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Numbers-ブレイズ・フィスト-  作者: 川合 佑樹


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第15話

 夜風が錆びた鉄骨を鳴らしていた。

 資材置き場の奥で巨大なコンテナが山のように重なっている。

 月明かりがコンクリートを照らす。

 埃がゆっくりと舞っていた。


 ツバサが足を止めた。

「ねえ、ここでいい?」

 レイジは狐面の奥でかすかに息を吐き、ゆっくりと両手を広げた。

「ええ、充分すぎる広さです。では、始めましょうか」


 瞬間、レイジのスーツの縫い目から青白い電流が這い出す。

 ビリビリビリッと空気が震え、周囲の鉄くずが小刻みに跳ねた。

 ツバサは首を傾げた。

「おー、きれいだなー。イルミネーションみたい」


 そう言いながら右手で端末を抜き、親指を画面に滑らせる。

 ピピッと短い電子音が鳴った。

 ツバサの炎が一瞬だけ縮んだ。

「あら、やっぱりダメか」


 レイジが笑ったような気配を漏らす。

「トーチマンの噂はかねがね。クラッキングの鬼だと聞いています。ですが」

 スーツの襟元が淡く光り、電磁シールドの紋様が浮かび上がる。

「このスーツは外部からの電波を完全に遮断できるように作ってあります」

 ツバサは端末をしまい、肩をすくめた。

 レイジが再び両手を広げる。

「あなたの得意技は封じましたよ」

「じゃあアナログでいくしかないね」


 ツバサはゆっくりと一歩踏み出す。

 レイジは優雅に腰のホルスターから2丁の魔導拳銃を抜いた。

「私は初めから、あなたと正面から戦いたかったのです」

 銃身が青白く輝き電流が銃全体を包み込む。

「ナンバーズ同士、礼儀としてね」

「嬉しいこと言ってくれるじゃん。優しいんだ」

 レイジが照準をツバサの胸に合わせる。

 電流が銃口で渦を巻き、ビリビリと高周波音が響き始めた。


 ツバサは体を小刻みに振った。

「あっ、それまずいかも?」

「察しがいいですね」

 レイジは静かに答えた。

 引き金が引かれた。


 バンッ!!

 瞬間、ツバサの金属骨格が横にスライドするように跳んだ。

 青白い電磁ビームがツバサのいた場所を焼き払う。

 コンテナがドロドロに溶け貫通した。

 熱風が遅れて押し寄せる。

 ツバサの炎がビュオオッと逆方向に大きくたなびいた。

 ツバサは着地と同時に振り返った。

「おーい! 死なない程度っていってたよね!」

「今のはわざと外しました」


 レイジは銃口を軽く下ろし狐面の奥で小さく息を吐く。

「こちらだけ情報を持っているのは、私の本分ではありませんから」

 レイジが両手首を軽くひねる。

 ガチャン、ガチャン。

 2丁の銃が指先でクルクルと一回転し、流れるように構え直す。

 銃口がツバサの胸をピタリと捉えた。

 狐面の奥で静かな笑い声。

「ここからが本番です、トーチマン」

「もう怒ったぞー。僕も本気出すからね!」


 レイジが一歩踏み出す。

 電流が地面を這いコンクリートに焦げ跡を描いた。

「では踊りましょう」

 熱波が周囲の空気を歪ませ、資材置き場の埃が渦を巻いた。

 ツバサが笑った。

 地面を蹴り、同時にレイジの2丁の銃口が火を噴いた。



 一方、事務所前の路地は火花と硝煙で埋め尽くされていた。


 ズガアアアアアン!!


 地面が弾け飛びコンクリート片が雨となって降り注ぐ。

「はははっ!! もっと来いよ色男!」

 ミカゲがギリギリで躱す。

「もうやめない!?」

「まだまだ物足りねぇ!」

 シュリが両腕を広げ、嵐の真ん中で踊るように哄笑していた。


 その光景をレンは少し離れた場所から眺めていた。

 足元には光のシールドで地面に押し付けられたシーカがいた。

 ブーツがジタバタと空を蹴る。

 フリルのスカートが乱れても剣を握る手だけは離さない。

「離せよ、この変態!」

「変態じゃねぇ」

「か弱い女の子をこんなふうに拘束して、一体何する気!?」


 レンはシールドの出力を少しだけ落とした。

 シーカの背中が数ミリ浮く。

「何もしねぇよ。大人しくしてろ」

 シーカがギリッと歯を食いしばった。

「最低のクズ野郎! 若に言いつけてやるから覚悟しとけ!」


 その声に混じってミカゲの叫びが飛んできた。

「レン! ちょっと暇そうだけど加勢してくれない!?」

 レンは首を横に振る。

「断る。狐頭がどっか行った以上、筋が通らねぇ」

「この頭でっかち!」

「硬いのは腕だけだ」

 シュリがミカゲに拳を振り下ろす。

「よそ見してんなよ!」

 ドゴオオオオオオオオン!!!


 巨拳が地面を叩き衝撃波がミカゲを吹き飛ばした。

 銀髪が舞い背中からアスファルトに激突する。

「がはっ……!」

 ミカゲが咳き込みながら這い起きる。

 シュリが舌なめずりしながら近づいてくる。

「お前本当に第6部隊か? 手ごたえなさすぎだろ」

 そしてレンの方を振り返った。

「なぁ死神。次はあんたが相手してくれよ」

 レンはため息を吐いて答えた。

「……そいつを倒せたらな」

「はぁ? こいつなんて相手に……なら……なんだお前それは」

 シュリが怪訝そうにミカゲに目をやる。


 ミカゲがゆっくり立ち上がる。

「……ねえ、見せたくなかったんだけど」

 ガシャン ガシャン ガシャン――

 肩アーマーが割れ、背中の装甲が翼のように開く。

 脚の装甲が開き銀色の魔導アームがマントを突き破り一斉に展開された。

 肩から2本ずつ、背中から8本、太腿から2本ずつ。

 合計14本の機械腕が光の翼のように広がる。

「この姿……嫌いなのよね」


 ミカゲが立ち上がると同時に14の銃口が赤熱した。

 ババババババババババババババ!!

 赤熱した光弾が光の帯となってシュリに殺到。

 地面に無数の穴が開く。

 シュリの巨体が光の嵐に呑まれる。

「ぐおおおおっ!? 一発一発が重すぎんだろ!!」

 腕でガードしながらズルズルと後退。

「だがこれだけの量! いつまで撃ち続けられるかな!」

 ミカゲがニヤリと笑った。


「これなーんだ?」

 マントをはだけた。

 内側にびっしりと魔導結晶のパックが貼り付けられていた。

 青白く発光する液体が数十本も輝いている。

「……ソウルストーン!? そんな大量に!?」

「つい最近格安の仕入れ先見つけちゃったのよねぇ」

 ミカゲがチラリとレンを見て、小さく舌を出した。


 レンはそれを見て肩をすくめた。

 シュリはガードしながら顔を歪める。

「あーもー! 降参だ降参! 冗談だろこんなの!」

 ミカゲが攻撃をピタリと止めた。

 14本のアームが赤熱したまま、甘ったるい魔導結晶の匂いを漂わせる。

 シュリが大きく息を吐いて両手を上げた。

「……まいった。こんな化け物勝ち目ねぇわ」


 シーカが地面に這いつくばったまま悔しそうに唇を噛んだ。

「シュリ……お前まで……」

 レンはようやくシールドを解除した。

「ほら終わったぞ。お前らの負けだ」

 シーカがフラフラ立ち上がり剣を地面に突き刺して体を支える。

「……覚えてろよ。次は絶対にぶっ殺す」

 レンが笑う。

「次があるならな」

 その背後でミカゲがアームを出しっぱなしで近づいてくる。

「さて……ツバサはどこ行っちゃったのかしら?」


 レンは肩越しに路地の奥を見やった。

 遠くで雷光が空気を裂く音がまだ続いている。

 レンはため息混じりに呟いた。

「……じゃあ、見に行くか」

 ミカゲが目を丸くした。

「え、4人で?」

 レンはもう歩き始めていた。

「ちょっと待ってよー」

 ミカゲが小走りで追いかける。


「……は?」

 シーカが呆然と顔を上げた。

 シュリが肩をポンと叩く。

「おいシーカ、置いてくぞ」

「はあ!? なんで私も!?」

「敗者は勝者についていくもんだぜ」

 シュリはシーカの長剣を抜いて肩に担ぎ、自分の腰に差した。

「ちょっと! 返せよ!」

 シーカは喚きながら追いかける。


 4人の足音がバラバラに響きながら路地の奥へと続く。

 レンが先頭、ミカゲが横、シュリがシーカと肩を組んで引きずるようにして。

「……なんか変なパーティーになっちゃったわね」

 ミカゲが苦笑いしながら呟くと、レンは肩をすくめただけで答えなかった。


「わー!」

 遠くでツバサの無邪気な声が響いた。

 それにレイジの静かな笑い声が重なる。

 二人の声が夜の空気に溶け合っていた。


 4人の影が闇へと吸い込まれていく。

 喧嘩しに来たはずが、いつの間にか連れ立って花火を見に行く不良たちみたいに。


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