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骸の王

「ではこれより『契約』を執り行います。プライド様と、聖女ひじりめ朔羅さくら様、うた様、あかりん様のPTによる『連合軍ユニオン』が、『10階層のモンスターを30分以内に倒す』を達成出来れば、プライド様へグリード様が現在まで獲得した全所持金2億5千万バベルから支払われ、且つ『強欲な宝箱グリードボックス』クランメンバーを使い『プライド様が夜叉を倒した』と言う話を全力で流布する。達成出来なければ聖女ひじりめ朔羅さくら様の『強欲な宝箱グリードボックス』加入と、プライド様の持つ夜叉の素材のグリード様へ譲渡する。もしもこの契約に違反した場合、プライド様とグリード様の両名は互いの『人権アカウント』をもってこれを償う。この内容で相違ありませんか?」


「あぁ。問題ない」

「間違あらへんよ」


 豪奢な服をきた男が才斗とグリードの賭けゲームの内容の確認を行う。


「相違ないとの事なので私、商人ギルバートはこの内容を対等な物と判断します。『契約』は女神マリア様の名と力によって絶対順守されます。よろしければ『了承アクセプト』をお願いします」


「「了承するアクセプト」」


 才斗とグリードが了承アクセプトをすると神聖な金色の光が二人を包み込み、その契約を絶対の物へと変えた。


「ギルバートさんきゅーね。ささそれじゃまぁ始めてもらおか?まさか一旦戻って転職してからやるなんて野暮な事せんやろ?」

「は?転職だ?そんなもんしなくても余裕だっつうの」

「さよか。じゃあ楽しみにしとるよ~。ちゃ~んと可愛がっとるさかい安心してな」

「上等だお前らの有り金全部ぶっ飛ばしてやるよ」


 そう言うと才斗はグリード達に背を向け強力なステージボスである『スケイルブルキング』が待つ10階層へ繋がるポータルに歩きだす。

 その顔には一片の不安も後悔もない。


 ステージボスとは10の倍数の階層にいる階層守護者モンスターだ。

 これを撃破すると上の階層へと進む事が出来る。

 しかしこのステージボスとは伝説級エピックモンスター程ではないが、ステータス値が他のモンスターとは比べ物にならない程高く、複数のPTで『連合軍ユニオン』と呼ばれる軍団を作り挑まなければクリアする事が出来ない難易度に設定されている。

 

連合軍ユニオン』とはステージボスや特殊ステージでのみ許されるPTの集合体の事で、最大で上限PTメンバー4人×4PTの16人までで組む事が可能である。

護衛と違い、報酬や経験値は全て均等に分配され、上の階層にいける権利も得るので必ずと言っていいほど16人でステージボスに挑むのだが。

 

「「楠君!」」

「悪いな巻き込んで。お前達はボス部屋入ったら端っこでアホ娘に守ってもらっててくれ」

「はい!護衛はお任せください!」

「そういう事を言ってるんじゃないわよ!何よアレ?あんな事契約して負けたらどうするの?」

「勝てばいいだけの話だろ?」

「呆れた……」

「でも楠君本当に大丈夫?私に出来る事とかないかな?」

「あ~大丈夫だ。出来れば今まで見たく強化バフ支援くれると嬉しいくらいだな」

「それはいいけど……ねぇ何で嘘までついてあんな契約したの?」

 

 少女達は才斗に駆け寄り三者三様の顔をしている。

 朔羅は全く理解出来ていないが完全に信用しきった顔で、灯はまた無茶な事をしだした才斗を怒りながら心配している顔で、歌羽は怖くて仕方がないのにそれでも頑張ろうと言う顔で。

 才斗はそんな少女達の顔を見ると自然に笑顔になり、歌羽の問いに努めていつもの調子で答える。


「ちょっと主人公みたいな事したくてな」

「「……楠君」」

「才斗さんは勇敢ですね!では張り切って参りましょうか!」

「仕切るなアホ娘が!」


 その言葉にどこか違和感を感じ逆に心配を加速させる歌羽と灯、自分達がこれから何をするのか分からないが才斗の言葉から覚悟を感じ取りそれに乗る朔羅。

 そんなやり取りをしながら10階層のポータルに消えていく才斗達を見てグリードとスロウスは何処か寂しそうな顔を一瞬したが、すぐにその顔をいつものそれに変えると。


「どうする?」

「決まっとるやろ。勝たせる必要あらへん」

「うん。それでこそグリリン」

「うちが手抜きしよ言うても聞かんくせに」

「うん。だってゲームだし」

「ほな全力で頼むわ。楽しんでいこか!」

「当たり前」



「ごめんねさいとん」



 スロウスのその言葉は才斗には聞こえない。

 その言葉が何を指しているのか、何故グリード達が勝利を確信していたのかが分かるのは才斗達が10階層に入ってすぐの事だった。



「おいおい、何だこれ?」



 女神の塔10階層、洞窟ステージのボス部屋。

 そこは洞窟と言うよりは周りを岩に囲まれた広い処刑場と言った方が適切だろう。

 頑強な岩の壁は何者も逃げる事が敵わず、周りには地獄の業火でも灯したかの様な松明たいまつが不気味に部屋を照らしている。そしてその松明が照らす処刑場の中央に佇むこの部屋の主。


 スケイルブルキング。10階層のステージボス。

 ミノタウロスの巨体を更に倍の10メートルまで巨大化させた凶暴な大牛鬼の怪物であり、その体には血色の赤いフルプレートの鎧と身の丈程の巨大な大斧を装備した赤の処刑人と言われているモンスター。

 凄まじい物理攻撃耐性と攻撃力を持ち、大斧から繰り出される技はその巨大さと反比例するかの如く速く、そして見た目通り必殺の威力を持ってる。


 だが目の前のソレは明らかに様子がおかしい。


『ググガガグアガ……』

「どうしてあのモンスターさん苦しそうなの?」

「わらない。けど普通じゃないわ」


 本来獰猛で攻撃的なスケイルブルキングは部屋に入るといきなり突撃してくる筈なのだが、目の前の個体は苦しそうに呻き、その血色の鎧を自分で掻き毟り自らの体を傷つけている。

 

『ガアアアアアアア!』


 しかし何より異常な点はもっと他にある。

 

 その体からさっきスロウスが放っていた物と同じどす黒い魔力が溢れだしているのだ。


 一際大きい雄叫びをあげるとその体が崩壊しだし、黒い魔力と馴染んでいくいくようにその体を再構築している。

 まるで何者かにそう強制されている様に。


 ズバズバアアアアアアアン!


「悪いがオレは変身を待つタイプじゃないぜ?」


 そして姿が変わっていくスケイルブルキングに向け才斗が歩き出したかと思うと金色の輝きを放ち、崩壊し再構築していくその顔面に計24発の魔法の砲弾が撃ち込んだ。

 

「やっ、やりましたか?」

「お前お約束好きだな。そんなわけないだろ」


 才斗が撃てる現状の最大威力の一撃はHPを1ミリも削れてはいなかった。

 むしろその攻撃は届いてすらいない。

 朔羅にかき消された時ににたエフェクトがただ大量にキラキラと出ているだけだ。

 一つ違うのはその光の残滓までもが黒く塗りつぶされている事だろう。

 そしてその黒い光が治まり中にいたモノに一行は目を見開く。


「うそ……どうして……」

「こんな事って……」


 その中にいたのは果てしない絶望だった。

 スケイルブルキングも、400体のモンスターの軍団も、夜叉ですらも可愛く感じる絶望。


 全長はスケイルブルキングの三倍近くあり、その身をどす黒さを超えある種の美しさすら感じる漆黒の闇で纏い、その身に纏った闇と同じ色をした2本の巨大な宝剣を携えた骸の王と言う二つ名を持つ最強のアンデッドモンスター。


 そのモンスターは全プレイヤーからこう呼ぼれている。


 骸の王スカルカイザー。


 伝説級エピックモンスター、『スカルカイザー』と。


「なっ、やばい!聖女ひじりめ!」

「お任せを!」


 姿を現したスカルカイザーはその手にある黒の宝剣を走らせ目にも止まらぬ絶望の斬撃を放つ。

 才斗はブリンクで瞬間移動をし、朔羅は歌羽達を担ぎ空中を蹴り、その必殺と言う言葉すら生温い魂すら残らないであろう1撃を咄嗟に回避する。

 その斬撃はほんの1瞬前に才斗達がいた地面を消し飛ばしていた。


「スロウスの仕業か?何したらこんな事できるんだってんだよ」


 スロウスのMGOの時の職業はエレメンタリストと対をなすウィザードのレア職業『ネクロサモナー』。

 エレメンタリストが4属性の魔法を使いこなし戦うのに対し、ネクロサモナーは自分では殆ど戦わず自分の使役する闇の召喚獣で戦う職業だった。

 

 しかし召喚ではなく変換、しかもそれを伝説級エピックモンスターにしてしまう様なスキルは無かった筈だ。


「ちっ、それがお前のチートかよ!相変わらずえぐいダレロリだぜ!」


 恐らくあの黒いモンスターもスロウスの仕業だと直感した才斗は、舌打ちをしながらスカルキングのクリティカルポイントである胸左胸に向けバーストバレットを撃ち込む。

 だが。


超魔力障壁マジックディスターバーだと?特性能力もそのまんまかよ・・・」


 そんな今まで数多くのモンスターを屠って来た才斗の最大火力の魔法は、スカルカイザーの体に命中する寸前に霧散してしまった。


 伝説級エピックモンスターはその絶大なステータス値の他に厄介な特性能力を持っている。

 例えば夜叉なら、システム上不可能な速度を誇る『神速』と、どんな耐久力でも攻撃が当たれば必ず1撃で殺す『絶剣』を持っている様に。勿論スカルカイザーにもそれは適用される。


 超魔力障壁マジックディスターバー

 全ての魔法スキルを無効にしてしまうスカルカイザーの特性能力。

 言葉通り全ての魔法を無効にしてしまえる漆黒のエネルギーフィールドを自分の周りに常時展開しており、いくらシステムを捻じ曲げる才斗のバグ魔法も所詮は魔法スキルの合体技にすぎず、魔法である限りその黒い障壁に例外なく無効にされてしまう。


「楠君!何でスカルカイザーがこんなところにいるのよ!?」

「まぁどう考えてもあいつらの仕業だろうな」

「そんな……こんなの反則だよ……スケイルブルキングを倒すのが条件でしょ?」

「そうよ!こんなのどう考えても無効だわ!」


 スカルカイザーの激しい剣戟を攻撃を才斗と朔羅が躱している中、朔羅に抱かれている歌羽と灯が抗議を声を大にして主張する。

 当たり前の抗議だ。

 こんなものゲームとして成り立つわけがない。


「いや俺達のした契約は残念ながら『10階層・・・・のモンスターを30分以内に倒す』だ。一言もスケイルブルキングを倒すなんて言っない」

「そんなのって……」

「卑怯だわ!完全に詐欺じゃないの!」

「……まぁあの時点から勝負は始まってたって事だな。これは完敗だわ……」


 そう完全に卑怯なだまし討ちだ。

 これがクリード達の勝ちを確信していた理由。

 イカサマなんて可愛い物を遥かに超えた明確な悪意を孕んだ詐欺。

 本来才斗では30分でHPを削りきれない強大過ぎるステータスを持つ伝説級エピックモンスターを使い、尚且つ万が一の事も考え魔法使いでは絶対に勝てない魔法無効化が出来るスカルカイザーをぶつける。

 そんな徹底したパワープレーごりおしの前に流石の才斗も黙り込むしかできない。



「つまんない」

「あはははは!ちょろっとやりすぎてもうたかな?」


 自分の召喚したスカルカイザーを通してゲームを見て不満を漏らすスロウスと、機嫌よく腹を抱えて笑うグリード。


「ゲームになんない」

「そういいなやって。スロウスかてプライドを下僕に欲しいやろ?」

「うん」

「ほんで?嬢ちゃんの方はどうなん?死んでまった?」

「全然余裕で回避してる」

「ほぉ~。流石うちの見る目は確かだったようやね。殺さん様に適当に相手してやってな?」

「はいはい……つまんない」


 グリード達が勝ちを確信している根拠の2つ目。

 スロウスのURスキル『パーフェクトフィードバック』により彼女は支配下にあるモンスターの情報を自分に投影し思いのままに操る事が出来る。

 つまり魔法使いの才斗では絶対にダメージを与えれないモンスターを最強のゲーマーの1人である自分が操作出来るのだ。

 故に間違って殺してしまう事すらなく、才斗達はただこの幼女に遊ばれながら時間切れタイムオーバーを迎える事になる。



「でもまだおもろいゲームになるかもしれんで?」



 悪魔達は自分達の仕組んだ必勝のゲームの終わりを待っていた。そのあまりにも絶望的なゲームを盛り上げてくれる事を願いながら。


 


「とかどうせもう勝った気でいるんだろうなあのロリ共。ははは」

「笑い事じゃないわよ楠君!確かに余裕で攻撃は避けてるけどこれじゃあ……」

「時間切れで負けちゃうよ……」

「なぁおかしいと思わないか?」

「「え?」」

「アホ娘なら分かるだろ?」

「そうですね。攻撃に殺気がありません。それどころか手加減を受けている様にも感じます」


 そう弱すぎるのだ。

 いや攻撃が全く通らないのだから弱くはないのだが、肝心の攻撃が全く才斗達を捉える気が無い。


「……舐めやがって」


 振り下ろされるスカルカイザーの宝刀に対し、才斗は急に立ち止まり避けれる事を放棄した。

 その瞬間、スカルカイザーの体が一瞬ビクッと震えると、そのままの勢いを保ったまま死を与える筈の一撃を才斗に振り下ろす。


「「楠君!」」


 その宝刀は本来なら才斗を跡形も無く吹き飛ばせる破壊力がある。

 しかし才斗は生きている。

 激しい土煙が晴れるとそこには五体満足の才斗と、その才斗の一歩真横の地面を宝剣でえぐり飛ばしたスカルカイザーが立っていた


「つまりはこういう事だ」


 暗に才斗はこう言っているのだ。

 ゲームですらないと。


「おいアホ娘!」

「はい!何でしょうか才斗さん!」

「そいつら持っててやるから、やれ・・

「宜しいのですか?ご友人との勝負とお見受けしましたが?」

「構わない。あいつの障壁だけでも破壊出来ればまだ勝機はある」


 魔術師殺しであるスカルカイザーの唯一の弱点。

 それはHPが半分を切ると超魔力障壁マジックディスターバーが消滅し、只のステータスが絶大なだけのモンスターになる事。

 本来ならそれでも勝機などない絶望的な戦力差なのだが、才斗にはそれを覆す秘策があるらしい。


「なっ、なんと才斗さんが私を頼ってくださるとは!感謝感激ですよ!」

「うぜぇな。やるのかやれないのかどっちだ?」

「無論やりますとも!ですがご期待には沿えないかもしれません……」

「ちっ……やっぱ流石のお前でも無理か」



「倒してしまっても構いませんか?」



 ゾワッ!


 そんな鳥肌が立ってしまう程の威圧感が朔羅からほとばしる。

 それは恐らく骸の王たるスカルカイザーを操っている悪魔も感じただろう。

 圧倒的なまでの、いや究極の強者だけが持つ事を許されたオーラ。


「はっ!オレの剣の分際でオレを差し置いてそんな事出来るもんならやってみな!」


「はい!では聖女ひじりめ第199代目剣聖あらため才斗さん剣、聖女ひじりめ朔羅さくら参ります!」


 女神から人外認定をされた神ゲーマーすら完封し、邪神すらはらった少女は今、その必殺の剣を悠然と悪魔の生み出した骸の王へ向ける


「さぁ!いくさを始めましょうか!」



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