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Numbers-ブレイズ・フィスト-  作者: 川合 佑樹


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第18話

 夜のブルークリスタル精製プラントは青白い魔導粒子を煙突から吐き出していた。

 監視塔の探照灯が雲を切り裂く。

 だが、肝心の人員はまばらだった。

 2日間にわたるミカゲのスナイプで、アクセラは人手が回らなくなっていた。


 燐光区・高層ビルの屋上。

「始めるか」

 レンは短く息を吐き、信号弾を空に打ち上げた。

 赤い光が夜を裂いた。

 ――開始だ。



 灰霧区・別のビル屋上。

 ミカゲは腹ばいになり、背中の義体から4本の補助アームを展開した。

 コンクリートを抉って体を完全に固定する。

 シルバーファングのバイポッドを地面に押し当てる。

 横でツバサが双眼鏡を覗いていた。

「レンからの合図、確認。……さあ、始めるよ」


 ミカゲの指がゆっくりとトリガーに添えられる。

 スコープ越しに工場の正面監視塔の男が映った。

 息を止めて――

 ドォンッ!

 薬莢が跳ね、男の右肩が赤く弾けた。


 ツバサが無邪気に声を上げる。

「1本目クリアー! 次は警備室の奥のやつ、右から3番目!」

「了解」

 ドォンッ!

 2発目が放たれた。

 警備室のガラスが血で染まった。



 その瞬間、正門の外から轟音が近づいてきた。

 黒塗りの装甲バンが一直線に突っ込んでくる。

 フロントは鋼鉄のラムに改造されていた。


 ツバサが双眼鏡を握りしめて叫んだ。

「おー! 度胸ありすぎー!」

 バゴアンッ!!

 正面ゲートが紙のように捻じ曲がった。

 装甲バンが工場敷地に飛び込んだ。


 運転席からシュリが片手を上げて大声で笑った。

「ひゃっほー! 最高だぜー!」

 監視塔の生き残りが叫ぶ。

「正面突破された! 装甲バンだ! 止められない!」

 司令室のモニターが次々に赤く染まった。

「スナイプで半分以上やられてる……!」

 上層部の男が机を叩いた。

「生きて帰すな! 全戦力投入しろ!」

 部下が慌てて通信機を握る。

「各班! 正面に装甲バン侵入! 至急応援を――」

 別の声が割り込んだ。

「撃て! 撃てえええ!」


 監視塔から銃口が火を噴いた。

 だがシュリが事前に貼った対魔導装甲シールのおかげで装甲車はビクともしない。

 外でシュリの笑い声が響き渡る。

「効かねぇなぁ! お前らの銃、弾入ってんのかぁ!?」

 残った警備員を追い散らした。

 警備員の一人が必死に無線を叫ぶ。

「対魔導装甲だ! 重火器を――」

 警報がけたたましく鳴り響く。

 シュリがクラクションを乱打しながら叫んだ。

「おらおらおら! もっと本気出せよ、雑魚ども!」


「よし、第一目標クリア。裏門に切り替えるよ」

 ミカゲがスコープを大きく振った。

 裏門の監視塔に二人いる。

「距離1,200メートル。風はほぼ無風」

 ツバサが冷静に告げる。

 ドォンッ!

 1人目が倒れた。


 ツバサが即座に叫んだ。

「ナイス! 二人目、ちょっと左に移動したよ!」

「見えてる」

 ドォンッ!

 2人目も崩れ落ちた。



 裏門前。

 街灯の届かない死角にクレイムは静かに立っていた。

 その背後に控えるシーカはすでに剣を抜いている。

 厚底ブーツの踵を鳴らし門を固める2人の警備兵へ歩み寄る。

 シーカが小さく舌打ちした。

「2人だけ? 拍子抜けね」

 レイジが狐面の奥から囁いた。

「油断せずいきましょう」

 警備の一人が銃口を上げるより早く、長剣が弧を描いた。

 シュッと風を切る音だけが残り、次の瞬間、首が宙を舞った。


 もう一人の警備が悲鳴を上げかけた喉をシーカは剣の腹で軽く叩いて黙らせた。

「邪魔」

 短く吐き捨てるように。

 剣を一振りした。

 血の粒が夜風に乗って散り、シーカの白い頬に一筋だけ赤い線を引いた。

 彼女はそれを指で拭う。


 レイジが静かに歩み寄り、狐面の奥から淡々と言った。

「監視塔、二名とも処理完了です。若、進みましょう」

 クレイムは答えない。

 ただ一歩また一歩と門に近づき、冷たい指先でロックパネルに触れた。

 ツバサが用意したクラッキング端末をポケットから取り出す。

 端末から伸びるケーブルをパネル横のメンテナンスポートに差し込んだ。

 親指で認証パッドを軽く押す。



 灰霧区・廃ビルの屋上。

 ツバサは膝の上に端末を開いていた。

「きたきたきたー! 接続確認!」


 ツバサが端末に指を滑らせる。

「……おっけー、余裕余裕! セキュリティレベル3まで一気に落とすよー!」

 指がキーを這う速度はもはや人間のものじゃない。

 カチカチカチカチと軽快なリズムが響く。

「ファイアウォール層、突破ー!」

 ディスプレイに緑のコードが滝のように流れ落ちる。

「認証プロトコル、偽装完了ー! 監視カメラ全部おやすみー!」

 ミカゲが横で小声で突っ込んだ。

「声がでかい」

「えへへ、興奮しちゃって!」

 画面の奥で工場のセキュリティシステムが次々と「緑→灰色」に変わっていく。

「ねえミカゲ、見て見て!」

 ツバサが端末をミカゲに向ける。

「警備室のおじさんたち、今きっとめっちゃ慌ててるよ!」

 ミカゲはスコープから視線を外さない。

「モニター真っ暗になって『うわああ!?』ってさ! 超ウケるー!」


 ツバサは端末を抱えたまま足をバタバタさせて笑った。

 無邪気すぎる実況にミカゲが小さく吹き出す。

「……ちょっと静かにしてよ。集中してるんだから」

 でも口元は完全に緩んでいた。

「ごめーん!」

 ツバサは画面を叩く。

「完・了! これで工場、丸裸だよー!」


 門の前でクレイムの赤い瞳に端末の緑色の光が映った。

 端末がピッと短く鳴る。

 重い鋼鉄の扉が軋みながら開き始めた。

 闇の奥から魔導粒子の甘ったるい匂いが漂ってきた。

 微かな少女の泣き声も、一緒に。


 シーカが剣を肩に担いで笑う。

「さあ、いっぱい狩るぞー」

 レイジが狐面の奥で静かに息を吐いた。

「目的を忘れないでくださいね、シーカ」

「うるさいわね! あんたこそ足手まといにならないでよ!」

 3人の影が開いた裏門の闇に吸い込まれていった。



 屋上。

 ツバサが端末を閉じて立ち上がった。

「裏門チーム侵入完了! これで両門同時突破だー!」

 ミカゲはライフルを肩に担ぎ、満足げに頬を緩める。

「さて……移動しましょうか」

「よーし! ここからが本番だー!」


 二人は屋上の端まで向かった。

 夜の工場を見下ろす。

 青い魔導粒子が渦巻く工場全体が今夜だけは完全に彼らの戦場だった。

 ミカゲが銀髪を風になびかせて呟く。

「結局、こういう人生なのよねぇ」

 ツバサが無邪気に笑った。

「でも、楽しいよ?」

 ミカゲが小さく笑ってツバサの肩を軽く叩く。

「ほんと、変わらないわね」

「ミカゲも変わらないよ? 昔からこういうの好きだったもん」

 ミカゲがライフルを肩に担ぎ直した。

「……うるさいわね。さっさと降りましょ」


 ツバサが屋上の端から身を乗り出して、夜空に向かって大きく手を振る。

「レーン! 今行くよー!」


 遠く工場の奥で、赤い信号弾がもう一度上がった。

 レンは信号弾の残光を見上げたまま、義手の指をギュッと握りしめる。

 カチン。

 背筋を冷たいものが走った。

 ――嫌な予感だ。

 工場の奥、ブルークリスタルの精製棟の奥から、微かに「何か」が蠢く気配。

 レンは踵を返し、闇の中へ一歩踏み出す。

「……だが、もう止まれねえ」

 遠くの屋上でツバサの炎が、まるで応えるように大きく膨らんだ。


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