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第13話 才能という名の仕打ち

 それは、ある週末の練習走行の時だった。杉山と美琴のホームコースである永島所有のコースで、二人は走っていた。


 周回を重ねるうちに、ハンドルを握る美琴も、ピットからその様子を見ていた真中も、同じ疑問を持っていた。

 杉山と美琴のタイムに大きな差はないのだが、コーナーでは明らかに杉山の車が速いのだ。


 普段の練習では、杉山の側には永島がいることが多かったが、その日、永島は不在であった。

 チャンスとばかりに、真中は杉山に、美琴のカートをテストして欲しいと頼んだ。


 壊したら嫌だからと杉山は拒否していたが、もしもの時は責任を取るので三周だけと、真中は拝み倒し、杉山は渋々承諾して美琴のカートに乗り込んだ。

 

 杉山が一周目を走り終えたとき、真中は自身の軽率さを悔いることになった。


 真中は、杉山のマシンのエンジンが相当古く、直線のスピードがかなり遅いということを知らなかったのだ。 

 杉山が操作するカートは、美琴が運転している時と比較すると、まるで別物のようなスピードでコーナーを旋回していた。


 三周の走りを終えて、杉山は美琴よりも約一秒速いタイムを出していた。

 カートから降りた杉山は、真中と美琴に、セッティングは大きく変えなくても良いのではないかと一言だけ告げ、タイムを気にすることもなく自分のカートに戻っていった。


 美琴はしばらく呆然とした表情で自分のカートを見ていた。


 美琴は乗ってすぐにタイムを出せるタイプではなかった。

 良いタイムが出せない理由を探し、時に走り方を、時にセッティングを変えながら、美琴なりに精一杯の努力を続けてきた。


 その努力を、経験の浅い同い年の少年に、たったの三周でズタズタにされてしまった。


 一周500mのコースで一秒もの大差をつけられた美琴は、その日、集中して走ることができなくなり、危険を感じた真中は、美琴と共に早々にコースを後にすることになった。

 

 才能があるということは、時に他者に対して残酷な仕打ちとなることがある。

 才能が努力を打ち砕くことは、どこの世界にもあることだが、特にレースの場合は、タイムという明確な指標がそれをはっきりと示してしまう。


 自分のうかつな杉山への依頼で美琴は深く落ち込み、様々な感情と戦っていることであろう。

 ただ、それも含めてレースなのだと、真中は思っていた。

 

 美琴はその後、積極的に杉山にアドバイスを求めるようになっていった。

 負けず嫌いな性格の美琴が、ライバル視していた杉山に教えを請う姿を見て、真中は美琴にモータースポーツをやらせて良かったと心から思った。


 勝ち負けがはっきりしても、人生は続いていく。勝ってから、そして負けてからどう生きていくのかが重要なのだ。

 杉山との出会いは、美琴にとって成長の礎になると、真中は思った。


 ちょうどその頃、美琴の体に小さな不調が起きていた。


 右足が時折痺れるという症状だった。

 最初は三、四日に一度の頻度であったが、次第に常時痺れを感じるようになっていった。


 自宅の近所にあるクリニックで診察を受けたところ、大学病院を紹介され、至急で受診することになった。


 診断結果は、脊髄腫瘍だった。


 それも脊髄の中に腫瘍ができるタイプのもので、完治には、難易度が高く、リスクを伴う手術が必要であった。

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