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Numbers-ブレイズ・フィスト-  作者: 川合 佑樹


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第11話

 夕方の事務所は茜色に染まっていた。

 窓の外より先に、室内の空気が重い。


 レンはソファに横たわり、目を閉じている。

 ツバサはテーブルに端末を広げ、指を動かしながら電信網をスキャンしていた。


「あっ」

 ツバサが小さく声を上げた。

「なんか面白いこと言ってる」

 レンは片手で顔を覆ったまま、だるそうに返す。

「なんだー?」

「今日の夜、燐光区の大病院に襲撃をかけるんだって」

「……マジかよ」

「ガンドたちらしいね」

「……あのバカども」


 レンはため息をついて体を起こした。

「……だから、渡したくなかったんだ」

「どうする? 助けに行く?」

「助ける義理はねえだろ」

「……そうだね」


 次の瞬間――

 バーンッ!


 扉が蹴り開けられ、銀髪がばさりと舞い込む。

「レン!」

 ミカゲが息を切らせて飛び込んでくる。

 マントの裾が翻り、腰の魔導銃が軽くぶつかって音を立てた。

 頬が上気し、瞳が血走っている。

 ツバサが声をかける。

「ミカゲ! また……来た……んだ」


 ミカゲはツバサの挨拶を完全に無視してレンの襟首を掴んだ。

 熱い息が顔にかかる。

「ちょろまかしたでしょ!」

 レンは平然と返す。

「……なんのことだ?」


 ガキッ!

 次の瞬間――冷たい銃口が顎の下にグイッと押し込まれた。

「しらばっくれないでよ!」

 銃身がわずかに熱を帯びて青く光る。

「ただの魔導結晶の移送にあんたたちを使うわけないって、分かってるでしょ!」

「そうか……それで?」

「どこに隠したの!」


 ツバサが慌てて手を振る。

「ミカゲ……それは――」

「ツバサは黙ってて!」

 ミカゲの声が鋭く跳ねた。

 彼は銃口をさらに押し込む。

「答えなさいよ、レン。今すぐ」


 レンは銃口を押し上げられるまま、ゆっくりと顔を近づけた。

「ミカゲ……お前、いつから食ってる?」

 ミカゲの目が一瞬泳いだ。

「そ……それとこれとは――」

「魔導結晶をアクセラから直接卸してもらってんだろ?」

「だから……」

「お前の体から甘ったるい匂いがプンプンしてるぜ」


 ミカゲの頬がわずかに紅潮した。

 銃口が小刻みに震える。

「……私のことはいいわ。ブツはどこ?」


 レンの義手がそっと彼の手首を包み込む。

 金属なのに、妙に優しい感触。

「……落ち着けよ」

 ミカゲの肩がビクッと跳ね、息を吐く。

 ゆっくりと銃口が下ろされていく。

 最後にカチッとホルスターに戻る音。

「……早く言いなさいよ」

「ミカゲ。俺にいい案がある」

「案……?」

「探し物はもうここにはない」

「……えっ」

「つまり――お前はこのままだと間違いなくアクセラに殺される」

「そんな……!」

「……生き残りたければ俺に協力しろ」


 ミカゲが眉をひそめた。

 唇を噛み、瞳が揺れる。

「……報酬は?」

「お前が本当に欲しいもの」

 ミカゲは一瞬唇を噛んだ。

「……はぁ、分かったわ」


 レンは満足げに頷き、立ち上がった。

「決行は今日の夜。それまでに用意しておいてもらいたいものがある」

「なんでも言って。もう引けないもの」

 ツバサがぴょんと跳ねて二人に抱きついた。

「チーム再結成だねっ!」

 レンは顔をしかめながらもツバサの頭を軽く撫でる。

「うるせえよ」

 3人は顔を見合わせ、小さく笑った。



 ――夜。

 燐光区の中心部で突然ボヤ騒ぎが発生した。


 銀行の裏口から上がった炎は生き物のように屋上へ這い上がる。

 あっという間に黒煙が空を覆った。

 消防が駆けつけ、救急隊が担架を運び、警察が群衆を誘導し始める。



 混乱のど真ん中、燐光区大病院の正面玄関では――

 ガンドが巨腕を受付カウンターにドンと叩きつけた。

「院長に通せ」

 受付嬢は完璧な笑顔のままゆっくりと首を振る。

「畏まりました。少々お待ちを」

 指が机の下に滑り、隠しボタンを押した。

 キーン! キーン!


 警報が鳴り響き、正面のシャッターが高速で降りてくる。

 ガンドが入口に視線を向ける。

「なっ!? なにをした!」

 振り向き直すと、受付嬢の手には魔導小銃が握られていた。

 ガンドが叫ぶ。

「お前ら、散開しろ!」

 バババババババババ!

 銃火がロビーを舐めた。



 ――同時刻、病院裏口。

 火事の負傷者を運ぶ担架が次々と搬入されている。

 看護師たちが慌ただしく走り回る。

 トリアージのテントの中で、3人の“軽傷者”が担架からスッと起き上がった。


 レンは包帯で顔を隠し、ミカゲは看護師の白衣を羽織って平然と歩く。

 ツバサは首輪の小型投影器によって、包帯頭をホログラムで作っていた。

 ツバサが小声で笑った。

「うまくいったね」

 ミカゲが呟く。

「ガンドたち、町に火を放つなんて大胆すぎるわよ」

 レンが先頭を歩きながら肩をすくめた。

「ほら、急ぐぞ。ちょうど表でドンパチやってる」


 廊下が負傷者で溢れかえっている。

 担架がぶつかり、血の匂いと消毒薬が混じる。

 レンが先頭、ツバサが後ろ、ミカゲが真ん中。

 三人、息を殺して人波を縫うように進む。

 すると看護師が慌てて駆け寄ってきた。

「そこの患者さん! まだ処置が――」

 ミカゲが笑顔で看護師の肩に手を置き、小さく首を振った。

「大丈夫よ。私が連れて行くから」

 看護師は、見惚れて頷いてしまった。


 地下2階への階段前。

 魔導ロックの扉が立ち塞がる。

 レンが顎をしゃくった。

「ここだ」

 ツバサが端末を取り出し、指を踊らせる。

「おっけー」

 ピー。ガチャッ。

「開いたよー」

 ミカゲが感心したように口笛を吹いた。

「相変わらず早いな、ツバサ」

「えへへ」

 階段を下りきると、さらに重厚な扉が現れる。

 ツバサが端末を叩いた。

「あー、ここ物理キーもいるタイプ。どうする?」


 レンは無言で右手を握り、肘から先を軽く振りかぶる。

 ドガシャン!

 一撃で鍵穴ごと金属板が吹き飛び、扉が内側に倒れ込んだ。


 ミカゲが呆れたように笑みを浮かべた。

「野蛮」

 レンは埃を払いながら先に進む。

「うるせえ。時間ねえんだよ」

 扉の向こうは真っ暗だった。

 甘ったるい匂いがむっと鼻を突く。

 レンが低い声で言った。

「ツバサ」

「いまやってるよー」

 カチ、カチ、カチ。

 天井の魔光灯が一斉に点灯した。

 ――そこに広がっていたのは。


 床一面に横たわる子供たち。

 何十人もの小さな体。

 チューブが腕に刺さり、青白く発光する液体が絶え間なく流れ込んでいる。

 点滴の音が規則正しく響く。

 ――ポタ、ポタ、ポタ。

 誰も泣かない。

 誰も動かない。

 ただ虚ろな目で天井を見つめている。

 誰もが深い眠りについているようだった。


 ツバサの炎が震えた。

「……ひどい……」

 声が掠れる。

 レンは少女の目をそっと開き、瞳孔を確認した。

「……眠らされてるだけか」

 ミカゲは唇を噛み、目を逸らした。


 そのとき。

 ガチャリ。

 奥の巨大な扉が開いた。

 スーツの男が部下を十数人引き連れてゆっくりと歩み出てくる。

「飼い猫に手を噛まれるとはな」

 男は薄笑いを浮かべた。

「ミカゲ、製造機を見つけたことは評価していたが、お前はもう用済みだ」

 ミカゲが一歩前に出る。

 銃を握る手が白くなった。

「……ヤベゥ」

 ヤベゥは肩をすくめた。

「裏切り者は始末する」


 レンが静かに立ち上がる。

「ツバサ」

「おう!」

 レンの腕が魔力回路を煌めかせ、光の刃がシュンッと立ち上がった。

 ヤベゥが手を軽く上げる。

「全員、殺せ」

 部下たちが一斉に銃を構えた。

 レンが低く笑った。

「安心しろ、殺しはしねえ。ここは病院だからよ」


 次の瞬間、青い閃光が地下室を縦横に走った。

 ――【なんでも屋 ブレイズ・フィスト】

 今夜、三度目の“本当の仕事”が始まる。


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