第20話 優等生かAIマニアか
前園メンテナンスでは、高間が誰よりも経験と知識を持つメカニックだった。
ただ、高間も五十歳を超えており、年を重ねるにつれて最新の知識が頭に入りにくくなってきていた。
特に、レースでのAIの活用については理解を深めることができず、苦手意識を持っていた。
近年のレース界におけるAI技術の台頭は、著しいものがある。レース戦略や車両のセッティングのみならず、ドライビングスキルの向上やチーム運営にまで、その影響は広がってきていた。
他のチームでは、AI技術の活用が、かなり前から当たり前に行われていると聞いている。
環境を整え、杉山に戦えるマシンを与えるためには、AIの導入が急務だと、高間は考えていた。
高間は前園に、AI技術者の採用を提案した。小さな会社で人員を増やすことは難しいかと思われたが、意外にも前園は二つ返事で承諾した。
前園は、今回のC3車両のメンテナンスを契機に、会社を大きくしたいと考えていた様子であった。
急ぎ求人広告を出したところ、二名の応募があった。
二人は偶然にも同じ工業系大学の学生で、一人は太田という来春卒業予定の四年生、もう一人は世良という、二年留年している一年生だった。
書類選考は参考程度にして、早々に面接が行われた。
太田は、はきはきと話す明るい青年で、大学での成績も良く、昔からレースが好きで応募をしてきたとのことだった。
一方、世良の方は常に伏し目がちで、受け答えのテンポも悪かった。レースのことは全く知らず、AIを仕事にできるからと一言だけ志望動機を述べた。
前園と高間で面接を行ったが、どちらを採用するかは高間に一任された。
普通に考えれば、太田を採用するのが無難だと思われたが、高間は世良を選んだ。
大学を中退してすぐに働けること、AIに精通していることもそうだが、杉山という才能に対しては、世良の異質さが釣り合うのではないかという、高間の直感による決定だった。
世良の要望でガレージの横に小さなプレハブが建てられ、中には、そのスペースには不釣り合いな四台のエアコンが設置された。
そこは世良専用の部屋となり、常時肌寒い空間には、多数のサーバーが設置された。世良は、そのサーバーと複数のパソコンに埋もれるようにして働いた。
入社当初は世良が高間に質問をしてくることもあったが、徐々にそれはなくなっていった。
世良は、AIを学ぶうちに習得した英語と、インターネットとを駆使して、世界中からモータースポーツにおけるAIの活用についての情報を集め始めた。
ドライバーである杉山と世良の相性について高間は懸念していたが、杞憂に終わった。杉山は人付き合いが器用なほうではなかったが、なぜか世良とは話が合ったようで、次第に世良のプレハブに立ち寄ることが増えた。
二人は仲が良いという訳ではなかった。
杉山は速さを、世良はAIを、それぞれに極めようとする求道者同士として、知見を深めあっている関係のように、高間には見えた。
そんな二人を見て、高間は、今回の世良の採用は成功だと思っていた。
しかし、世良が入社して半年がたった頃、その評価を揺るがす出来事が起きた。




