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スラ医ム先生の診療録  作者: 野生のイエネコ


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 炎症を抑える薬、もしくは魔法の開発を優先することになり、二人は異界の医術書を片手に領都の図書館へと向かった。この世界の薬や魔法で、『すてろいど』を再現できないか、調べるためだ。


「ヴィクター様、すてろいどとは、どういうお薬なのですか?」

「ステロイドというのは、体の中にある、『炎症を鎮める力』を薬にしたものです」


 ヴィクターはリンにもわかりやすいように、噛み砕いて説明する。


「アルテリアお嬢様の病気は、体を守る兵士——免疫細胞が、誤って自分の血管を攻撃してしまっている状態です。ステロイドは、その暴走した兵士たちを強制的に落ち着かせる薬なんです」

「つまり、暴れている兵士を眠らせるような?」

「そうですね。ただし、全ての兵士を眠らせてしまうと、外敵と戦う力がなくなってしまいます。だからこそ、慎重に使われるお薬なのです」


 だが、そのステロイドもこの世界で再現できなければ意味がない。なんとか体の免疫細胞を鎮める薬や魔法がないかと、二人は図書館で調べを進めていく。


 リンは治癒魔法の本を手に取って、調べを進めていた。

 

「それにしても、光魔法の治癒術で症状が悪化してしまったのは不思議ですね。免疫細胞が活性化されてしまったのでしょうか」

「……それだ! それですよ、リン! 素晴らしい知見だ。もしかしたら、これで活路が開けるかもしれない」


 ヴィクターは興奮した様子でリンの肩を掴み、リンが痛みで顔を顰めると慌てて手を離した。


「リン、光魔法の治癒術は、感冒などに有効な治療法です。つまり、外敵と戦う兵士を活性化しているのだと思います。——ならば、その逆……。闇魔法の鎮静術が開発できれば、免疫細胞を抑えることができるのではないでしょうか?」

「そっか、光魔法の逆をやればいいなら、闇魔法が一番ですもんね!」

「リン、理解が早いですね。あなたは優秀な弟子です」


 ヴィクターはリンの頭をわしゃわしゃと撫でる。それに対して、リンは照れ臭くなってしまい、によによと緩みそうになる口元を引き締めた。


「闇魔法なら私は使うことができます。リン、闇魔法について記載された本を調べていきましょう」

「はい!」


 そうして夕方まで調べ尽くした二人は、少しだけ闇魔法に造詣が深くなった状態でヴァスキュール侯爵邸に帰宅した。


「治療方法を探る方針も決まりました。もう一度、お嬢様に面会を願ってみましょうか」

「そうですね。今度は受け入れてくださるといいのですが」


 もう一度、アルテリアの元へ赴く。父からよく言い含められたのか、今度のアルテリアはいきなり退去を願うようなことはなかった。


「タカヤス動脈炎……。そう、私の病気はそんな名前なのね。それで、名前がわかったのはいいけれど、治療法はないのかしら?」

「現在調べているところです。光魔法の治癒術で症状が悪化するのであれば、その逆、闇魔法で症状を鎮静させるような方法もあるのではないかと考察しています」

「闇魔法——。それなら、テネブロス伯爵家を訪問するのはどうかしら? あの家は闇魔法に造詣が深いの」

「なんと! それならばお嬢様の炎症を抑える治療法も見つかるかもしれません」


 図書館で調べるのには、やはり限界があった。闇魔法の使い手に教えを乞うことができれば、解決策も見出せるかもしれない。


「では、お父様にテネブロス伯爵家へ紹介状を書くようお願いしてみるわ」


 症状の原因がわかったためか、アルテリアの表情は明るかった。以前と異なり、ヴィクターたちにも協力的である。


 早速紹介状を携えた二人は、テネブロス伯爵家へ向かって馬車で旅をすることにした。


「あっちこっちへ放浪の生活で、疲れてはいませんか?」

「大丈夫です! 村にいた時より、ずっといいです。私、あの村ではいらない子だったから……」

「リン……」


 ヴィクターがリンの頭をそっと撫でる。

 リンは今、幸福だった。ずっと不要な存在として村では無視され、時には虐げられていたのに、今では必要としてくれる人がいる。ドワーフの国では、リンの力によって人の命を救うこともできた。


 スライムたちは、幸せそうなリンの周囲を、嬉しそうに跳ね回っている。


 旅は穏やかに過ぎ、テネブロス伯爵領へと到着する。

 伯爵邸は、ヴァスキュール侯爵邸と比べればこぢんまりとしていたが、それでも立派な門構えだった。


 門番の男に、ヴァスキュール侯爵からの紹介状を手渡す。


「ヴァスキュール侯爵からの紹介状!? いますぐ取次いたします。少々お待ちを」


 門番は驚きで飛び上がるようにして、玄関の中へと消えていった。

 すぐに玄関の扉は再び開き、中から執事らしき男が出てくる。


「ヴィクター様、リン様、ご案内いたします」

「ありがとうございます」


 テネブロス伯爵邸は、闇魔法の使い手に相応しく重厚な作りの家だった。壁には肖像画がかかり、床には深い赤色の絨毯が敷かれている。


 応接間へと案内され、ソファに腰掛けると、まもなくテネブロス伯爵が現れた。


「本日はお会いいただきありがとうございます」

「ありがとうございます」


 立ち上がって挨拶をしたヴィクターに習い、リンもお辞儀をする。

 まだ幼いながらにしっかりした様子のリンを見て、テネブロス伯爵は口元を緩めた。


「話は紹介状を読んで多少は把握しているが、詳細を聞かせてもらえるかね。アルテリアさんのご病気に関することだと伺っているが」

「はい、ご説明させていただきます」

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