13 王座
命乞いをする森族の王の横をすり抜け、眼前の敵へと踏み込んでいく。弱弱しく振り下ろされた剣は私の肩口を捉えていたが、今さらそんなものを防御する必要性など感じなかった。敵の剣が右の肩口へ食い込んだが、所詮はそこまでだ。剣は布をこそ切り抜いたもの、肌を傷つけるに至らない。そのまま、さらに踏み込んでいく。肌の上を刺々しい刃が滑り、剣を押し上げていく。――そうして、たった一枚の刃越しに、お互いの鼓動さえ伝わってくるほどに触れあった。
敵の、赤い瞳の中へ私を映しこむ。
私を映している赤々しいルビーにほんの少し見惚れたのは、敵が、今までにない穏やかな表情を浮かべたせいだろうか。
剣越しに押し返すようにもう一歩踏み込めば、敵はバランスを崩して仰け反った。それでもう、私の刃は届く。
露わになっている白い首筋へ向かって、ナイフを振りぬいた。
一人目の、ウィルのことを思い出す。殺したくなかった、殺されたくなかった、だから殺した。言い訳の自問自答を何度も繰り返し、今でも私は悪くなかったと思っていたい。だけどそれを肯定してくれる人は誰もいない。それどころか正面から敵討ちが現れてしまった。憎しみの眼差しに射抜かれ、お前は間違っている、お前が死ぬべきだったと言われてしまえば、その言葉は何よりも胸に突き刺さり、少しずつ心を削いでいった。
答えを出さなくてはいけない。完璧なものを得ないまま、不完全でも、それでも今ここで答えを出さなくてはいけない。そうしなければ、先に進むことは出来ない。
結局、誰よりも私を許さないのは自分自身なのかもしれないな。
だが、こいつは違う。考える時間はいくらでもあった。殺さないで済む道もある。それでも、こいつは殺すべきだ。どろどろとした感情だけが残る結果となっても、それでも皆が前に進むためには、こいつが死ななくてはならない。
白い大理石の上に、赤い雨が降り注いでいた。足元に転がっている生首は、最期に見せた穏やか表情のままだった。どこか笑っているような、眠るように閉じた瞼が動くことはもう無い。
王座から、カラン、と主のいなくなった弓が乾いた音を立てて転がる。足蹴にされた若き人族の王は結局一度も微動だにしなかった。まっすぐに私を見つめる青い瞳に気がつくと、少し心臓がドクン、と動いた。それを遮るように、面子を潰された親衛隊が若き王を守ろうと囲ったが、全てが終わった今となってはもう何の意味も無い。
ペチャ、
足元から聞こえる音に誘われて視線を動かせば、森族の老いた王が生首へと手を伸ばしていた。両の手でしっかりと首を抱え、胸まで手繰り寄せた老いた王は、周りから隠すように抱き込んで丸まった。
一滴の涙が血溜まりの上へと落ちていき、ほんの少し血は薄くなったが、溢れ続ける血によって押し流されていった。老いた王の慟哭が、王座の間にしばらく響いていた。
これからどうするべきだろう。
異変に気がついた城の兵士が王座の間へ続々と乗り込んで来ている。脱出は難しいかもしれない。いつしか数え切れないほどの白刃に取り囲まれていた。
――誰かがポツリと呟いた。
「悪魔……」




