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バグVSチート

 聖女ひじりめ一族。


 退魔師を生業としており、昔より世界の裏側からこの星の平和を守ってきた『剣聖』の一族。

 言い伝えによると1000年前に暴走した神々が世界を滅ぼそうとした時に、自分を異世界の聖女だと言う不思議な女性が現れ、それを封印し世界を守ったらしい。

 その功績を時の天皇は称え、聖女を『ひじりめ』と呼び、人ならざるモノからこの世界を守る役目『剣聖』の地位を与えたと言うのが聖女ひじりめ一族の成り立ちだった。


 一族は皆卓越した身体能力と、魔法の様な力を使え、まさに人を超えた存在である。

 しかしその力は、初代聖女ひじりめの血が薄くなると共に弱くなっていき、198代目を迎える頃には衰退しきり、剣聖と呼ばれる程の力は殆ど残っていなかった。

 そんな一族を救ったのは、歴代最年少で199代目剣聖を継いだ少女だった。



「さぁ!いくさを始めましょうか!」


 その白い肌と髪から真紅の瞳を輝かせ、太陽な笑顔でそう言う少女。


「かっこいい!かっこいいよ朔羅ちゃん!」

「流石朔羅だわ!見なさい楠君、あれが主人公と言うものよ?」

「お前等いい加減に胸揉むぞこら」


 才斗は朔羅が抱きかかえていた歌羽達を預かり、スカルカイザーと朔羅から距離を取る。

 スカルカイザーは目標を朔羅に絞ったらしく、先程の全く殺気の無い攻撃と違い、まるで試すかの様な攻撃を朔羅に仕掛け、朔羅はそれをひらひらと避け続ける。

 伝説級エピックモンスターのステータスは途方もない数値なので、もしこの黒い宝刀が少しでも当たってしまえば例え朔羅であれど並みのHPしか持ち合わせていなので塵芥ちりあくたとなり果てるであろう。

 だと言うのに朔羅顔に焦りの色は一切なく、ただ何事も無いかの如く余裕で回避し、攻撃に転ずる時を待っているかの様だ。


「すごい……綺麗……」


 巨大な骸骨の化け物の攻撃を、一切の無駄がない動きで避ける朔羅は、その容姿も相まって雪の妖精がダンスでも踊っているかの様な、そんな見る者全てを虜にする幻想的な美を放っている。


「せいっ!はぁぁぁ!」


 そして朔羅が一瞬で距離を詰めると幾つもの剣閃が瞬く。

 今まで上層のモンスター達を瞬殺してきた剣聖の剣撃だ。

 しかし。


『グガアアアア!』


 その全てがクリティカルポイントを捉えているにも関わらずダメージは0。

 つまりスカルカイザーは無傷だった。


「12斬全てを受けて無傷……一筋縄ではいかない様ですね……」


 一瞬と呼ばれる時間に12回もの剣撃を繰り出し確かな手応えを感じた筈なのだが、その感覚と実際のダメージの違いに目を見開き、初めて焦りを顔に表す朔羅。


「ちっ……やっぱな」

「どういう事なの楠君?」

「速過ぎてよく見えなかったけど朔羅の剣は当たっていたでしょ?」

「ボス全部の持つ通常攻撃無効化特性だな」


 最初のスキルが少ない時こリキャストタイムに通常攻撃を挟むが、レベルが高くなるとそれをする事もなくなる。つまり通常攻撃は必要ないと判断されボスに対してはダメージが入らなくなる仕様にMGOはなっていた。


「アホ娘の攻撃はとんでもない速さと威力だがこの世界のスキルのエフェクトがない、つまりスキルとしてシステムが認知していない。だから通常攻撃に分類されちまってるって事だな。故に雑魚モンスターには効いてもボスには効かないってわけだ」


「「そっ……そんな……」」


 才斗の言葉に歌羽と灯は絶望する。


「敵の攻撃が当たらなくても、こっちの攻撃が効かないなら意味ないじゃない」

「そうだな。もしかすると効いている可能性もあるが、スカルカイザーのHPは100億を超えてるからそう見えるだけかもしれないな」

「えええええ!?そんなの無理だよ!」

「滅茶苦茶じゃないの!そんなの相手を倒すなんて不可能だわ」


 そう相手は伝説級エピックモンスターであり、途方もないステータスを持っている。

 仮に朔羅の攻撃が届いても、才斗が攻撃可能になったとしても、その果てしないHPを30分で削るのは物理的に不可能なのだ。


「まぁ確かに普通・・ならな?でもあいつは普通じゃない。手並み拝見と行こうぜ?どっちにしろ現状あのアホ娘でどうにもならなかったら完全に積みゲームオーバーだしな」


 才斗達が見守る中、朔羅は何回も必殺の攻撃を躱し、その数倍以上の剣撃を与えている。

 しかしその今まで必殺だったはずの剣はスカルカイザーを傷つける事は出来ていない。

 理由は先程才斗の言った通り朔羅の攻撃はシステム上通常攻撃として判定され、ボスにはそれが効かないからだ。


「成程。普通の太刀ではあなたを倒す事は出来ないようですね」

『ガアアアアアアア!』

「ならば!無限天歩!」


 朔羅もそれが本能で分かった様で、そう言うと一気にその表情を剣聖のソレに変える。

 目つきを変えた朔羅は今までよりも速度を上げスカルカイザーの攻撃を躱すと、いつもの様に空中を蹴り高速で移動し始めた。

 しかしその動きはいつもと違い、何度も何度も連続し、いつしか朔羅はその速さ故に残像を周囲に残し始め、やがてその残像は辺りを白く塗りつぶしてしまう程の数になっていく。


「今の私の体では無理をしてでも1000が限界の様ですね。しかも長くは持ちそうにありません。」


 その朔羅の姿の残像がどんどん形を変え白い桜の木へと変化する。


「ならばこそ、この一撃で決めます!」


 そしてその桜の木から、白い桜の花びらがブワッと舞い散り桜吹雪を起こす。

 

聖女ひじりめ無双流むそうりゅう、千本桜!」


 斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬


 そう言うと朔羅の姿が消え、千本の白い桜の木からなる巨大な桜吹雪は千の剣撃音を重ねた途轍もない轟音を上げスカルカイザーを貫き、その100億を超えるHPの全てを削り取った。


「あなたがいかに堅牢であろうとも、狂い咲く千の桜吹雪ざんげきの前では意味をなしません。そしてこの世界が私達のいた世界と全く別の法則で成り立っている世界であっても私が聖女ひじりめ無双流むそうりゅう第199代剣聖である事実に変わりはありません」


 朔羅の攻撃がシステムで通常攻撃として判定されたのならば、その判定の上をいけばいいだけの話であり、それが出来るのが朔羅だと言う事なのだろう。

 そんなあまりにもスケールの違うバグを起こした朔羅に才斗は乾いた笑みを送りながら、駆け寄る。


「はははは!お前マジで半端ないな。もうお前一人でクリア出来るんじゃないか?って、ん?どうした?顔真っ青だぞ?」

「はぁはぁ気にしないで下さい。はぁ少し無理をし過ぎただけはぁですので」


 その朔羅の姿に才斗は驚愕する。

 朔羅の元々白過ぎる肌はその白さを更に増し血の気が感じられない程白くなっていて、その体も小刻みに震えている。


「それよりすいません才斗さん」

「何謝ってんだよ?本気で倒せると思ってなかったけど楽出来て何の問題もないぞ?」

「いえ……この剣では千本桜に耐えられませんでした。はぁはぁ浅かった様です」

「お前それ……」


 明らかに消耗しきっている朔羅の手には白い残滓になっていく剣が握られていた。

 朔羅は確かにシステムを超えた一撃を放った。しかしその体も武器も朔羅の出鱈目な動きについてこれず威力を発揮しきれなかったのだ。

 そしてよく見るとHPを僅か1%未満にしたスカルカイザーがよろよろと立ち上がり、その絶望の咆哮を上げる口を開く。


『あっはははは!白いお姉ちゃん凄すぎ!アンこんなに驚いたの初めてだよ!本当に最高!ねぇ?もっとアンと遊ぼ?ここまで面白そうなゲーム今までないから体が火照ってアンぞくぞくしてきちゃった』


 スカルカイザーの口から出たのは、いつもは怠そうにしていて口数の少ないスロウスの声だった。

 その声からいつもの気怠さが一切感じられないどころか、いつもの様子から想像も出来ない程興奮しドキッとしてしまう妖艶さも含まれている。


「お前らしくないなダレロリ。そんな興奮して変な声だしてると条例とかに引っかかるぞ?」

『さいとんいたんだ?ごめん。今アンはそこのお姉ちゃんと遊んでるから消えて』


 興奮しきったスロウスには才斗などまるで眼中にないらしくゾットするほど冷たい声でそう言う。

 才斗はちらっと朔羅に目をやるが立っているだけでも精一杯と言う様子であり、何より武器がない。


「そう言うなよ。このアホ娘に良い様にやられて悔しいみたいだが見ての通りこいつはもう戦える状態じゃない。せっかく超魔力障壁マジックディスターバーも消えたんだしオレと遊べよ」


『動きならさっき見た。確かに変わった魔法を使えるみたいだけどそれじゃあアンとは遊べない』


「はん!魔法無効化なんてもん使っといてよくそんな大口叩けるな。それにお前一度でも本気のオレにpvpで勝った事あったか?」


『言っとくけどそれを提案したのはグリリン。アンはそんな事しなくてもいいって言った。でもいいよ。そんな下らない挑発してまで死にたいなら殺してあげる』


 さっきの興奮がまだ残っているスロウスはやはりいつもより饒舌であり、それと同時に才斗の挑発を下らないと言ってはいても年相応の子供らしくその声に苛立ちを乗せる。


『あぁ、でも安心していいよ。アンの大陰陽師って職業は倒したモンスターやプレイヤーの情報を書き換えて蘇生させて式神として使役出来るから。さいとんは死んでもアンの奴隷として復活さしてあげる』


「悪いが負ける気がしないんでそれ無理だな。ていうかやっぱあのモンスター達はお前の仕業だったか。なんであんな事したんだ?」


『アンは暇つぶし。グリリンはふるい落とし。でもアレは全部モンスター達に任せてたからアンは動かしてない。ただ実験で死んだプレイヤーの何人かは式神にしたけど』


「そうかそれは良かった。まぁ流石にお前があんなどうしようもない操作するわけないもんな。一応聞くが甦らした奴の中にトリスって奴はいるか?」


『覚えてない。そんな事より早く遊ぼ。いくよ』


 やはりという思いと多少の残念な思いを感じている才斗に向けて、スロウスは先程までとは打って変わり斬力で倒しにいく攻撃を仕掛ける。


「はっ、おせえよ!」


 ズバズバズバズバズバアアン!


 そしてその攻撃を全て避け切り、朔羅が戦っている時からディレイキャストを使って溜めておいた分を合わせた合計300発の砲弾を使ったバーストバレットをクリティカルポイントに撃ち込む。

 しかしその僅かなHPバーが完全に0になる事はない。


「ちっ……まさかまだ無効化されてんのか?」

『ふ~んやっぱ変わった魔法。効いてるよ?さいとんの攻撃がゴミなだけ。分かりやすくしてあげる』


 すると今の300発バーストバレットを見て多少の驚きを見せたスロウスがそう言うと、HPバーが全部緑になる。

 そしてそのHPは丁度1億と書かれていた。


『ちなみに白いお姉ちゃんが削ったのは98億9997万だから、さいとんの1発は約100しかダメージない』

「はっそりゃゴミだわな。時間掛かりそう・・・・・・・だぜ」


 才斗は300発のバーストバレット全ての弾数を一瞬で数えてしまう動体視力を持つスロウスに多少驚きながら、自分の魔法の威力の無さにげんなりする。


『さいとんバカ?計算できないの?』

「ゲームは計算ドリルじゃないぜ?」


 そんなやり取りをしながらスロウスと才斗は戦いを再開する。

 そう誰でも分かる問題だ。

 才斗が溜めていた今までで最大の攻撃をもってしても1%すら削れていない。

 圧倒的な火力不足。

 しかも残り時間は20分を切ってしまっている。

 どう足掻いても削りきるのが不可能な現状に加え、殺して蘇生させるつもりのスロウスはさっきまでの温い攻撃を仕掛けてくるわけもなく、まるで才斗の動きを完全に読み一手一手追い込むように攻撃してくる。


『まさかこれで終わりじゃないよね?それに確かに動きは速いけどアンには通用しないよ?』

「そんなわけないだろ?んで?このままじゃあと87手でオレの詰みか?」

『いや21手』

「お前が言うならそうなんだろうな」


 才斗の中ではこの絶望的な火力でも倒せる算段があるようだが、このままではそんな奇跡すら待たずに才斗は負けるらしい。

 確かに才斗の反射速度も動きも人の域を超えている。

 しかし今回は相手も同じ人の域を超えた化け物であり、圧倒的なステータスを持つスロウスは才斗の様に攻撃を躱す必要が無く、ただ攻撃をもらいながら才斗の一瞬の硬直のスキをを突けばそれで終わってしまうのだ。

 そして才斗とスロウスの激しい戦いが20手目を迎え21手目になる。



『つまんない。バイバイさいとん』



 才斗の攻撃する瞬間を計算しつくされドンピシャのタイミングで骸骨の化け物がその黒い宝刀を振る。

 その必殺の宝刀は才斗を紙切れでも破く様に易々と斬り裂く。


『え?』


 事はなかった。


 才斗の確定した筈の死の代わりに3つの事が起きたからだ。

 一つ目は斬り裂く瞬間で消えた才斗が今までの金色の光を瞬かせる・・・・のではなく金色の光を纏っている・・・・・事。

 二つ目はその才斗が先程の朔羅の様に残像を残しながら何度も・・・瞬間移動をしている事。

 三つ目は才斗とその残像から合計1200発・・・・・もの魔法の砲弾が放たれている事。


 ドカアアアアアアアン!


無限魔法エンドレス


 その才斗の呟きは1200と言う常識を超えた砲弾が同じタイミングで骸骨の化け物を穿った耳をつんざく爆音が塗りつぶし、代わりに12万と言うダメージを叩き出す。

 そのあり得ない光景を見たスロウスは勿論、朔羅達ですらも声がでない。

 確かに1億の内の12万なので大した事は無い筈なのだが、問題なのは数字ではなく時間である。

 才斗はたった1秒で1200の魔法を撃ち12万のHPを削った事になるのだ。


『……さいとん今何したの?』


 そんな事をした才斗に疑問を投げかけるスロウスの言葉にはさっきまでの興奮や落胆の色は無く、ただただひたすら戦慄していた。


「これでゲームになるだろ?」


 そんな悪魔スロウスに向けてもう一人の悪魔プライドは笑いかける。


「第2ラウンドといこうぜ?」


 悪魔達ゲーマたちの本気の戦いが幕を開けた。



メリークリスマス!

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