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Numbers-ブレイズ・フィスト-  作者: 川合 佑樹


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第8話

 灰霧区の外れに錆びた鉄扉があった。

「慈愛診療所」と刻まれている。

 表向きは貧民向けの無料診療所だ。


 だがツバサの調べたところ、アクセラが裏取引に使っている中継点だと判明した。


 扉を開けると消毒薬の匂いが襲ってきた。

 同時に魔導結晶特有の甘ったるい臭いも混じった。

 ツバサが呟く。

「……嫌な匂いだ」

 レンが肘でツバサの脇腹を突いた。

「黙ってろ」


 奥から白衣の襟元が黄ばんだ老医が顔を出した。

 背丈は低く腰が90度に曲がっている。

 だが目はギラギラと光っていた。

 その瞳の奥に深い疲労と消えない憎悪が沈んでいる。


「……何の用じゃ」

 レンは一歩踏み込んで静かに告げた。

「ソウルストーンを引き取りに来た」


 瞬間、老医の目がわずかに揺れた。

 指先が小刻みに震えている。

「……待っとれ」

 老医は踵を返して奥の棚へ向かった。

 数分後、小さな木箱を抱えて戻ってきた。

 箱の表面には古い血痕のような染みがいくつも残っている。


 蓋を閉めたままレンに差し出した。

 そして静かに、だがはっきりと呟いた。

「……こんなもん……何に使うんじゃ」

 その声には深い憐れみと静かな怒り、そして底なしの諦めが込められていた。

 まるで自分の孫を売ったような声だった。


 レンは箱を受け取りながら静かに告げた。

「じいさん。何も言うな」

 それは脅しでも威嚇でもなかった。

 老医は唇を噛んで目を伏せた。

 レンが踵を返しかけたとき、ツバサが一歩前に出た。

 静かに、ただ一度だけ頭を下げた。


 老医はそれを見てかすかに頷いた。

 二人は診療所を後にした。



 外に出た瞬間、路地が蠢いた。

 ガチャン! ガチャン! ガチャン!

 20人を超える人影が二人を完全に包囲した。

 全員が体の一部を機械化した改造人間だ。

 義肢の駆動音が低く唸りを上げている。

 蒸気と油の匂いが湿った空気に混じる。


 ズン! ズン! ズン!

 地面が震える重い足音。

 人垣が自然に割れた。

 現れたのは――右腕だけが異様に巨大な機械腕の巨漢。

 機械腕はレンの胴体より太く、表面に無数の傷と乾いた血痕。

 関節から蒸気がシューッと漏れている。

 ガンドがニヤリと笑うと、機械腕がギギギギと唸りを上げた。

「俺はガンドだ。おたくら、アクセラの犬には見えねえな」

 二人は何も応えない。

「……その箱、置いてってくれねえか?」


 レンは箱を抱えたまま片眉だけ上げた。

「そう言われて従ったやつはいるのか?」

 ガンドが肩をすくめる。

「俺たちは中身だけが欲しい。置いていきゃあ、無事に帰してやる」

 ツバサがレンの背後から体を出した。

「やだねっ! こっちも仕事でやってるんだから! 渡すわけないでしょー!」

 レンが肘でツバサを小突く。

「お前、黙ってろって」


 ガンドが機械腕を軽く振り回した。

「交渉決裂だな……安心しろ、殺しはしねえ。後ろが診療所だからよ」

 レンが歯を見せて笑う。

「ご利用は計画的に、どうぞ」


 ドンッ!!!

 ガンドが地を蹴る。

 コンクリートが粉々に砕け、衝撃波がレンの髪を逆立てた。

 同時に改造人間達が一斉に襲いかかる。

 金属の爪が空気を裂く。

 レンとツバサは目配せ――

 左右に分かれた!

「合流地点は分かってるな?」

「うんっ!」

 ツバサが小さく手を振ってから軽やかに跳ねた。


 二人は真逆の方向へ疾走した。

 敵も綺麗に二手に分かれた。

 だがガンドは迷わずレンを追ってきた。

 レンは全力で走る。

「ちっ、でかいくせに足は速えのかよ」


 レンが角を曲がった瞬間、足だけ機械義足にした4人が待ち構えていた。

「逃がさねえぞ!」

 4人が同時に地面を蹴り、レンに襲いかかる。

 レンは即座に左の3階建てアパートを見上げた。

 レンが右腕を振り上げる。

 ビュンッ!!!

 義手が射出される。

 屋上の手すりをガシャンッと掴む。

 体が一気に引き上げられていく。

 風が耳元で唸る。

 ドスッ!

 着地の瞬間、膝を曲げて衝撃を殺す。


 下から野次が飛ぶ。

「ズルいぞ!」

「降りてこい!」

「卑怯者!」

 直後、ドガン! ドガン!

 ガンドが巨腕を壁に突き立てながらゴリラのようによじ登ってくる。

 コンクリートがボロボロ崩れ、粉塵が舞い上がった。

 レンは屋根の上で舌打ちした。

「おいおい……化物かよ」


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