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悪魔との賭け

「そして雷神にこう言ってやったんです、『あなたが万の雷で絶望を振りまくなら、私は億の刃でその尽くを斬って見せましょう。例えその数を無限に増やしたとしても、それならば無限すらも超えればいいだけの事です』と、そして放たれた万を超える雷ごと雷神を聖女ひじりめ無双流むそうりゅうの秘奥義で斬り裂きました」

「「かっ!かっこよすぎる!」」


「ですがその雷神ですら邪神に操られていたに過ぎませんでした」

「そんな、雷神さん凄く強かったのに……」

「なんて奴なの邪神……」


 女神の塔9階層の洞窟ステージには少女達のそんな賑やかな声が響いていた。


「そして正気を取り戻し消えゆく雷神は『悪いな嬢ちゃん、あんたの力であいつの眼も覚ましてやってくれねぇか?あいつは唯一の親友なんだ。俺にはそれが出来なかったからよ』と何処か寂しそうな笑顔でそう私に言い残して消滅しました」

「「雷神んんんん!」」


「私はあまりに無力です……」

「そっ、そんな事ないよ!朔羅ちゃんは頑張ったよ!」

「朔羅は何も悪くないわ!悪いのはあの卑劣な邪神よ!」

「歌羽さん、灯さん……そしてその後」


 9階層の最奥に向かう道すがら、色々あって才斗と同行する事になった少女達は、歌羽が朔羅は元の世界にいた時にどんな戦いをしてたのか?という質問から、朔羅がダイジェスト形式でかいつまんで自らのラノベ的な英雄譚を語り始め、その無駄に熱い展開に歌羽と灯は大興奮しながら聞き入っていた。


 そして我らが神PSゲーマはと言うと、その少女達の少し前を歩きながらダークゴブリンの軍団を苦い顔をしながら一人で蹴散らしている真っ最中である。


(くっそ、アホ娘のくせにオレを差し置いて中々な主人公やってやがったのか。んでその後どうな……って違う!人が折角色々考えてやってるってのにあいつらはオレをハブって楽しそうにしやがって。いや決してあの空間に混ざってオレもゲームの武勇伝をしたいとかじゃないんだけどもな)


 才斗が苦い顔をしている理由は、何も自分だけが新たに朔羅が加わり3人になったハーレム(仮)の輪に入れないでいる事だけではない。

 新たに出来た懸案事項のせいである。

 

「雷神との闘いが終わり司令部へ帰還した私を待っていたのは、むむ魔の気配、失礼!セイ!ハッ!お待たせしました。えっと何処からでしたっけ?」


 朔羅は話を一旦中断させると、物凄いスピードで空中を蹴って移動し、才斗が相手をしている以外・・の自分達の周りのモンスター達を瞬殺して何事もなかったかの様に戻り話を再開し始める。


 才斗は効率重視の為グリードのいる9階層の最奥を目指しながらも、歌羽達の護衛は朔羅に完全に任せ、自分は黒いモンスター達をなるべく倒して経験値を稼ぐ方針で行動している。

 上の階層のモンスター達のお陰で才斗のレベルはぐんぐん上がり、レア職業であるエレメンタリストの転職条件を全て満たしながら転職可能な20レベルまできたのだが、新たに出来た懸案事項のせいで素直に喜べないでいた。

「そこには壊滅した司令部がありました。ってどうしたんですか才斗さん?そんな渋い顔をして」

「いや、別に……」

「楠君もお話聞きたいんでしょ?すごいんだよ朔羅ちゃんまるでヒーローみたいで!」

「そうね。少なくてもどこかのセクハラゲーマー様よりはヒーローみたいよね」

「いや~ヒーローだなんて。私はただ自分の使命を果たしているだけですよ」

「………………」

「才斗さん!?何故そんな目で私を見るんですか?すいません私何かしましたでしょうか?」


 朔羅は何の悪気もなくそんな事を言い心配そうに才斗を見てくる。

 現在彼女は才斗に言われ、出会った時の白い着物から最初に渡された女性用ウォーリーアの防具に着替えており、白い髪は目立つものの、ぱっと見変わった外見の美少女にしか見えない。

 これは朔羅がプレイヤーを助けていた夜叉だと分かりにくくするための一時的な措置として行った策であり、彼女はゲーム初心者ゆえに、何と今までマジックバックの使い方が分からず、防具すら装備していなかったのだ。

 

(まったく……人がこれからやろうとしてる事も分からずのんきなもんだ。まぁでもさっきみたいな空気になられるよりはまだこっちの方がいいんだけどさ。でもそれにしたってもうちょいヒロインの嗜みみたいのがあっていいと思うんだよな~)


 懸案事項とは朔羅の天国行きの阻止である。

 朔羅は才斗と同じく何も与えられなかったにも関らず、元の世界の経験を活かし才斗とはまた違ったバグを起こせる様で、その力でモンスターに襲われているプレイヤーを派手に助けていた。

 しかしその活躍を余りにも派手にやってしまった事で大騒ぎを招き、女神に天国に送られる事がほぼ確定している。

 一応才斗は朔羅を助けるアイディアを考えたのだが、それはかなり危険な賭けであり、本来ならあまりやりたくないものだった。


「あっでもでも、楠君もすごいよね!すんごい魔法バンバンだして!かっこいいよ」

「小春乃……」

 

 そんな少し元気の無い才斗を見て空気を変えようと歌羽が強引に話を変える。


「そうですね!才斗さんはかなり凄いと思います!人の身であそこまで出来る戦士を私は知りません!」

「確かに楠君がいなかったら私達死んでたんですものね。感謝してもし足りないわ」


 そんな歌羽に続き朔羅と灯も才斗を持ち上げる。


「ま、まぁな。お前達も要約ヒロインの自覚が出てきたじゃないか」

「はぁ……また楠君はすぐそういう事言うんだから」

「本当にそれよね。これでセクハラしなくて鬱陶しいその髪を切ってくれれば少しはモテるのに」

「髪は関係ないだろ。髪は。それにこれはオレなりコミュニケーションなんだよ!」


 勿論どこの世界であってもそんなコミュニケーションは許されていない。


「ふ~ん。じゃあモンスターから逃げる時に不自然に私の体を揺らしたり、気絶しているのをいい事に歌羽を持ってる手を変に動かしてたのもコミュニケーションだったわけ?」

「え!?」

「いやバカあれは違うだろ?なんつーかほら!ギブアンドテイクみたいなやつでさ。おい小春乃そんな眼でオレを見ないでくれ!くっそ、ばれないと思ってたのに余計な事言うなよ秋峰!」

「やっぱりワザとだったのね……はぁ、本当になんでこんな残念なのかしら」

「しょうがないだろ男として!そんな事言うならお前だってヒロインとして「んっ、先がこすれて」くらい言えよな!」

「「最低!」」

「えっ、えっと才斗さんのそういう小悪党なとこ私は好きですよ!」

「もっと別のとこを好きになってくんないか!?」


 そんなサバイバルをしてるのにも関わらず賑やかな会話をしながら1時間程歩くと目的地である9階層の最奥へと到着した。

 そこには見渡す限りにプレイヤーが集まっている。

 恐らくグリードのクランに入ろうとしている者達だろう。


「おい見ろよプライドだ」

「あいつ単職業者シングルだろ?どうしてここに来れたんだ?」

「どうせ何か抜け道でも見つけたんだろ?ダニめ死ね」

「ていうかあの子達すごい可愛くないか?」

「あのクズもうあんな可愛い子を毒牙にかけたの?最低」

「ん?それよりあの白い髪の子見覚えが……」


 ここにいるプレイヤーはあの黒いモンスター軍団を突破してきたプレイヤーだけあり一目で才斗の正体を看破すると口々に揶揄する様な事を言う。

 どうやらプライドの看板と朔羅達の見た目も相まって、才斗達は相当目立ってしまっている様だ。


「才斗さん才斗さん!聞きました?私達可愛いって言われてますよ?」

「あぁ、まぁ見た目だけはそうだろうな」

「どういう事ですか!?まるで中身がダメみたいな言い方ですよ!」

「そうね見た目すらダメな人に言われるのは納得できなわね」

「おい!オレのフェイスのウェアーがバットなんだ?あ?」

「あははは楠君、それ古いよ」


「おんや~プライドやないの~?あらま?本当に来れたんやね?すごいやんか!」

「さいとんやっほ」


「「「「!?」」」」


 才斗達が周りのプレイヤー達に見られる中ワイワイとお喋りをしていると、亜麻色の髪をした関西弁の少女あくまと長い金髪のダレている少女あくまが喋りかけてきた。

 そしてその少女あくま達が放つ存在感がこの場にいる全ての凡人プレイヤーの心臓を握り潰す圧力を放ち、ただ一人の少年あくま以外口を開く事が許さない。

 

「よぉ雑魚共。案外チョロかったからハーレム作りながら来たわ。待った?」

「いや待ってへんで?クズ雑魚プライドきゅんなら時間かかるのは当たり前やろ?」

「さいとん亀」

「はっ言うね~。まぁこんなとこで小金稼いでる奴よりかはこの世界ゲームを楽しんでると思うぜ」


 言葉やノリは一見口汚く話す友達同士に見えるが、その雰囲気は険呑そのものであり、見えない刃がお互いの間を飛び交っている。


「ほんで?うちらはそのエンジョイしとる最速攻略と無縁の雑魚にえらいえらい言うたらいいん?」

「えらいえらい」

「あぁ?」


 グリード達は才斗の隣にいる朔羅達を見てつまらなそうな顔をすると。


「でもちょっと失望してもうたな~。結局ラースの言った通りやん。プライドならうちらの『競争』にずかずか割り込んでくるもんやと思ったんやけど、なんや凡人みたいな事しとるんやね?あ~でもそれも悪くないとうちは思うよ?うちらがこの世界ゲームクリアしとるさかい街で震えながらその子らと乳くりあっとき。どうせ恩でも売って手籠めにしたんやろ?ほんまこすっい事しか出来ひんクズやな~」


「ハーレムがんば」


 クリード達はもう興味がないと言わんばかりに才斗にそんな事を言う。

 才斗の今までしてきた事など価値がないと断じるかの様に、歌羽達をまるで愛玩具の様に、白けた顔でそう吐き捨てる。


「おいてめ」

「楠君はそんな人じゃないよ!」

「そうね、撤回してくれるかしら?」


 才斗が流石にブチ切れようとすると、自分よりも先に歌羽と灯がグリード達に異を唱える。

 

「楠君は確かにおかしい事言うけどあなた達が言う様な人じゃない!本当は優しい人だよ!」

「あなた達可哀想ね、彼の魅力が分からないなんて余程人を見る目がないのかしら?」

「小春乃、秋峰……」


 この場の全ての人間が黙り込む圧力の中自分を庇ってくれる存在に才斗は驚愕する。

 今まで自分にそんな事を言ってくれる存在はいなかった。

 愛くるしい少女は体を震わせ必死にそれを堪え自分を優しい人間だと言ってくれている。凛とした美しさを持つ少女は無理に余裕の表情を作りながら自分を魅力的な人間だと言う。


「アン達は今さいとんとはなしてる」

「「ひっ!?」」


 しかし彼女達はもう何も言えない。いや呼吸すらできない。

 スロウスが容赦なく強者にのみ許されたその圧力を歌羽達にむけて全力で放ったからだ。

 まるで自分の玩具についた虫けらを叩き潰す子供の癇癪が如く、黒い魔力がその場の全てを塗り潰す。


「おっとすいません。ですがあんまり私の友達を悪く言うのはやめてくれませんか?」


 だがそんな闇を斬り裂く光の剣が少女達を守る。

 悪魔達は信じられない存在を、自分達と同種足り得るそんなあり得ない存在を見る目でその白い少女を見る。

 その白い少女は悪魔ゲーマー以外が気を失いそうになる中、ただにっこりとまるで太陽の様な笑顔を浮かべ歌羽達の手を握ると、それだけでこの場を支配していた闇を消し去った。


「おもしろい」

「あっは!こりゃええわ!掘り出し物やなプライド。どや?その嬢ちゃんうちらにくれへんか?」


 悪魔達は一目で朔羅の異質さを感じると、スロウスは新たに見つけた未知の塊に興味を抱き、グリードはその目を貪欲な獣のそれに変え取引と言う名の命令をしてくる。


「残念だがこいつはオレの物なんだわ。でもそうだな、ゲームで勝ったらいいぜ?好きだろ?そういうの」

「才斗さん?」

「大丈夫だ。ませかせろ」

「はい!任せますね!」


 才斗は今さっき知り合ったばかりの人間の言う事を一片の疑いもなく信じてしまう朔羅に少し驚くと、ニヤッとゲーマーの笑みを浮かべる


「ほ~?うちらと賭けしよう言うんか?」

「くわしく」

「夜叉」

「「!?」」


 それはこの場にいる者なら誰でも知っているモンスターの名前。

 そしてスロウスのモンスター達を壊滅させたモンスターの名前。


「それをオレが倒したって言ったら信じるか?」

「まぁプライドなら半々やな。それで?」

「賭け金は夜叉の素材とこいつの身柄だ」

「ほ~豪華やな~うちらの掛け金は?」

「お前が今まで荒稼ぎしてきたバベル全額と、夜叉はオレが倒したと全力で広めてもらう」

「はっはは!そりゃまた吹っかけてくるやんか。うちらの所持金2億はあるで?」

「十分だろ?お前達じゃあいつは逆立ちしても倒せないぜ?それに有名にもなりたいしな」

「さいとん強欲」


 才斗の懸案事項の対策の答え。

 それは夜叉は朔羅でないと証明する為にグリードの今日集めたクランメンバーを使った情報操作。

 バベルに関しては夜叉の報酬が入った事を装う為の偽装工作。

 だがしかしこの作戦にには穴がある。


「確かにそっちの嬢ちゃんと夜叉の素材ならお釣りがたんまり来るわな。でもプライドが夜叉を倒した証拠あるん?言っとくけど口約束じゃなしにうちのクランの商人に『契約』使ってもらうから嘘は効かんよ?」


 そう才斗は夜叉を倒していない。

 そもそもこれは賭けになっていないのだ。

 故に彼は。


「オレが嘘ついてるってか?じゃあもし嘘だったらオレの全て・・・・・をやるよ。お前達の奴隷になる。荷物持ちでも、靴磨きでも、なんなら殺してくれてもいい」

「「「!?」」」


 それは悪魔以外の驚愕だった。

 MGOでも契約を破ったプレイヤーはアカウントの停止、もしくは譲渡による決済の措置を取っていた。

 この世界のアカウント。つまりは人権。

 それを容易くかけてしまったのだ。

 それはこの場の悪魔と少女以外には夜叉を倒していると映っていた。


「ふふっそれ最高」

「あっははは!ええやんそれ!プライドがそこまで言うならやったるわ!で内容は?」

「お前達が決めていいぜ?出来ればすぐ出来る事がいいな。別にここでガチに殺し合ってもいいけど、それすると本末転倒だしな」

「せやね~。おぉひらめいたで!」


 付き合いの長い悪魔達は才斗の嘘を半分見抜いていた。

 しかしあえてそれに乗るのは暗に自分を景品にした才斗を珍しく思ったのだろう。

 確かに2億と言う金額はかなり大きいが、それでも自分の命と仲間を掛け皿に乗せるにはあまりに安い。彼女達の知るプライドは確実に勝てる勝負でしか大きく張らない。こんな博打を勝負内容すら相手に決めさせる男ではない。

 つまり彼は自分の命を賭けてでもなし得たい何かがある。

 そんな賭けゲームから逃げるなんて選択肢は悪魔達にはない。


「じゃあ『10階層の・・・・・モンスターをプライドとそこの3人の嬢ちゃん達で30分以内に倒す』でどや?ちなみにかなり強いと思うで?」


 その場にいた者全てがどよめく。

 10階層にはステージボス・・・・・・である『スケイルブルキング』がいる。

 MGOではレベル30のPT2つが同時に入って1時間かけてようやく倒せるかどうかのモンスターだ。

 そしてこの世界のモンスターは倍から10倍に強化されている。それをたった4人で、しかも30分以内に倒せという。


「はっ余裕だな。契約成立だ」

「吐いた唾は飲めんでプライド?」

「舐めんな。叩き潰してやるよ」

「かかってきて」


 お互いがお互いが知らない切り札を持っている。

 才斗にはバグ魔法が、朔羅にはバグ剣術が。

 グリード達には女神に与えられたチートが。

 だが悪魔達は自分の勝ちを疑っていない。


「さぁゲームを始めようぜ」

「ほなゲームを始めよか?」

「ゲームしよ」


 悪魔達のゲームが今始まる。



次回ボス戦!

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