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王都は、ヴァスキュール侯爵領の領都よりもなお活気があった。
往来にはひっきりなしに人が行き交い、大通り沿いに客引きが声を上げている。
石畳は綺麗に整備されていて、美しいモザイク模様を描いていた。
リンは、その発展ぶりに少し気圧される。
「さあ、リン、宿屋へ行きましょう」
足のすくむリンの手を引いて、ヴィクターは王都の大通りを進んでいく。
「ほっほ。王都は久しぶりじゃのう」
ソラリスは以前にも王都へ来たことがあるらしく、あちらの飲食店が美味しい、こちらの店は不味いのと、案内をしてくれる。
三人が泊まりに言っている宿屋は、それなりに豊かな人向けの店だった。
アルテリアの治療で得られた謝礼は莫大なものであり、それなりに治安なども考慮した宿屋選びができる程度の余裕はあった。
「ふぅぅ」
リンは、個室に入るとベッドの上に大の字になって転がった。これから三人でご飯を食べにいくところだが、長旅の疲れでなかなか起き上がる元気がなかった。
「医術院、かぁ」
これからヴィクターと共に医術院の立ち上げのために奔走することになる。まだ幼いリン、がどこまで役に立てるのか、そんな不安が胸に去来していた。
ずっと要らない子扱いされてきたリンは、必要とされることに対して極度に敏感だった。
必要ないと言われたらどうしよう、役に立てなかったらどうしよう、とそればかりが頭の中を支配する。
そんなことをぐるぐると考えていた時、リンの泊まる部屋のドアがノックされた。
「リン、いますか。そろそろ食事に行きますよ」
「は、はい! 今出ます、ヴィクター先生」
リンは、ベッドから飛び起きると簡単に身支度を整えて、宿屋の廊下に出た。
そこにはすっかり支度を整えたヴィクターとソラリスがいる。
三人は連れ立って王都の街へと繰り出すと、手近な食事処へと入っていく。
「美味しそうな匂いですね!」
リンの不安だった気持ちがふわりと消えて無くなるほどにいい匂いに、うっとりとする。
たっぷりと注文をして、運ばれてきた料理はそれはそれは美味しそうな匂いを放っていた。
照りのあるソースがとろりとかけられた鴨肉のローストに、子羊の煮込み料理、具沢山の野菜スープに、切られたトマト。
ご馳走の数々に、早速リンは匙を手に取る。
「美味しそう!」
「ほっほ、たんと食べるがいいのう」
ソラリスも年齢に見合わぬ健啖家で、美味しそうに鴨肉のローストを食べていた。
「おいしかったー!」
ペロリと平らげてしまったリンに、ヴィクターたちは微笑ましげに見ている。
「リン、これから忙しくなりますよ。頑張りましょうね」
「はい!」
帰路に着くと、あたりは夕暮れで、道は暗くなっていた。
宿屋へ帰りつき、寝床につく。
翌朝から、医術院の施設として使えそうな場所を借りるために、不動産屋へと赴く。
「こちらは理容室の居抜きの物件で、一階の商業空間と二階の居住空間とで分かれています」
「なるほど」
そこは広々とした一階と、しっかりとした水回り、そして居住空間である二階の部屋とで構成されている、なかなかにいい物件だった。
「二階には三部屋あるのですね。一部屋を事務室、一部屋を私とソラリス殿の部屋、一部屋をリンの部屋とするのにちょうどいい」
「私が個室をもらっちゃっていいんですか?」
「女の子なのだから、私たちと部屋を分けるのは当然です。気にすることじゃありませんよ」
ヴィクターたちは、案内された物件を隅から隅まで見て回る。
「ここにしましょう」
大家と契約を済ませ、看板職人に看板の作成を依頼する。
家具類なども中古でいいものが手に入ったので、寝台などを二階に搬入し、一階には待合のソファと処置用のベッド、そして診察スペースを確保するための衝立などを設置し、設備を整える。
「やったあ! ここが私の部屋なんですね!」
リンは、居心地よく整えられた自分の部屋にはしゃいで、友達のスライムと共に寝台の上で思わず飛び跳ねた。ぽよんぽよんと、一人と数匹は楽しげに跳ね回る。
「楽しそうですね、リン」
「あ……ヴィクター先生……」
いつの間にか部屋に入ってきていたヴィクターが、苦笑しながらリンを見る。はしゃいでいる姿を見られて恥ずかしそうに俯くリンに、笑いながらヴィクターはその頭を撫でた。
「早速、医術院の看板を掲げますよ。開院の手伝いをしてください」
「はい!」
『グレイモア医術院』。ヴィクターのファミリーネームを掲げたその医術院の名前が、看板に大きく刻まれている。
ここが、ヴィクターとリンとの、新たな生活の始まりだった。




