた。
特に、様々なセッティングを苦もなく乗りこなす能力が高く、いったいどのような訓練を受けてこのような力を身に付けたのだろうと、感嘆するばかりだった。
シーズンが進むにつれて、杉山の順位は上昇していった。徐々に十位以内に入るようになり、シーズン中盤の時点で、条件が揃えば表彰台も狙える位置を走れるようになっていた。




