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Numbers-ブレイズ・フィスト-  作者: 川合 佑樹


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第5話

 レンは倉庫の外縁を一瞥してすぐに数を数え上げた。

「見える範囲で人間が7、獣魔種が4。狼頭が3匹、熊頭が1匹か」

 ツバサが舌打ちするような音を立てた。

「獣魔種がいるから、こっちが動く前に気づかれちゃうかも」

「バレてもあれくらいなら何とかなるかな。とりあえずいつものやっとけ」


 ツバサは腰のホルスターから折りたたみ端末を取り出し、指が踊る。

 青白い画面が闇に浮かび上がる。

「ただいまクラッキングいたしまーす」

 ツバサが高速で端末を操作した。

「おっけー! 警報系スリープ! 門越えてもモンダイなし! なんちゃって」


 レンはツバサの軽口を完全にスルーし、右手を高く掲げた。

 バシュッ!

 肘から先が矢のように射出され、鉄の門の上端をガチッと掴む。

「ほら、捕まれ」

「うんっ!」

 ツバサがレンの肩にしがみつく。

 シュルシュルシュル……ドッ!

 ワイヤーが高速で巻き戻り、二人の体が弧を描いて門を越えた。


 着地の衝撃をレンが片膝で受け止め、ツバサをそっと下ろす。

 レンは義手の接続を確認しながら、すぐに周囲を睨んだ。

「……よし。どこから攻めるか」

 ツバサが端末をしまう。

「監視カメラがどこにもないんだよねぇ」

「足で探すしかないか」

「……変だなぁ。ここ、アクセラの倉庫でしょ?」

「きな臭いな」

「罠かなぁ」

「罠ならラッキーだけどな。大事なもん置いてるってことだろ?」

 レンは小さく鼻で笑った。

「ひとまず誰か捕まえて吐かせるか」

「賛成~」


 レンが先にコンテナの影に身を滑り込ませる。

 ツバサがすぐ後ろ、炎を最小限まで絞って音もなく続く。

 ガサッ。

 錆びたドラム缶の陰に二人並んでしゃがむ。

 息がかかる距離。

 月光がレンの義手をチラリと照らす。

「……次はあっちの木箱だ」

 小さな頷きだけで、二人同時に動いた。


 レンが急に手を上げて止まる。

 指を3本立ててから親指で奥を示した。

 ──レンジャー時代のジェスチャーだ。

「単独、距離12メートル。動き鈍い。獲物確定」

 ツバサが即座に頷く。

 二人はその場にしゃがみ込む。


 数秒後、角から男の影が現れた。

 タバコをくわえ、ライターの火を鳴らしている。

「ったく、こんな夜中に見回りとか最悪だ……眠ぃー」


 男が角を完全に回った瞬間。

 背後からレンの影が伸びた。

 シュッ!

 義手が男の口を塞ぎ、同時に首を締め上げる。

 男の目が驚愕で見開かれる。

 ズドン!

 地面に叩きつけられた衝撃で、タバコがポロリと落ちた。

「声出すな。出したら首を折る」

 レンの声が耳元で低く響く。


 指を少し締めると男がガクガクと首を縦に振った。

 レンはゆっくり手を離し、代わりに襟首を掴む。

「娘はどこだ」

 男が震える声で答える。

「娘って……どこの娘だ?」


 一瞬の静寂。

 レンがため息を吐く。

「……そういや名前聞いてなかった」

「聞いてないね……」


 男がキョトンとする。

「お前ら……何しに来たんだよ」

 レンはもう一度襟首を軽く揺すった。

「いいから、3年前に借金の肩代わりで連れてこられた女だ。連れてこい」


 男が必死に首を振る。

「待て待て待て! そんな女、何人もいるんだよ!」

 ツバサが横から口を挟む。

「じゃあさ、一番可哀想そうな子でいいよ。連れてきて」

「いや無理無理無理! 俺ただの見張りだぞ! バレたら殺されちまうよ!?」

 レンが笑った。

「ここで死ぬか、後で死ぬか。最後くらいはイイコトして死んでみようぜ」

「僕たち元軍人でさ。吐いた方が楽に死ねると思うよ?」

「……ややこしいから、お前は黙ってろ」


 男の顔が土色になった。

「……わ、分かった。連れてくる。連れてくから……頼む、手加減してくれ……」

 レンは満足げに男の背中をポンと叩く。

「ほら、先導しろ。歩く速度は俺たちに合わせろ」


 男がガクガク震えながら歩き出す。

 ツバサが小声でレンに囁いた。

「次からはちゃんと名前聞こうね」

 レンは肩をすくめた。

「メモ取るか」


 少し歩くと、男が震える指で巨大なコンテナを指差した。

 錆びた赤い箱は倉庫の奥にぽつんと置かれ、棺桶のようだった。

「……ここだ」

 声が裏返っていた。


 レンとツバサが同時に呟いた。

「罠だな」

「罠だね」

 それでも二人は平然と足を進めた。

 レンは腕を軽く回し、ツバサは指をカチカチ鳴らす。


 レンが顎をしゃくった。

「開けろ」

 男は涙目でコンテナの前に跪き、ハンドホイールを握った。

「勘弁してくれ……俺はただ命令されただけで……」

 ゆっくり、ゆっくりと回し始める。

 ギギギギギ……重苦しい金属音が響いた。


 扉が5センチ開いた瞬間。

 男は一気に押し開けて中へ転がり込んだ。

 レンとツバサは同時に舌打ちした。

「やれやれ」

「あーあー」


 コンテナの中は予想通りの光景だった。

 十数人の人間がずらりと並び、魔導拳銃の銃口を向ける。

 さらに奥には獣魔種の狼頭が4匹。

 牙を剥き、ナイフを手に構えていた。


 先ほどの男が床を這いながら叫んだ。

「こいつらですっ! やっちゃってください! お願いします!」

 レンは呆れたように周囲を見回し、ため息をついた。

「どこに娘がいるんだよ。おっさんとイヌッコロじゃねーか」

 ツバサの炎がパチパチとはじけた。

「ショックだなぁ。生かしてあげたのに裏切るなんて、人としてどうなの?」


 銃を持った男の一人が顔を真っ赤にして怒鳴る。

「生きて帰れると思うなよ! アクセラの縄張りで調子に乗ってんじゃねえ!」

 別の狼頭が低く唸った。

「肉片にしてやる! 骨まで噛み砕いてやるよ!」

 別の人間が銃を構え直しながら叫ぶ。

「お前らまとめて蜂の巣だ!」

 レンは軽く首を鳴らした。

「こういうの、久しぶりだな」

 ツバサの炎がゆっくり膨れ上がっていく。

「楽しくなってきたね」

 銃口が震え、獣魔種の耳が伏せた。

 レンが笑った。

「じゃあ、始めるか」


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