表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Numbers-ブレイズ・フィスト-  作者: 川合 佑樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/24

第17話

 灰霧区の外れ、廃墟と化した30階建てビルの最上階屋上。

 朝靄がまだ街を覆う時間帯だった。

 風が冷たく頬を刺す。

 ミカゲは腹這いになり、背中の義体装甲から4本の補助アームを展開していた。

 鋭い爪先がコンクリートを抉り、体を完全に固定する。

 巨大な対物ライフル「シルバーファング」を構え、スコープに目を押し当てる。


「それでさ、私、言ってやったのよ」

 ミカゲはスコープから目を離さず楽しげに口角を上げた。

「『後ろに目をつければいいじゃない』ってね」

 すぐ横でツバサが双眼鏡を片手に端末を高速操作する。

「なにそれ! サイコー!」

 ツバサが次の標的を視界に入れる。

「方位165、距離920メートル。頭1個分出てるよー」

 ミカゲの指がスムーズに引き金を絞る。

 ドォンッ!

 轟音とともに薬莢が跳ね遠くのビル壁に、赤い花が咲いた。


 ツバサが無邪気に親指を立てる。

「クリアー!」

「でね、それでもあいつは……」

 ガチャッ。


 屋上の鉄扉が軋みながら開いた。

 レンが片手に袋を提げ、もう片手でカレーパンをかじりながら現れる。

「おい、朝飯買ってきたぞ」

 ツバサは双眼鏡から目を離さず、炎だけをレンに向けてぱっと膨らませた。

「やったー! お腹空いてたんだよねぇ! レン大好き! 結婚して!」

「朝からうるせえ。黙って食え」

 レンはツバサの頭上にカレーパンを放り投げる。

 ツバサは炎の中に受け止めた。

「んぐっ……うんまーい!」


 その隙に新たな標的が窓から顔を出す。

「ターゲット、方位168、距離930メートル、半身。頭出た出た!」

 ミカゲが再び照準を合わせる。

 レンがカレーパンをちぎってミカゲの口元へ。

「あーん」

 ミカゲはスコープから目を離さず、素直に口をぽかりと開ける。

 パクリ。

 もぐもぐ……カレーが少しこぼれて頬にべっとり。

 レンが親指でそれをぬぐって、自分の口に運ぶ。

 ミカゲの耳がピクッと赤く染まる。

「……ありがと」

 その間も補助アームは地面に突き刺さったまま微動だにしない。

 ドォンッ!

 2発目。

 遠くでまた影が崩れ落ちた。

 ツバサが片手を上げてピースサイン。

「クリアー!」


 ミカゲが満足げに息を吐きスコープから顔を上げた。

「ふぅ……あっちの方は順調?」

 ミカゲはライフルを置き、アームの固定を外す。

 立ち上がってストレッチする。

 レンが口を開く。

「明後日の突入は確定でいい」

 ツバサが端末を閉じる。

「やったー! 大仕事だー!」

 レンが空になった袋を丸めて屋上の端に放り投げた。

「欲をかくと足元をすくわれるぞ」



 数時間後、ミカゲの狙撃はまだ続いていた。

 彼は腹這いの姿勢を崩さずスコープを覗き込みながら肩を軽く回す。

 無力化された敵はすでに10を超えていた。

 アクセラの警備網は混乱の渦に飲み込まれている。

 それでもミカゲの集中力は揺るがない。

 ツバサは端末を指を軽く叩いて位置を割り出す。

「方位172、距離950メートル。左肩が狙いやすいよ。風も味方してる!」

 ミカゲはスコープ越しに小さく頷き、くすりと笑う。

「はーい」

 ドォンッ!

 引き金が鳴り薬莢が跳ねる音が屋上に響いた。

 遠くで影が崩れ揺れて消えた。

 ツバサが拳を握って歓声を上げる。

「クリア!」


 ガチャンッ!

 鉄扉が押し開けられる。

 ガンドの巨体が陽光を背にそびえたつ。

 ドスン、ドスン。

 コンクリートが軽く震える。

「おー、やってるなぁ。差し入れ持ってきたぞ」

 レンがガンドに手を振る。

「なに持ってきたんだ?」

「昼飯だ。あと魔導結晶パックも、タツロじいから預かってきてるぞ」

 レンは腰を浮かせ、手のひらで軽く手を払う仕草で迎える。

「サンキュー」

 ツバサはガンドに飛びつく勢いで身を乗り出す。

「ありがとー! お昼なに持ってきてくれたの?」

 ミカゲはライフルを地面に置く。

 補助アームをカシャカシャ収納して立ち上がる。

「ありがと。ちょっと休憩しようかなぁ。パックちょうだい」

 ガンドは袋から小さな容器を取り出しミカゲに向かって軽く放り投げる。

 容器は弧を描いてミカゲの掌にぴたりと収まった。

 ツバサは興奮冷めやらぬ様子でガンドの袋に手を伸ばす。

「ご飯っ! ご飯っ!」


 ガンドは地面にどっかり腰を下ろし袋を広げて中身を並べ始める。

 焼きそばの湯気が立ち上った。

 肉野菜炒めの香ばしい匂いが風に乗って広がった。

 隣には焼き飯の山が鎮座していた。

 ツバサの炎が一気に膨張し喜びの熱波を撒き散らす。

「やったー! 中華だぁ!」

 レンはガンドの隣に腰を下ろした。

「おーいいな。中華か」

 ガンドは箸を取り自身の皿に焼き飯をよそいながら首を傾げる。

「中華ってなんだ?」

 ツバサは焼き飯の皿を指差す。

「えー、こういうの中華って言うんだよ?」

「そうなのか、中華だな。覚えた」

 ミカゲは焼きそばの皿を覗き込み、箸で麺を軽くつまんで匂いを嗅ぐ。

「おいしそー。あんたが作ったの?」

 ガンドが右手の親指を立てる。

「俺の奥さんの手作りだ!」

 レンが目を丸くした。

「お前結婚してたのか!?」


 4人が笑い合いながら料理をつつき始めた。

 レンは焼き飯を掬い口に運んでゆっくり噛んだ。

 ツバサは野菜炒めを炎の中に放り込み、ジュワッと音を立てて味わう。

 ミカゲは麺を丁寧に巻き取る。

 ガンドは巨体に似合わず器用に箸を動かす。

 ガンドは一口食べて満足げに息を吐いた。

「ミカゲのおかげでブルークリスタル周辺の監視はパニックだ」

 ミカゲが手を振って笑う。

「あらそう? 大したことはしてないわよ」

「正直驚いてる。作戦は順調すぎる。前倒ししてもいいくらいだ」

 レンは箸を止め遠くの街並みを眺めながら応じる。

「敵もそこまで馬鹿じゃないさ」

「そうか……そうだな」

 ガンドが頭を掻いた。

 レンが続ける。

「ヤベゥから情報とエネルギーも得られてる。これくらいは上等だ」

 ガンドは焼きそばを頬張り首を振る。

「それが異常な状況なんだけどな」

 ミカゲは麺をすすり、くすりと笑ってガンドの肩を軽く叩く。

「ふふ、慣れるわよ。こいつらいっつもこんな感じなんだから」

 ツバサは炒め物を平らげて顔を上げる。

「あれ? 今褒めてくれてる?」

 レンはツバサの肩を撫でる。

「そうだ。喜んどけ」

「やったー!」

 4人の笑い声が屋上に高く響き渡った。


 ガンドは笑いを収め、焼き飯の皿を膝に置いて真剣な顔になった。

「例のモノはもう下に準備してある」

 レンは頷き、箸で最後の野菜を突き刺して口に放り込む。

 咀嚼しながら視線をガンドに固定した。

「分かった。あとで確認しておく」

 ガンドは袋を畳み始め立ち上がって腰を軽く伸ばす。

「整備はこちらで徹底しておくから安心してくれ」

 レンは皿を地面に置き立ち上がった。

「ガンド、俺が使うものだ。俺が整備する。それに……」


 一瞬の静寂が訪れた。

 ガンドは眉を寄せ機械腕を軽く曲げて促す。

「それに……なんだ……?」

 レンは小さく息を吐き、ツバサとミカゲを交互に見てから視線を戻す。

「俺はこいつらの暇つぶしのためにここに座ってるだけだ」

 口元にわずかな笑みが浮かんだ。

「代わってくれ。いい加減こいつらの話に飽きてきた」

 ガンドは目を丸くし肩を落として苦笑する。

「ははっ、次はお茶と菓子でも持参しとかないとな」

 作戦の熱気が昼の陽光に溶けていった。



 夕日が屋上を深紅に染める頃だった。

 レンが階段を上がってきた。

「ガンド、帰ったか」

「あ、うん! クレイムの使いが来て慌てて帰っていったよー!」

 ミカゲはライフルケースを肩にかけ、銀髪を夕風になびかせる。

「あ……なんか企んでる顔ね」


 レンは答えずツバサの前に座った。

 1枚の紙を滑らせる。

「……これヤベゥ経由で今すぐ発注しろ」

「え……? ちょ、ちょっと待ってレン、これって――」

 ミカゲの目が鋭く細まった。

「……おー、なるほどねぇ」

 レンはゆっくり立ち上がり夕焼けの向こうにそびえる工場の煙突を見据える。

「明後日の夜が楽しみだ」


 ――次の日、工場の奥で魔導結晶の山が静かに積み上がり始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ