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Numbers-ブレイズ・フィスト-  作者: 川合 佑樹


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第19話

 ブルークリスタル精製プラントの裏門。

 クレイムは無言で一歩踏み出し、闇の通路へ入る。

 赤い瞳だけが冷たく光っていた。


 10メートル先で警備兵4人が銃を構えた。

「止まれ! ここから先は――」

 シーカのブーツが床を蹴った。


「はいはい、ご苦労様!」

 銀の弧が走り、4つの首が同時に宙を舞った。


 レイジがため息混じりに歩み寄ってきた。

「4人同時とは、さすがです」

 シーカが剣を振り回して血を払い、舌を出して笑った。

「ここは私に任されてるからねっ! もっと褒めなさいよ、レイジ!」

「褒めるところが多すぎて困ります」

「……それが皮肉だってことくらいは分かるわよ」

 シーカが剣を一振りした。

「さあ、どんどん出てきなさい! まだまだ物足りないわよ!」



 ――同時刻、灰霧区・廃ビル屋上。

 ミカゲが屋上の縁から飛び降りる。

 ツバサがその背中にしがみつく形で続いた。

 風切り音が鳴り、二人はワイヤーを滑り降りる。


 着地の瞬間、闇の中から漆黒の魔導バイクが無人でスライドしてきた。

 車体側面に焼けたような焦げ跡で「B・F」と小さく刻まれている。

 ガンドが運び、レンが3日間整備したあの魔導バイクだ。


 ミカゲが片手でハンドルを掴むとエンジンが低く唸った。

「来たわね……レンのお砂遊び」

 ツバサが後部シートに飛び乗り、ミカゲの腰をガッチリ抱える。

「絶対速いよこれー! ミカゲ、早く行って行って!」

「うるさいわね、ちゃんと座ってる?」

「がっちり抱きついてるよー!」

 ブォンッ!!!

 青白いプラズマが爆ぜて、タイヤが空転。

 ミカゲがアクセル全開。

 ズドオオオオオオ!!!

 二人の体がシートにめり込むほどの加速。

 ツバサの炎が風圧で後ろにびゅーっと伸びる。

「うわあああ! 超気持ちいいー!!」

 髪がバサバサ顔に張り付き、ミカゲが叫んだ。

「しっかり掴まってて!!」



 ――工場内部・倉庫区画。

 クレイムが地図を片手に足音を殺して先導する。

 シーカが左、レイジが右、わずかに遅れて3人の影が魔光灯の下を滑る。


 通路が急に開け、巨大なコンテナが壁のように積み上がった空間へ出た。

 天井の蛍光管がチカチカと点滅し、魔導粒子の甘ったるい匂いが鼻を突いた。

 突然、前方のシャッターが轟音とともに跳ね上がる。


 20名の増援が雪崩れ込んできた。

 重装甲の警備兵、魔導銃を構えた狙撃手、後方には獣魔種の狼頭が4匹。

「侵入者確認! 全員囲め! 生け捕り優先だ!」

 シーカが剣を抜き放つ。

「生け捕り? 笑わせるわ」


 厚底ブーツがコンクリートを抉り、長剣が弧を描いた。

 最初の一閃で最前列の3人が同時に膝から崩れ落ちる。

「邪魔よ!」

「どきなさい!」

「死ね死ね死ね死ね死ね!」


 シーカの声が跳ねるたび、剣が違う角度から閃く。

 4人、5人、6人と兵士が倒れていく。

 床がみるみる赤く濡れて滑り、倒れた兵士の銃がカランカランと転がる。


 レイジが静かに一歩前に出た。

「シーカ、右から3番目。狙撃手です」

「了解! 私に任せなさい!」

「いえ、私が片付けます」

 レイジの両手銃が青白く燃える。

 敵が引き金引くより早く――

 バチィィィィィィィィッ!!!

 衝撃波で狙撃手と周囲の兵士が吹き飛んだ。


 ガァアアアアア!!!

 狼頭の一匹が咆哮を上げてシーカに飛びかかる。

「肉だ! 新鮮な――」

 その瞬間――

 シーカが振り返らずに剣を逆手に。

 シュンッ!

「うるさい」

 剣が閃いた瞬間だった。

 狼頭は前のめりに倒れ、床を赤黒く染めた。


 残った兵士たちが怯んで後退りし始めた。

「ひ、引き上げろ! こいつら化け物だ!」

 レイジがしゃがみ、地面に触れた。

「逃がしません」

 床を這う電流が蛇のように伸び、逃げる兵士全員の足を絡め取る。

 ビリビリと痙攣し、泡を吹いて倒れた。


 十秒後、通路には誰も立っていなかった。

 焦げ臭い煙がゆらゆらと立ち込める。

 シーカはゆっくりと歩き出す。

「あっけないわねー。……まだ物足りないわ」

 レイジが静かに呟いた。

「……目的を忘れないで下さいね」

 シーカが振り返り、血まみれの笑顔を向ける。

「冗談よ」

 クレイムが地図を畳み、静かに告げた。

「制御室までまだある。急ぐぞ」

 シーカが剣を肩に担ぎ直し、先頭を切って歩き出す。

「了解! お嬢、待ってなさいよー!」

 背後で、血溜まりがゆっくりと広がっていった。



 ――制御室前。

 重厚な魔導ロック扉が鈍い金属光を放って立ち塞がる。

 クレイムがポケットから黒い最高位キーを取り出した。

 指先で軽く回すとキー表面に青い魔導回路が浮かび上がる。

 これはヤベゥから奪った最高権限キーだ。

 同時にツバサが仕込んだ遠隔同期端末でもある。


 クレイムが無言でキーを差し込み、ゆっくりと回した。

 ガチャン。

 瞬間、キー本体が淡く光り、小さなホログラムが投影される。

【接続確認:トーチマン】

【認証完了。クラック待機中】


 シーカが眉をひそめた。

「あいつ……ほんと便利よねー」

 レイジが狐面越しに小さく頷く。

「そうですね。これが趣味程度でできてしまうのですから」

「ほんとにこれで開くの? 失敗したら笑うわよ」

「失敗はしません。トーチマンが仕込んだものですから」

「ずいぶん信用してるわね」

「彼らほどの化け物は戦場でもなかなかお目に掛かれませんよ」

「あんたも十分化物だからね」

「恐縮です」

 ホログラムにツバサがピースしているアイコンが現れた。


 瞬間、キーからスピーカーが展開する。

 ツバサの声が響いた。

「きたきたー! 今からクラックはっじめーるよー!」

 シーカが目を丸くしてキーを見下ろす。

「はぁ? 勝手に喋り出すの?」

 レイジが小さく苦笑した。

「トーチマンらしい仕込みです」

 スピーカーから軽快なキーを叩く音がカタカタと鳴る。

 制御室扉のロック表示が赤→黄→緑へと変わっていく。

 カタカタカタカタ――音が加速した。

「3……2……1……クリアー!」


 ――その瞬間。

 ガシャン! ガシャン! ガシャン!

 工場全域の遮断壁が一斉に降下する。

 制御室が完全に閉ざされる。


 シーカが壁に手をついて叫ぶ。

「何これ!?」

 レイジが狐面を押さえた。

「……これは、やられましたね」

 キーからツバサの声が響く。

「おつかれー! また後でね――」


 次の瞬間。

 ドゴオオオオオオオオオオオ!!!!!

 制御室が激しく揺れる。

 床が跳ね上がり、シーカが壁に叩きつけられる。

 窓の外――

 中央タワーが青白く発光し、

 バゴォォン!!! バゴォォン!!!

 連鎖爆発が次々と塔を喰らい、鉄骨が空高く舞い上がる。

 夜空が一瞬で昼間みたいに明るくなる。

 衝撃波がドンッ! と制御室を叩き、壁がミシミシ悲鳴を上げる。


 シーカが壁に手をついて叫んだ。

「ちょっと! 何!? 何なのこれ!? ツバサ! ふざけてんの!?」

 レイジが狐面を押さえる。

「これは、ブレイズ・フィストの作戦ですね……」

 クレイムだけが静かに呟いた。

「……まさか。あいつ……最初から」



 ――瓦礫と炎の山。

 白髪少女がゆっくりと立ち上がる。

 赤い瞳が闇の中で確かに光った。


 少女は誰にともなく呟いた。

「……お兄ちゃん? ……どこ?」

 遠く、爆発の残光が夜空を青く染める。

 だが、レンたちの姿はまだどこにもなかった。


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