表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラ医ム先生の診療録  作者: 野生のイエネコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/11

8

「大動脈瘤をどうにかする方法を考えないといけませんね」

「そうですねぇ。スライムでは血管の中が見えませんし、うまく操るのも難しいでしょう」


 リンの周りをスライム達が跳ね回り、唸る二人に『どうしたの?』と言いたげにぽよぽよしている。


「異界の医術書では、ホウシャセンというものを使って、血管を透かしみながら大動脈瘤の治療をするようなのですが」

「そのホウシャセンというのを再現するのは難しそうなのですよね」

「えぇ。光魔法で再現できないかと思ったのですが、ソラリス殿によると、やはり難しいと」


 うーんと唸りながら二人は考え込む。


 一方で、アルテリアの方は日に日に元気になっていた。頭痛やめまいなどの症状も治り、そのおかげか食欲も出てきたようで、痩せ細った体は少しずつ肉付きが良くなってきていた。


「お父様! そろそろお外に出てもいいでしょう!? だってこんなに調子がいいんですもの!」

「まだだめだ! そんなに痩せ細った体で、転びでもしたらどうする!」


 そんな親子の言い争いがヴァスキュール侯爵邸で繰り広げられるくらいには、アルテリアも回復していた。


 そんな、穏やかな日々が続いていたある日のこと。


「痛い! 痛い痛い痛い! な、なんなの、これ。うぅ……」


 夕食の席で、突然アルテリアが胸を痛がりだした。


「アルテリア!? どうした、アルテリア!?」


 ヴァスキュール侯爵が、皿をひっくり返して立ち上がる。アルテリアは悶絶しながら椅子から転げ落ち、床の上でうめいている。


「アルテリアお嬢様! 今、どのような症状が!? 胸が痛いのですか!?」


 慌ててヴィクターもアルテリアの元に赴き、症状を確認し始めた。


「まずいな……これは……」

「どういうことですか、ヴィクター殿。アルテリアは一体どうなってしまっているのですか!?」


 青ざめた顔で呟くヴィクターに、ヴァスキュール侯爵が迫る。


「考えられる一番の可能性は、大動脈瘤の切迫破裂……。いますぐに『かてーてる治療』を行わなければ命に関わるかもしれません」


 大動脈瘤の切迫破裂——、それは大動脈にできた瘤が破れかかっていることを示していた。そうなれば、体内で大量の出血を起こし、救命することは困難になる。

 

 その時、ヴィクターが肌身離さず持っている異界の医術書が光り輝いた。正しい診断に辿り着いた時、この異界の医術書は光を放つ。


 それは、大動脈瘤の切迫破裂が、実際に起こっていることを指し示していた。


「だが、スライムカテーテル治療の技術はまだ研究段階……。これでは救命することも難しい……」

「なんだと! アルテリアは助からないのか!? 頼む、報酬ならいくらでも出す。だからアルテリアを、アルテリアを……!」

「ヴィクター様、私、やってみます。スライムをなんとか操って、大動脈瘤の破裂を止めてみせます!」

「リン……。やってみますか。いえ、やるしかない!」


 二人はアルテリアを彼女の部屋へと運ぶ。未婚の令嬢にとって厳しいことに、スライムカテーテルによる大動脈瘤の治療は、太ももの血管からスライムを挿入することを必要とした。

 当然、スカートは捲り上げられ、霰もない姿を晒すことになる。


「そ、そんな! アルテリアはまだ未婚の娘なのだ!」


 ヴィクターの説明に、侯爵は抗議の声を上げるが、命には変えられないと説得され、最終的には引き下がった。


 二人はナイフとアルテリアの体に清浄魔法をかけると、鼠径部(そけいぶ)にナイフを入れ、大腿(だいたい)動脈を露出させる。そして、血管に針を刺し、スライムをその中へと、挿入していった。


 リンは慎重にスライムを操り、血管を上行して心臓の近くの大動脈まで進めていく。

 しかし。


「だめ! 見えない!」

 

 血管の様子が見えないため、スライムがどこまで進んだか分からず、それ以上操ることができなくなっていた。


 その間にも、アルテリアは痛みで呻き声をあげて、暴れようとするのを女性の使用人達に押さえつけられている。その姿を見ていられないのか、侯爵はそっと目を逸らした。


「頼む! どうかアルテリアを……!」


 侯爵の声に、必死で応えようと目を閉じてリンは祈るようなポーズでスライムを操る。

 すると突然、リンの視界が真っ黒に染まった。


「な、なに!?」


 ごう、ごうと濁流の流れるような音が耳に響く。


 『感覚共有』


 それは、成熟した一流のテイマーがテイムモンスターとの感覚を共有し、その視覚や聴覚などを感じ取ることができる、その技能が、リンの中に芽生えていた。


「嘘、これが……感覚共有……?」

「リン、リン、どうしたのですか!?」

「ヴィクター様、私、感覚共有のスキルが使えるようになりました! これで、血管の中も見えます!」


 スライムは光ではなく魔力の反射によって視覚を機能させていると言われている。そのためか、光なき血管の中でも、その構造がしっかり見ることができた。


 そうしてスライムを操り、血管を上行していくにつれて、ついに大きな瘤が血管壁にできているのを発見する。


「っここだ!」


 リンは、瘤の先までスライムを進めると、筒状にスライムを変形させ、血管壁に密着させる。そして、スライムの先端を切断した。


 筒状のもので血管の内壁を包み込むことにより、瘤に血液が流入しないようにする。これはそういう治療だった。異界の医術書では『すてんと』と呼ばれる方法だ。


 スライムを逆行させて鼠径部から引き抜き、圧迫して止血を行う。


 アルテリアは痛みで暴れるのに疲れたのか、意識を失っていた。

 その体は、脂汗でぐっしょりと濡れている。


「治療は、終わった……のか?」


 ヴァスキュール侯爵が、疲れた様子で呟く。


「はい。できることは行いました。あとはアルテリア様の目覚めを待つしか……」


 幸いにも、感覚共有でリンが見たかぎり、大動脈瘤は破裂はしていなかった。拡大して、破裂しかかっていただけだ。それはすなわち、体内では出血は起きていないということである。

 そして、スライムの筒によって血管の内壁を塞いだ今、瘤に血液が流れ込むことはなく、徐々に大動脈瘤は小さくなることが予想された。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ