↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バッカナーレ  作者: 1さん
二人目
25/33

25 レミナ2

 いったい木人様に何が起こったのか、こんな時どうすれば良いのか。あまりに想定外な事態に私は頭を抱えてしまった。父を横目で見てもなにか助言をくれる様子は無い。この場は私が仕切るしかないのだ。

 頭を整理し、最優先で成すべき事を順序だてよう。

 まず、木人様は我々森族の都合でこの場にお見えになったわけではない。木人様の都合でこの場にお見えになり、その副次として我々の都合を行っていただくのだ。そう、ならば私がいま成すべき事は極めて予定通りに事を進めることだ。予定通りに事を進め、我々の都合の時に質問をすればよいだけだ。

 率いてきた兵を先に帰らせ、典礼兵とともに木人様を先導して集落へと向かう。


 集落の境界線の内側に木人様が入られると、鐘が鳴らされた。

 カーン、カーン……、

 高く響く音に導かれて神霊樹へと向かう。この時ばかりは木人の散歩道を立ち入り禁止区域にしていたことに感謝した。もしこの木人様の姿で大通りを歩いた場合を想定すると、パニックになるのは目に見えている。

 先に帰らせた兵により民衆へは既に通知が行われていたが、それでも木人様が神霊樹の前へと姿を見せるとざわめきが広がった。

 ざわめきがひどくなりそうになったところで手を上げ視線を集める。

 「木人様である。」

 簡潔に一言だけ告げ、私も平伏し民衆の一部へとなる。私の声を聞いてざわめきが収まり静かになっていく。本来であれば声を漏らすことは不敬に当たるが、今回ばかりは仕方があるまい。私に続いて四方の族長と父上も平伏していく。横目でヴェント族長を見ると、彼も目を丸くしてぽかんと口を開けていた。

 無理も無い。しかしこれでヴェント族長が企んでいた訳ではないと証明された。いや、そもそも木人様にこのようなことをすれば集落が消し飛ばされてもおかしくは無いのだ。気に食わないがヴェント族長は頭が回る、こんな無謀なことはするわけがない。

 木人様は歩みを進め、神霊樹へと到達された。



 それから木人様は動かなくなられた。我々も微動だにしない。木人様が神霊樹と何をされているのか知る者はいない。木人様も答えられることは無い。――神霊樹から力を吸っているのだとも、――ただ会話をされているのだとも、――去られた神様を名残惜しんでいるのだとも、噂に満たぬいくつもの眉唾話が囁かれているだけだ。


 「う~ん……。」

 数十分かあるいは数時間か、あまり長くも無い時間が経って、それが聞こえてきた。

 声を上げたのは誰かと周りを見渡す。誰もが目で自分ではないと言っている。なら、だれが。

 ガサ、ガササ、

 葉を掻き分ける音が、目の前の木人様から聞こえてくる。

 「…………。」

 息を呑んで見守る。

 ガサッ、

 木人様の中から、黒いものが突き出してきた。それはうねっと動いて、木人様の体をつかんだ。小さな、手だった。そう認識すると同時に、それよりも大きい、といっても小さい、黒く汚いものが出てきた。黒いものはしばらく左右に体を動かしている。


 どうする。どうしたらいい? あれはなんだ、木人様に触れ得る者とはなんだ。

 誰もが固まっている。前例が無いゆえに、誰もが動けない。

 私は意を決して立ち上がった。どうすればいいのかは分からなかったが、フィーレスの族長代理として動かねばならなかった。

 そして、僅かに剣がずれて鍔音が鳴り、その音を聞きつけた黒いものがぐるりと振り向いた。


 黒い中に蒼い双眸が瞬いて、それが人の子なのだと気がついた。



 人の子はしばらく茫然とこちらを眺め、ぽつりと呟いた。

 「エルフ……」

 「エルフ?」

 聞かない単語だ。こちらを指し示す言葉であることは想像がつくが、神言語にない単語に疑問を覚える。単なる人の子の造語なのか、――あるいは未開の言語なのか。

 だが人の子は黙ってしまう。まさか本当に神言語を使えないのだろうか?


 子供はぐるりと向きを変えて木人様の中へ戻って行った。人の数に圧倒された可能性もある。


 しばらくして子供がまた出てきた。

 今度は何をするつもりだ?


 子供はそのまま神霊樹へと近づき、手を付き、――そして目にもとまらぬ速さで登って行った。私は呆気にとられて見逃してしまう。



 「あの子供は何と見るか?」

 子供が神霊樹を登りしばらくたち、横から父上に声をかけられた。

 「該当するのは一人しかありますまい。例のエレアオーレ王国から通達のあった子供に間違いないかと。」

 「そうではない。……木人様から出てきて、神霊樹に触れえる者とは何なのだろうな。」

 「それこそ、そう(・・)なのではないのですか?」

 「いや、あれ(・・)はそういったたぐいのものではないはずだ。」

 「…………」

 「我々森族としてはどうするべきかな。」

 「ただ子供が現れただけならば、王国との協定通りに殺してしまえばよかったのですが。」

 視線を木人様へと向ける。

 「そうもいかないでしょう。木人様がどうなさるのか、どういった意図でここまで連れてこられたのか。それがはっきりしないことには……」

 「そうよな。」

 父上はやれやれといった風でため息をついた。

 「なんにせよ。これから難儀することは目に見えておるわ。」


 父の言葉を待っていたように、"語らい"を終えられたのか木人様がこちらへと振り向いた。私は礼を正して木人様へと向き直る。

 しかし木人様は私へとお声をかけられず、上を見られた。つられて上を見て、

 『娘よ。』

 木人様が上の方へと声をかけられた。重低音が集落へと響き渡り、それに遅れて上から子供が降ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。