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スラ医ム先生の診療録  作者: 野生のイエネコ


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7

 ヴィクターは、自己免疫疾患についての説明をテネブロス伯爵に噛み砕いて話していく。


「アルテリアお嬢様の病気は、光魔法による免疫の活性化で悪化するものです。逆に考えれば、闇魔法で免疫を鎮静することができれば、治療になるのではないかと」

「ふむ、非常に興味深いな。なにせ、闇魔法は人の能力を下げる厭らしい魔法ばかりで忌み嫌われておるから、闇魔法で病気が治るとなれば、闇魔法の地位向上にもつながる」


 リンは、闇魔法が蔑まれていることを初めて知った。テイマーの村ではどれだけ強いモンスターをテイムできるかが全てだったため、魔法についての知識は疎かったのだ。


「よし、闇魔法について持ちうる限りの知識を授けよう。そして、ともに免疫を鎮静する魔法について、研究しようではないか!」


 テネブロス伯爵は、少し興奮した様子で答える。協力関係については、熱心に取り組んでもらえそうだった。


 それから、テネブロス伯爵邸に逗留しての闇魔法研究がはじまった。

 古今東西の魔導書を参照しながら、免疫を抑えるような魔法に使えそうなものはないか調べていく。


 しかし、なかなか病気の治療に闇魔法を使うという発想はないらしく、研究は暗礁に乗り上げていた。


「うーん、……あ」


 闇魔法の魔導書を読んでいたリンは、ふとアイディアを思いつく。だが、闇魔法の達人であるテネブロス伯爵に進言するのは少し躊躇われて、傍にいたヴィクターの服の裾をちょいちょいと引いた。


「ん? どうしました、リン」

「あの……。光魔法の治癒術と反対の闇魔法を研究するなら、光魔法の治癒術の方も研究してみるのはどうでしょう」

「……! 確かにその通りだ! リン、いい発想ですよ。……ですが、私は光魔法が使えないのです。うぅん、テネブロス伯爵も闇魔法に特化しておられますし」

「何かあったのか?」


 二人で話していると、少し離れたところで魔導書を読んでいたテネブロス伯爵が声をかけてくる。


「それがですね、リンが治癒術の反対魔法を研究するなら、光魔法の治癒術の方も調べてみれば良い知見が得られるのではないかと……」

「ほう! それは面白い発想だ。良いだろう。伝手を辿って、光魔法の使い手を探そう」


 そうしてテネブロス伯爵により、光魔法の使い手探しが始まって数日。テネブロス伯爵家には、かつて聖教会で勤めていたという魔術医の老人が訪れていた。


「ほっほっほ。聖教会はやり口が肌に合わんゆえ辞めたが、光魔法の治癒術ならまだまだ現役じゃよ。何やら面白いことをやっとるようだのう。わしにも一枚噛ませてもらおうかの」


 ソラリスというその老人は、楽しげに笑うと、ヴィクターに話を促しアルテリアの病気について聞き出した。


「なるほど。体が外敵と戦うメンエキなるものが暴走して病気を起こしていると。そして、光魔法の治癒術はそのメンエキをさらに暴走させてしまうというわけですな。ほっほ、確かにそれは治癒術では治せぬであろう」


 そうして、ソラリスの助けを得ながら闇魔法を研究していき、ついに免疫を抑える闇魔法の鎮静術が完成した。


「これなら……!」

「ああ、素晴らしい。これでうまくいけば、闇魔法の地位向上も叶うというものだ。ヴィクター殿とリン殿には感謝申し上げたい」

「いいえ、こちらこそご協力ありがとうございました。これでアルテリアお嬢様をお助けすることができます」

「ほっほ。わしも着いていって良いかのう。そなたらの異界の医術には興味があるのじゃ」

「ええ、ソラリス様もぜひ」


 そうして旅の供は行きの道より一人増え、賑やかになった道中はあっという間に過ぎていった。


「おお、ヴィクター殿、テネブロス伯爵家はどうだった。アルテリアの治療法は見つかっただろうか?」

「ええ、これならばという魔法を開発することができました。こちらは元聖教会の魔術医であるソラリス殿です。光魔法の反対魔法を研究するのに協力していただきました」

「なるほど! 光魔法を研究することで闇魔法も開発するということか。素晴らしい」


 ソラリスを紹介し、早速、屋敷奥のアルテリアの部屋へと赴く。


「治療法が見つかったの!?」

「ええ、これならばという魔法を開発いたしました。闇魔法の鎮静術——光魔法の治癒術の反対の作用をもつ魔法です」

「光魔法の反対……。そう、あれで症状が悪化してしまうから、その反対で治療をしようというのね」


 アルテリアは聡明で、ちょっとした説明からもあっという間に状況を把握してしまった。しかしその気丈な様子とは裏腹に、痩せ細った体に、面やつれした顔色は悪い。

 ヴィクター達がテネブロス伯爵家へ出立する前よりも、さらに病状は進行しているようだった。


「それでは、早速闇魔法をかけさせていただきます」


 ヴィクターがアルテリアに向かって手をかざし、魔力で闇魔法の魔法陣を描いていく。そうして、魔法陣が完成した時、ゆったりと柔らかな闇が魔法陣から吹き出し、アルテリアの体を包み込んだ。


「ん……。あら? 頭痛が良くなってきたわ」

「この魔法は毎日かける必要がありますが、かけ続ければ徐々に症状も改善していくはずです。いずれはヴァスキュール侯爵家お抱えの魔術師に魔法陣を伝授させていただきます」

「ええ。ありがとう。なんだか眠たいわ」

「この魔法の副作用には眠気があります。無理をせずにお休みになってください」


 治療がひと段落つき、最初は頑なだったアルテリアも、穏やかな微笑みを浮かべていた。


 しかし、その嗄れた声は治っていない。


 笑顔の面々をよそに、大動脈瘤は徐々に大きくなり、その破裂の時を刻一刻と待っていたのだった。

 


 

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