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スラ医ム先生の診療録  作者: 野生のイエネコ


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18/21

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 医術院に帰ったファーマは、早速実験に取り掛かった。

 それをリンたちはそっと遠巻きに見守る。


「リン! スライムの粘液を出していただけませんこと?」

「あ、はい。いいですよ」


 ファーマはスライム使いであるリンを呼び、実験に協力を要請した。

 実験は夜半まで続き、リンもスライムもクタクタになってしまった。けれど、その成果もあり、抗菌魔法薬は一応の完成を見たのだった。


「これからはこれで、人型モンスターを仕入れてモンスター実験を繰り返すことになりますわ」

「はい。点滴が必要な時は言ってください。協力しますから!」


 ファーマによって、開発された抗菌魔法薬は、細菌の細胞壁を破壊する作用を持ち、スライム粘液によって安定化した。それをゴブリンなどによってモンスター実験を繰り返し、安全性の確認も済ませる。


「さあ、モンスター実験が終わったら、早速人体実験ですわ!」


 ファーマは、獣人族の奴隷の少女を買ってきていた。それを見て、リンは愕然とする。ファーマは研究狂いで少し冷酷なところもあったけれど、それもモンスターに対してのみのものだと思っていた。

 だが……。


「ファーマさん! 流石にそれは残酷すぎます! いくら奴隷だからって、人体実験をするなんて!」


 リンが抗議の声を上げるのに、ヴィクターもまた、渋面を作る。


「倫理的に問題があるのではないでしょうか」

「でも、抗菌魔法薬を作るには必要なことですわ」

「どうしても人体実験が必要なら、私がやります! だからこの女の子で実験だなんてしないで!」


 言い争うヴィクターたちを、獣人族の奴隷少女は不思議そうな目で見ていた。まるで、自分の身の安全を慮る人がいることが、不思議でしょうがないというように。

 その姿を見て、尚更リンは心を痛める。


 ——こんなこと、許されるはずがない! 獣人族は確かにこの国では差別されているけれど、同じ人間種族の仲間なのに!


 リンの村は、モンスターと心を通わせるだけあって、人間族以外の亜人に対しても寛容だった。リンの母親も、獣人族の冒険者と親しくしていた記憶がある。


「せっかく買ってきましたのに、使えないのではもったいないですわ!」


 ファーマが抵抗するのを、ヴィクターとリン、そしてソラリスが止める。


「それなら、医術院のお手伝いをしていただけばいいではないですか」

「仕方ないですわねぇ。じゃあ、わたくしの助手にして差し上げますわ!」


 ファーマは、獣人族に対する差別意識があるわけではなく、ただ単に研究のためなら手段を選ばない倫理観の欠如があるだけだった。助手にすると決めたらそれはそれで相手を尊重できるらしく、獣人族の少女は手伝い役として普通に扱われることになった。


「あなた、お名前は?」

「く、クレアです」

「そう、クレア。よろしくお願いいたしますわね。でも、人体実験はどういたしましょう」

「それなら、治験をするのはいかがでしょうか」

「治験?」


 来院した、抗菌魔法薬を適用するのにちょうどいい患者に対して、お金を払って実験に協力してもらう。


 仕事の一環として協力してもらう形であれば、奴隷に対して無理やり感染症を引き起こして薬の実験をするよりは倫理的である。

 すでに人型モンスターで安全性は確認されているため、リスクも少ない。

 

 そうして出来上がった抗菌魔法薬は、新たにグレイモア医術院で治験に使われるようになったのである。


 例えば——。


「子供の熱が下がらないのです。喉も痛がって食欲もないですし」


 八歳ぐらいの少年を連れた母親が、来院していた。

 

「ふむ、診察いたしましょう……。ああ、扁桃が腫れていますね。それに、首のリンパ節も腫れている。熱も高い。これは溶連菌感染症でしょう」


 その言葉を受けて、異界の医術書が光る。

 確定診断だ。


 溶連菌感染症には、センター・スコアという診断基準が存在する。発熱があり、なのに咳がない、そして、扁桃がはれて白い膿が付着していること、前頚部(ぜんけいぶ)のリンパ節に痛みを伴う腫大があることなどが判断基準である。

 この少年は、そのセンタースコアに、完全に当てはまる症状を持っていたのだ。


 これに対して、抗菌魔法薬の経口投与を一週間行うことになった。


「え、薬に加えてお金もいただけるのですか?」

「もちろん、危険性がゼロではありません。ですが、協力していただければ、その分多くの人を救うことにもなります。ぜひご協力をお願いしたいところです」

「こんないい話、お断りしませんよ! ぜひ、治験に参加させてください!」

「では、これをきちんと欠かさず飲んでくださいね。ですがもし皮疹や呼吸困難などの症状が出たら、すぐに飲むのをやめて、当院へ来院してください。

「わかりました。この抗菌魔法薬というものを毎日飲ませます」


 そうして抗菌魔法薬の安全性が実証され、普通に処方として使われるようになっていった。

 

 抗菌魔法薬が開発されてからというもの、光魔法の治癒術のみでは治療できなかった病も治療できるようになったのだ。


 しかし、そうなれば面白くないのは聖教会の魔術医たちである。

 グレイモア医術院は次第に評判を獲得し、光魔術よりも役に立つとまで言われるようになってきていた。


「警告……光魔法を使えないにも関わらず医術師を名乗るヴィクター・グレイモアは医療を行うべきではない……か」


 そのような手紙が投函されたのも、必然といえば必然であった。

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