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Numbers-ブレイズ・フィスト-  作者: 川合 佑樹


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第14話

 事務所の空気が刃のように張り詰めた。

 レンは一歩だけ前に出た。

「いくぞー」


 低い声と同時に左腕でツバサのコートの襟首を鷲掴みにした。

 金属の指が布をギュウゥッと締め上げる。

「ちょっと! 服が伸びちゃうって――」

 抗議も聞かず、レンが腰を捻った。

 ズバンッ!!!

 ツバサの体が水平にぶっ飛ぶ。

 バリバリバリンッ!!!

 窓ガラスが粉々に砕け散り、外へ放り出された。



 外、路地。

 クレイムはガラスの降る音に顔を上げた。

「ずいぶん消極的だな」


 次の瞬間、ツバサが頭上から降ってきた。

 ドンッ!

 ツバサは着地しアスファルトを軽く抉る。

 すぐにクレイムに詰め寄る。

「あー! もう! 皆のことちゃんと止めてよ、クレイムさん!」

「楽しんでもらえてなによりだ」

 クレイムは素っ気なく首を振った。


 その直後、パリンと小さな音。

 ドンッ!!

 今度はミカゲを抱えたレンが窓枠を蹴って飛び降りた。

 着地の衝撃でミカゲの銀髪がふわりと舞う。

「若ー! 無事かー!?」


 3階の窓からシュリが上半身を乗り出し大きく手を振った。

 クレイムも下から片手を上げて応えた。

 指を2本だけ立てて、軽く振るだけ。

 それでもシュリは満足げに笑った。


 その隙をレンは逃さない。

 一瞬で間合いを詰め、クレイムの背後に回り込んだ。

 右腕が少年の細い首を捉え、左腕で肘を固定した。

「悪く思うな」

 レンの声が耳元で低く響く。

「むさくるしい」


 クレイムは小さく吐き捨てると腰を沈め肩越しにレンのジャケットを掴んだ。

 布袋のように前方へ放り投げる。

「っ!?」

 レンの体が宙で回転した。


 次の瞬間――

 上空から殺気が降ってきた。

 シーカが屋上から一直線に落ちてくる!

 スカートがバサッと逆立つ。

「若から離れろ、このクズがあああああ!!!」

 長剣が真上から振り下ろされる。

 レンは空中で左手を突き出した。

 バチィン!!

 青白い光盾がギリギリで展開!

 ズドンッ!!!

 衝撃でレンの体が地面に叩きつけられる。

 アスファルトが蜘蛛の巣状にひび割れた。

「ぐっ……!」


 レンはすぐに膝をつき盾を維持したまま立ち上がる。

「何が起きたっ……!?」

 クレイムはコートの裾を払いながらにこりともせずに答えた。

「理合いってやつだ。勉強になっただろ」


 瞬間、シーカが再び剣を構える。

 シュリが窓から両腕を広げてそのまま飛び降りた。

 クレイムが告げた。

「それじゃ次は逃がさないように」

 舞台は完全に屋外へ移っていた。


 シーカが剣をレンに向け叫んだ。

「今ここでなます切りにしてやる!」

 剣を構え一歩踏み出す。

 その瞬間――

 ズンッ!

 背後から降ってきた影がシーカの肩をがっちり掴んだ。

 レイジだった。


 狐面の奥で静かに息を吐く音が聞こえる。

「シーカ、彼らはナンバーズです」

 シーカがレイジを睨む。

「止めるなレイジ!」

「一人で立ち向かうには、やや戦力不足ですよ」

 シーカの眉が跳ね上がった。

「ナンバーズがどうした! なんだよそれ! 知らねーよ!」

 レイジの手を振り払おうとする。

 レイジは肩を掴む手に力を込めたまま静かに告げた。

「あなたは第7世代ですから知らなくて当然です」

「今、バカにしたな!?」

「しかし、彼らのことは知っておいた方がいい」

 そう言いながらゆっくりと狐面をレンたちの方へ向ける。

「皇国軍第3世代型魔導強化骨格を埋め込まれたたった50体の人間。それがナンバーズと呼ばれる者たち。そして――」

 一呼吸置いてレイジははっきりと告げた。

「この3人は特殊任務を遂行した第6部隊。『死神の鎌』『トーチマン』『銀翼』。戦場では名の知れた者たちですよ」


 レンは鼻で笑った。

「ご丁寧にどうも」

 ツバサは炎をぱちぱちさせて照れ隠し。

「なんか照れちゃうねー」

 ミカゲは銃を構えた。

「……よく知ってるわね」


 レイジは肩をすくめた。

 狐面の奥でかすかに笑ったような気配がした。

「ええ。私も元ナンバーズですので」

 レンの義手がガチガチと強く鳴った。

「……なにっ」

「ああ、久しぶりに血が騒ぐ」


 レイジがゆっくり両手を広げた瞬間――

 バチィィィィィッ!!!!!

 全身が真っ白な雷に包まれる!

 髪の毛一本一本が逆立ち、狐面の隙間から紅い光が爆ぜた。

 バリバリバリバリッ!!!

 雷が暴走するように周囲へ飛び散り、街灯がバンッと爆発!

 魔光灯が次々に焼き切れた――

 次の瞬間、レイジが静かに微笑んだ気配。

「失礼……少々高ぶってしまいました」

 電流が収まったときレイジはゆっくりとお辞儀をした。

「『蒼穹』のレイジと申します。以後お見知り置きを」

 狐面の奥の紅い光が細く鋭く輝く。

「では――死なない程度に……遊びましょうか」


 バチッ、バチッと小さな火花が地面を這い、一瞬にして雷鳴の匂いで満たされた。

 刹那、レンの背後で空気がねじれた。

 シーカが一瞬で間合いを詰め、剣を閃かせた。

「御託はいい! 殺せば終わりだろ!」


 叫びと共に刃がレンの首筋を正確に狙った。

 レンは首すじをわずかに捻り右腕を上げてガードする。

「それはさっき見た」

 シーカの瞳が嘲るように細められる。

「見せてねぇよ!」

 剣先が蛇のようにうねり――

 ガードを縫うように避け喉元へ一直線。

 ギンッ!

 レンが五層の円盾を展開。

 剣がズブッと3層目を突き破り、残り2層の表面でピタリと止まる。

 シーカが剣を捻る。

「ちっ、浅いか」

 レンは喉を鳴らして笑った。

「3枚か……やるな」


 次の瞬間、レンの右拳が一直線に振り抜かれる。

 シーカはそれを予測していたかのように剣を盾から強引に引き抜いた。

 同時にレンの胴を蹴り飛ばし軽やかに宙返りする。

 着地の音も立てずにスカートの裾を指で整えた。

「往生際が悪いわよ! さっさと死になさいっ!」

「もうお前の剣は俺には届かない」

 言葉と同時にレンが右手を翳した。

 シュン! シュン! シュン!

 青い光の花弁が8枚、レンの周囲に展開された。

 それぞれが高速で回転しながら位置を変える。

 シーカの剣の全軌道を完全に封鎖した。

 シーカの眉がピクリ。

「……なによそれ。ズルすぎ」

 剣を肩に担ぐように構え直し唇を尖らせる。

 レンはニヤリと歯を見せた。

「ほら、気張って見せろ」


 レンの盾とシーカの刃が激しく交わる。

 シーカが剣を振り抜くたびブーツが地面を抉った。

 フリルの裾が風を巻いて翻る。

 レンは8枚の光盾を自在に操り、刃を弾いた。



 二人の息遣いが荒くなる中――

 ツバサは戦いの喧騒を尻目にレイジに近づいた。

 興味津々といった様子で体を傾ける。

「ねえ、彼女不利そうだけど加勢しなくていいの?」

 レイジは狐面の奥でかすかに笑った気配を見せた。

 優雅に片手を振る。

「そんな無粋なことはしませんよ」

 レイジは銃を下げる。

「めったにない強敵との手合わせです。彼女にとってもいい勉強になるでしょう」

 ツバサは肩をすくめた。

「ふーん、そう。じゃあこっちもやる?」


 レイジは一歩退き丁寧に首を垂れる。

「はいと言いたいところですが、ここで戦うと、彼女も巻き込んでしまいます」

 片手で路地の奥を指し示した。

「場所を変えましょうか」

「いいよー! 行こう」

 ツバサは勢いよく腕を突き上げた。

 そのまま歩き出した。

 レイジもその後を追うように移動を始める。

 二人の背中が路地の奥へと遠ざかっていった。



 その背を見送りながら、

 ドンッ!

 残されたミカゲの真正面に巨大な影が音を立てて着地した。

 シュリだった。

 両腕を広げて満面の笑みを浮かべる。

「じゃあ、あんたの相手は俺だな」


 ミカゲはため息交じりに銃をくるりと回した。

「どちらかというと私、味方サイドだと思うんだけど?」

 銃口を軽く上に向けシュリを値踏みするように見上げる。

「つれねーこと言うなよ嬢ちゃん。楽しもうぜ」

「残念ながら男なのよね」

 シュリはニヤリと白い歯を見せ拳をゴキゴキ鳴らした。

「なら尚更、良いところ見せてくれよな!」

 ミカゲは両手の銃を構え直す。

「……ったく、面倒くさいわね」


 3つの戦場で、同時に火花と衝撃が飛び散った。

 誰も、引く気なんてなかった。


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