14話 紅月
声を潜めて周囲を窺う。まだテントにぶつかって来たりしないのは見慣れないテントを警戒しているからだろう。
リオンとグンマを起こそうとしていると突然テントが揺れた。警戒をやめ、攻撃してきているようだ。この簡易的なテントではそう長くは持たないだろう。このままでは寝ているリオンとグンマにモンスターが襲いかかるという最悪の状況は避けられない。
起こそうにも、この2人、特にリオンの寝起きの悪さは冗談かと思うほどだ。そんな時間はない。外に出て戦おうとマークに目配せする。その意を汲み取ってくれたらしく、マークは大剣を携え、テントから出る。
少し経って安全だと判断し私もテントを出る。周りを見ると奇妙な光景だった。体を起こしこちらを睨みつけている硬そうな殻に覆われた蛇。飛びかかる隙を窺うこれまた殻に覆われた大きなトカゲ。その全てが紅かった。否、紅い光に照らされていた。
空を見上げて気づいた。月が紅かったのだ。
「月が…紅い…」
予想外の出来事に唖然とする。飛びかかってきたトカゲの牙とマークの大剣がぶつかり合う甲高い音で我に返る。
「ぼーっとしてる場合じゃないだろ!」
「ごっごめんっ!」
詠唱を始めようとしたその時、蛇がテントに噛み付いているのに気がついた。テントの布は今にも破れそうになっている。
猛りし炎よ以て総てを焦がし尽くしたまえ
咄嗟に第一階梯、火炎を放つ。テントに当たらないように蛇の胴体を狙う。殻に覆われた蛇に大してダメージを負わせることはできなかったが、とりあえず怯ませることには成功した。
「マーク、これテントを守りながら戦うのきつくない!?」
どうにも気を配りながら戦うというのは苦手だ。
「あぁもう!ユイがいたら結界張れたのに!」
マークの言うことももっともだ。こと「守りながら戦う」ことに関しては結界ほど便利なものはない。
そは熱を奪い温もりを捨つ死の象徴
美の極致たる氷よ 出で来よ
超高速でトカゲに襲いかかった冷気の槍は今にも私に襲いかかろうとしていたトカゲの足を貫き周りの地面もろとも凍りつかせた。第2階梯の氷穿だ。
「そうだ!」
それを見たマークが叫んだ。
「これだったらいけるかも…」
マークから作戦を聞く。
「それ…ちょっと危なくない?」
不安に感じて尋ねる。
「だから頑張って威力を制限して」
無茶なようだが、それしか無さそうだ。
「じゃあ詠唱の間守っててね?」
「任せといて!」
それを聞いて詠唱を始める。
そは熱を奪い温もりを捨つ死の象徴
そは柔を奪い動を捨つ静の象徴
美の極致たる氷よ出で来よ
第三階梯、氷波を放つ。以前とは違い、練習したのでちゃんと制御が効く。極低温が波のように広がり…そしてテントを包み込んだ。
これが作戦。テントを凍らせて守らなくて済むようにしたのだ。リオンもグンマも魔力を持っているため、冷気という形で魔力を受ければ寝ていても体内の魔力が反応して身を守ってくれる。威力は思いっきり下げていたので耐えきれるはずだ。とはいえあまり放置はできない。だからできるだけ短期決戦をする必要がある。
トカゲと戦っているマークのその後ろに蛇が忍び寄っている。すかさず無詠唱の火炎で牽制する。が、殻は耐熱にも優れているのか、大して効いてない。するとトカゲが私の方に火を吹いてきた。
「危ない!」
大剣を盾代わりにしたマークにかばわれて助かった。
「このままじゃ埒があかないな…」
マークの言うとおりだ。確かに今は私とマークで互いの隙をかばい合って戦えているし、このまま続ければいずれは勝てるだろう。だがテントを凍らせてしまっている以上長期戦はできない。
「…グンマが起きれば回復はできる…よね?」
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