表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スラ医ム先生の診療録  作者: 野生のイエネコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/24

21

「ようやく来たか」


 そこには、半円状の卓にずらりと並んで男たちが座っていた。主には年齢を重ねた権力者然とした者たちで、その迫力にリンの背筋は冷える。


「これよりそなたらの審問を始める」


 半円卓の中央に座る老人が、重々しく口を開いた。


「そなたらは光魔法の治癒術が使えないにも関わらず医術師を名乗り、治療という名目で金稼ぎをしているようだな。その上、スライムを体の中に挿入するなどのおぞましい行為にまで手をつけていると聞く、何か申し開きはあるか」


 ひどく嫌悪感の滲む声で、スライム点滴について男は語った。

 その様子に、リンは衝撃を受ける。モンスターを体内に入れるというのは、確かに人によっては嫌悪感を抱くかもしれない。そのことに初めて気づいたのだ。

 リンにとってはずっと、スライムは友達だった。スライムを抱っこして寝ることもあったし、スライムと果物を分け合って食べることもあった。

 だからこそ、スライム点滴が人にあたえる印象というものを、把握しきれていなかったのである。


「お言葉ですが、医術師を名乗るのに光魔法を使えることが必須という法はございません。実際に我々は光魔法では治療できなかったヴァスキュール侯爵家のご令嬢を、闇魔法を応用することで治療を行なっています。病気の状態によって必要な治療は異なってきます。それに、光魔法が使えることが必要なのであれば、我が医院には光魔法の治癒術を使える医術師が在籍しています」


 ソラリスはもちろん、リンもまたソラリスの指導により少しなら光魔法が使えるようになっていた。


 しかし、魔術医の老人には響かない。

 

「屁理屈を……」


 老人は不愉快そうに眉を顰めた。

 

「それならば、スライムを体内に入れるというおぞましい行為はなんとする。モンスターを体内に入れるなど、倫理的に許されるはずもない」

「それもきちんとした治療です。実際に、その治療方法を使わなければヴァスキュール侯爵のご令嬢を救うことができませんでした。他にも、()()()()()()()赴いた、バーリ村での赤痢を救ったのも、スライム点滴によるものです。ところで、なぜバーリ村で赤痢の大流行が起きた際、聖教会の魔術医殿は一人も赴かなかったのでしょうか?」

「ふざけたことをほざくな! 我々は貴様らのような暇人とは違い、さまざまな仕事を抱えておるのだ!」


 ヴィクターの痛烈な言葉に、魔術医たちは怒りを露わにする。図星を指されたのだろう男たちは、気まずそうに目を逸らすもの、不快感を露わにするもの、努めて無表情を保つものなど、色々いた。

 ヴィクターは、気まずそうに視線を逸らした者が、まだ良心を保っているものと看做してか、彼に語りかけるようにゆっくりと話す。


「我々は、命の危険もある中でバーリ村の治療活動に勤しみました。……私が、ブルームフィールド村の出身だからです」


 その言葉に、ひゅ、と誰かが息を呑んだ。

 リンは、聞き覚えのない村の名前に、首を傾げる。


「二十年前、ブルームフィールド村は疫病に見舞われた。バーリ村と同じように、何度も聖教会に助けを求めていました。でも、誰も来なかった。バーリ村にとっての私たちのような存在は、現れなかった」


 静かに、それでいて迫力のある声で、ヴィクターは語る。


「私の両親も、祖父母も、弟も妹も、亡くなりました」


 その言葉は、しんと静まり返った会議室に、重く、重く、ヴィクターの声が降り積もる。


「そ、それは! 我々の知ったことではない! 二十年も前の話だろう」

「誰の責任かを問うているのではありません。長年続く聖教会の体質を問うているのです。過去のことだというならば、バーリ村にはなぜ魔術医が来なかったのですか」

「それは……」


 冷たく追求するヴィクターの言葉に、老人たちは何も答えられない。ブルームフィールド村が丸々滅びた件は、聖教会の醜聞として当時新聞にも書き立てられていたことだった。

 今更そんなことを掘り返されても、と半円卓の中心に座った男は不快感を露わにする。


「今はその話は関係ないだろう」

「関係あります。我々の理念は、どんな現場にもそこに病めるものがいるなら駆けつけるというものです。聖教会がそれをやらないなら、我がグレイモア医術院がやる。そのために立ち上げた医院です。それに文句をつけるなら、あなた方が疫病の蔓延する村に駆けつけるがいい!」


 ヴィクターは啖呵を切った。それに対して、中央の男は、ふむ、と顎を撫でた。


「なるほど。あくまで聖教会に楯突くか……。だが、面白い。そなたらは疫病の感染源に赴くと。ならば、そなたらが貧しき村の疫病に対応するがいい。我々に来た依頼は、そなたらに流そう。なにせこの聖教会の魔術医には、尊き身分の出身者が多いものでな。安易に貧しき者どものために危険地帯へ赴くわけにはいかんのだ」


 その言いぐさにヴィクターとリンは不快感を持つが、聖教会との対立における落とし所としては悪くない提案だった。

 貴族出身者も多く、貧しい村を救うために疫病の発生地域には赴きたくない聖教会の魔術医、そして、貧しい地域にでも赴き、人々の救命のために努めようと考えているグレイモア医術院。

 その二つの落とし所として、聖教会が行きたくない現場への派遣をヴィクターたちが担うというのは悪くない選択肢と言えた。


「我々としては構いませんよ。元々、頼まれなくても貧しい村に疫病が流行れば、駆けつけるつもりでしたから」

「はい、私も同じ気持ちです!」

 

 挑戦的な眼差しでヴィクターが答えるのに対して、リンも元気に追随する。


「では、そなたらを聖教会の『疫病派遣員』として認定する。これにより、そなたらの医術活動を認めるものとする」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ