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Numbers-ブレイズ・フィスト-  作者: 川合 佑樹


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第20話

 レンはビルの陰で待っていた。

 ブォオオオオオン!


 轟音とともに漆黒の魔導バイクが煙を蹴立てて急カーブで滑り込んできた。

 タイヤがアスファルトを削り、青白いプラズマの尾が夜を裂く。


 後部シートからツバサが跳ねるように降りた。

 青い炎がバチバチと火花を散らし、嬉しそうにレンの周りをぐるりと回った。

「レン! うまくいったね!」

 ツバサが両手を高く掲げた。


 レンは立ち上がり、手のひらを軽く振り上げて――

 パチン!

 乾いた音が夜に響いた。

 ツバサの炎が嬉しそうに3倍に膨らみ、熱波がレンの頬を撫でた。

「完璧だね! 仕上げの時間だー!」

「気を抜くなよ、ここからが一番重要なんだからな」

 レンは苦笑しながらバイクのミカゲに視線を移した。


 ミカゲはヘルメットを片手で外した。

 銀髪を夜風になびかせながら、口元に含み笑いを浮かべている。

「ミカゲ」

 レンが一歩近づき、低く告げた。

「合図が出たら、迷いなく撃て」

 ミカゲはバイクから降り、ライフルケースを肩にかけ直した。

「言われなくても分かってるわよ……それより、あなたこそ死なないでよね」

「死ぬかよ」

「いつだって死は次の瞬間よ。気を付けてね」

「お前もな。屋上は風強いぞ、体冷やすな」

 レンは短く言い切ると、ミカゲの肩を軽く叩いた。

「……ばか」

 ミカゲが顔を赤くしながら、屋上を見上げる。


 レンがバイクに跨る。

「行くぞツバサ」

「了解ー!」

 ツバサがバイクの後部に飛び乗り、腕をレンの腰に回してがっちり固定する。

 さらに、体をレンの背中にぐいっと押し当てた。

「なんだか、昔を思い出すね」

「そうだな」

 レンは軽くアクセルを煽り、夜の街へ消えていった。



 ミカゲはその背を見送り、静かに息を吐く。

「……ほんと、仲良いわね」

 ゆっくりと踵を返し、ビルの階段を上り始める。

 靴音がコンクリートに響くたび、ライフルケースが背中で小さく揺れた。

「予定通り、か」



 燐光区・最上階屋上。

 屋上の扉を押し開けると、夜風が一気に頬を打った。


 ミカゲは腹這いになった。

 シルバーファングのバイポッドをコンクリートに押し当てる。

 アームを展開し体を固定した。

 スコープを覗き込む。

「ふぅ……」


 長く息を吐き、頬をストックに軽く押し当てる。

 視界の端、崩れた壁の向こうから黒い影が一台、現れた。

 鋼鉄のラムを付けた装甲バンが瓦礫を蹴立てて猛スピードで走ってくる。

 屋根からシュリが大声で何か叫んでいるのが見えた。

「シュリは無事、正門から裏門の爆発跡地に移動したわね……」

 さらに視線を振ると――

 工場の表口から一台の黒い護送車が静かに滑り出てきた。

 窓は完全にスモークされ、ナンバーも隠されている。

 明らかに「何か」を運んでいる車両だ。

 その数百メートル先にレンのバイクが軌跡を描いて走っている。


 ミカゲはスコープから目を離し、ふふっと小さく笑った。

「さすがレンね。ここまで作戦通りにいくなんて」

 ミカゲは再びスコープに目を当て、ゆっくりと息を吐いた。

「さて……あとは頼んだわよ、レン」


 スコープを爆発した側とは真逆の方向へ向けた。

 工場の奥、魔導結晶のコンテナが山積みになったもう一つの倉庫区画へ。

 そこには巨大なコンテナが3つ。

 ミカゲの指が静かにトリガーに添えられた。

「……撃たずに済むならいいのだけれど」


 風が止む。

 夜が息を潜める。

 ミカゲは微笑んだまま静かに告げた。

「……さて、どちらに転ぶのかしら」

 スコープの十字がコンテナの中心にぴたりと重なる。

 静寂の中で引き金の感触だけが確かに伝わってきた。



 夜の工業地帯をプラズマの尾が裂く。

 レンは片手でハンドルを握った。

「ツバサ、工場内の様子は?」

「レイジが銃でロック無理やり撃ち抜こうとしてる!」

「突破にかかりそうな時間は?」

「……早くても15分、普通にやったら40分くらいかなぁ」

「了解」


 レンはアクセルを絞り、バイクを急減速させた。

 タイヤが悲鳴を上げ、プラズマの尾が一瞬長く伸びて消える。

 バイクを横に滑らせ、道路の中央にピタリと停めた。

 ツバサが後部シートから降り、レンの横に立つ。

「ふぅ、やっとついたね!」

「ああ」


 レンはサイドボックスを開け、黒い布に包まれた長大な銃身を引き出した。

 布をはだけると魔導兵器〈魔導徹甲ライフル“ヴァルキュリア”〉が現れる。

 ツバサが目を輝かせてしゃがみ込む。

「うわー、かっこいいー!」

「うるさい。これでも持ってろ」

 レンが信号銃をツバサに渡す。

「俺が死んだらこれをすぐに撃て」

「……分かった。死なないでね」

「あぁ、あと勝手に撃つなよ」

「……うん」

「よし、照準合わせるからデータ頼む」

「……うん」

 ツバサの炎がだんだん小さくなっていく。

「ほら、元気出せ! 大丈夫だ、死なねぇよ!」

 レンが肩をトンと叩く。

「俺たちは二人で最強。そうだろ?」

「うん……! 二人で最強だ!」


 ツバサが端末を操作した。

「距離820……風は左から2.1……湿度高め……」

 レンはバイクを横倒しにして銃を固定した。

「照準は左前輪付近の路面! 一発で走行不能にできるよ!」

 レンが折りたたみ二脚を地面に突き刺す。

 スコープに目を当て、マガジンをカシャリと装填。

「ツバサ、準備完了だ」

 ツバサが端末を片手にカウントする。

「あと15秒……10……8……5……来るよ!」


 レンは深呼吸を一つ。

 頬をストックに密着させ、引き金をゆっくり絞った。

 ズドオオオオオオオオオン!!

 轟音とともに青白い魔力の奔流が迴る。

 50口径の魔導徹甲弾が夜を裂いた。


 キュイイイイン!

 次の瞬間、護送車の側面から無数の銀色のワイヤーが飛び出した。

 空中で網のように絡み合った。

 魔導弾は網に触れて勢いを殺がれ、弾道を大きく逸れた。

 ツバサが即座に叫ぶ。

「魔導弾、弾かれた!」


 レンはボルトを引いて次弾を装填。

「あれは……なるほどな」

 ズドン! ズドン! ズドン!

 3発連続で放つ。

 キュンッ! キュンッ! キュンッ!

 だが全て銀の網に絡め取られ、青い火花となって爆ぜた。


 護送車は減速どころか逆に加速し、突進してきた。

「レン! 突っ込んでくる!」

「見えてる!」

 レンはヴァルキュリアを放り投げ、バイクを盾に立ち上がる。

「ツバサ、後ろに下がれ!」

「了解!」

 レンは左手を掲げた。

 光盾が18度の鋭角で展開された。

 ズドオオオオオオン!!


 護送車のフロントが盾に激突。

 前輪が跳ね上がり、車体が大きく浮いた。

 レンの頭上をギリギリで通過する。

 風圧だけでレンの髪がバサァッと逆立つ!

 車体は着地と同時に火花を散らして加速、闇に消えていく。


 レンは立ち上がった。

「……止まる気配すらねぇか」

 振り返るとツバサが信号銃を握りしめたまま立っている。

「レン!」

「大丈夫だ! 生きてる!」

 レンはバイクに走る。

 跨り、片手を差し伸べた。

「乗れ。追うぞ」

「うん!」

 ツバサが飛び乗り、腕をぎゅっと強く抱きつく。

「レン……さっきの、マジでやられるかと思った……!」

「悪りぃ。ちょっとカッコつけた」

「ちょっとじゃないよ! 心臓止まるかと思った!」

「心臓あるのか?」

「もう知らない!」

「……よく、我慢してくれた」

 レンがツバサのわき腹を肘でコツンとつついた。


 アクセルを全開にした。

 ブォオオオオオオオオオオオ!!!

 プラズマの尾が再び夜を裂く。

 遠くで護送車の赤いテールランプが小さく瞬いている。

 獲物を誘うように。


 ツバサがレンの背中を抱きしめながら呟く。

「……心の準備、OK!」

「ああ」

「今度こそ本当に無茶しないでね」

「約束はできない」

「約束して!」

「……できる限り、な」

 エンジン音が咆哮に変わる。

 夜の街を、死神と炎が疾った。


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