7話:Empty Wallet ~心満たされる帰り道~
静かになったメインモニターの向こう側で、黒と黄色の点がみるみるうちに小さくなっていく。
完全に統制を失った蜂の群れが、森の奥へ我先に逃げ込んでいく姿だった。
「蜂のくせに、蜘蛛の子を散らすように逃げていくんやな」
俺は狭いコックピットの中で、思わず毒づく。
張り詰めていた緊張の糸が少しだけ緩む。
換気ファンから吹き込む風が、汗ばんだ首筋を冷たく撫でていった。
俺は右足のペダルを軽く踏み込み、ギエルレウをゆっくりと後ろへ歩かせる。
ズシン、ズシンと、金属の足音が静まり返った広場に響いた。
少し進んだ先の地面に、青と白の塊が転がっているのが見えた。
さっき大将首を狙撃するために、自分で放り投げた右手のハンドガンだ。
俺は両足のペダルを踏んで機体をピタリと停止させた。
右手の操縦桿をゆっくりと前へ倒し、少しだけ内側へ傾ける。 機体の右腕が連動して動き、土にまみれたハンドガンのグリップへと手を伸ばす。
操縦桿のスイッチを押し込むと、機体の太い指がガッチリと武器を掴み上げた。
手のひらに伝わる確かな重みに、少しだけホッと息をつく。 俺はペダルを再び踏み込み、さっき撃ち落とした大将首の残骸へと機体を向かわせた。
広場の中央には、青白い光でこんがりと焼け焦げた黒い塊が転がっている。
ドロドロに溶けた緑色の体液が、乾いた土の上で嫌な音を立てて泡立っていた。
鼻を突く強烈な酸っぱい匂いが、コックピットの中まで容赦なく入り込んでくる。
機体を残骸のすぐそばに止め、メインモニターのカメラをズームさせた。
バラバラになった胴体や、吹き飛んだ尻のビーム砲の残骸が画面に大きく映し出される。
俺の視線は、そこから少し離れた場所に転がっている頭部でピタリと止まった。
何だこれは。
違和感の正体を探るため、さらにカメラの倍率を上げる。
焼け残った蜂の頭部が、普通の個体とは比べ物にならないほど異様に膨れ上がっていた。 ただ丸々と太っているわけではない。
ひび割れた巨大な複眼の隙間に、見覚えのある人工物が無数に埋め込まれているのだ。
緑色に光るY字型のレンズ。 ひしゃげた金属のフレーム。 ちぎれた細いケーブルの束。
それは間違いなく、軍で使われている機体の顔のパーツの一部だった。
あのバケモノはビーム砲のパーツだけでなく、軍用機の高性能なセンサー部分まで食って自分に取り込んでいたのだ。
だから、あんなに離れた場所からでも戦場全体の距離を正確に測ることができたんや。
不自然に膨れ上がった頭のセンサーをフル稼働させて、群れ全体に指示を送っていた。
俺はシートの背もたれに深く体を預け、大きく息を吐き出した。
もし最初から、あの肥大化した頭部に気づいていれば。
あいつが群れの目を担っている大将首だと、もっと早く、確信を持って狙うことができたはずだ。
一か八かの賭けに出ることもなく、無駄な弾も使わずに、ずっと楽にこの戦いを終わらせられていた。
「ほんま、まだまだ未熟やな」
自嘲気味な笑いが口からこぼれ落ちる。
俺は両手の操縦桿を軽く握り直し、モニターに映る焼け焦げた残骸からゆっくりと視線を外した。
操縦桿から、ゆっくりと両手を離す。 分厚い手袋を脱ぎ捨てると、汗ばんだ手のひらが空調の冷たい風に触れた。
タオルで額に浮かんだ汗を乱暴に拭い去る。 塩分を含んだ汗が目に入り、チクリとした痛みが走った。
シートの横にある小さなホルダーに手を伸ばす。 あらかじめ用意しておいた水筒の感触が、指先に伝わってきた。
キャップを回して開け、ぬるくなった水を一気に喉の奥へ流し込む。 乾ききっていた喉が、ゴクリと大きな音を立てて水分を吸い込んでいった。
「ぷはっ」
口の端からこぼれた水を手の甲で拭う。 これでようやく、厄介な群れの討伐任務は完了だ。
メインモニターに視線を戻し、焼け焦げた大将首の残骸を再び画面の中央に捉える。
コンソールパネルの端にある、小さな四角いボタンを指の腹で押し込んだ。
ピシュという短い電子音とともに、画面が一瞬だけ白くフラッシュする。
異常に肥大化した顔のセンサー部分を、討伐の確かな証拠としてデータに記録した。
後はこの写真を依頼主である村へ持ち帰り、報告を済ませるだけだ。
広場で俺を見送ってくれた、あの泥だらけの服を着た村人たちの顔が頭に浮かぶ。 これで彼らも、ようやく怯えずに夜を眠ることができるはずだ。
俺は水筒をホルダーに戻し、再び分厚い手袋に手を通した。 左右の操縦桿をしっかりと握り直す。 村への帰路につくため、右足のペダルを踏み込もうとした。
その足先が、床の鉄板に触れる直前でピタリと止まる。
モニターの端に映る、薄暗い森の入り口。 さっき俺が牽制射撃で追い払った、あの一匹のビーム機が逃げ込んだ方向だ。
そして、蜘蛛の子を散らすようにバラバラに消えていった無数の雑兵たち。
大将首を失ったことで、奴らはただの虫の群れに戻った。 統率を失ったからこそ、安全になったと勝手に思い込んでいた。
でも、本当にそうか。
背筋を冷たいものがツーッと滑り落ちていく。
コックピットの空調が、急に凍えるほど寒く感じられた。
糸が切れただけの野生の蜂は、どこへ向かうか全く予測がつかない。
腹を空かせてパニックになった雑兵たちが、村人たちを襲わないという保証はどこにもないのだ。
それに、あのビーム機はまだ尻に致命的な熱線を抱えたままだ。
このまま背中を向けて帰れば、帰り道の森の中で不意打ちを食らうかもしれない。
あるいは、俺が村に着く前に、奴らが他の村を火の海にしている可能性だってある。
踏み込もうとしていた右足のペダルからゆっくりと力を抜く。
機体を村の方向へ反転させるのをやめ、逃げた連中が消えた暗い森へとメインモニターのカメラを真っ直ぐに向けた。
大将首を倒して、証拠の写真も撮った。
傭兵のルールなら、これで依頼達成のハンコをもらってさっさと帰るのが正解だ。
「未熟なだけやないな」
俺は狭いコックピットの中で、自嘲気味に口の端を歪めた。
「ほんまに甘いし、青臭いわ」
与えられた仕事だけをこなして、さっさと安全な場所へ戻る。
余計な危険を冒すのは、いつだって三流のバカがやることだ。
頭では分かっているのに、森へ逃げた連中をこのまま放っておくことはどうしてもできなかった。
右側のサブモニターへ視線を落とす。 さっき地面から拾い上げた、ハンドガンのステータス画面だ。
真っ赤に点滅していたオーバーヒートの警告ランプは、いつの間にか完全に消えていた。
代わりに、落ち着いた緑色のランプが静かに光っている。
銃身の熱を逃がす冷却プロセスは、無事に終わっていた。
バッテリーの残量も、まだ半分ほど残っている。
右手の操縦桿を、指の関節が鳴るほど強く握り直した。
手のひらの汗がグリップの滑り止めにギュッと押し付けられる。
機体の右腕が連動して動き、握りしめた銃口をゆっくりと森の入り口へ向けた。
換気ファンから、焦げた匂いに混じって湿った植物の匂いが流れ込んでくる。
森の奥には、得体の知れない暗がりが大きく口を開けて待っていた。
逃げたアルヴィアたちがどこに潜んでいるか、今は全く分からない。
それでも、俺は両足のペダルにじわっと体重を乗せた。 機体の太い足が、乾いた土を力強く踏みしめる。
ズンという重たい振動が、シートの下から腰へと真っ直ぐに伝わってきた。
残された武器は両手のハンドガン2丁のみ。
「ふぅ。行こか」
肺に溜まった空気を短く吐き出し、俺は覚悟を決めた。
両足のペダルを、床の鉄板ごと一気に深く踏み抜く。
ギエルレウの両脚が、爆発的な力で地面の土を蹴り飛ばした。
背中をシートに強く叩きつけられる強烈な加速Gがコックピットを襲う。
エンジンが重たい咆哮を上げた。 土煙を高く跳ね上げながら、俺の機体は薄暗い森の奥へと一直線に突っ込んでいった。
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大型トラックのエンジンが、最後の力を振り絞るように低く唸る。
車体が大きく揺れ、ギエルレウを載せた荷台がギシギシと悲鳴を上げた。
砂埃が舞う道の先、目的の村がゆっくりと姿を現す。 ひび割れた土壁の家々が、鉛色の空の下で力なく並んでいた。
俺はブレーキペダルをじわりと踏み込む。 トラックが停止し、エンジンを停止させた。 静寂が周囲を包み込む。
足元から響いていたエンジンの重たい咆哮が、徐々に静かな唸り音へと変わっていく。
雨上がりのような土の匂いと、微かに焦げた薪の匂い。 間違いなく、依頼主たちが待つあの村の匂いだ。
シートベルトを外し、コックピットから外へ身を乗り出す。 機体の装甲の隙間に足をかけ、地面へ飛び降りた。
ブーツの底が村の柔らかい土を捉え、ザクリと低い音を立てる。
顔を上げると、粗末な木の柵やひび割れた土壁の家々が視界に入ってきた。
広場には、泥だらけの服を着た村人たちが集まっている。 その輪の中から、一人の小柄な人物がゆっくりと前に出てきた。
依頼主の老婆だ。 深い皺が刻まれた顔をこわばらせ、落ち着かない様子で自分の粗末な服の裾を両手でぎゅっと握りしめている。
俺の機体が無事に帰ってきたのを見ても、まだ恐怖が完全に抜けきっていない顔つきだ。
「終わったで」
俺はポケットから薄い情報端末を取り出し、老婆の目の前へ差し出した。
画面には、さっき撮影したばかりの画像が映っている。 異常に肥大化した偵察機の顔を持つ、あのビーム機の焼け焦げた残骸だ。
「これが群れに指示を出してた親玉や。きっちりスクラップにしてきた」
老婆は恐る恐る端末の画面を覗き込んだ。 しばらくその写真を見つめた後、深く息を吐き出してその場にへたり込みそうになる。
俺は端末をポケットにしまい、老婆の小さな肩を軽く手で支えた。
「あと、森へ逃げた残党もついでに片付けといた」
俺はできるだけ感情を交えず、淡々とした声で付け加えた。
大袈裟に感謝されるようなことをしたつもりはない。
あくまで仕事の延長として、目の前の危険を処理しただけだという態度を崩さない。
「逃げた連中を追ってたら、森の奥で奴らの巣みたいな場所を見つけてな」
老婆が不思議そうな顔をしてこちらを見上げる。 俺は指先で森の方向を軽く指し示した。
「あのバケモノども、あそこに軍の機体の残骸やら金属のゴミやらを山のように溜め込んどったわ」
蜂の習性なのか、それとも自分たちの体に取り込むための部品のストックだったのかは分からない。
だが、巣穴の中には、かなりの量の金属資源が放置されていた。
「あれだけの量のスクラップを街のジャンク屋にでも持ち込めば、かなりの金になるはずや」
老婆の目が少しだけ見開かれる。 周囲で話を聞いていた村人たちの間からも、小さなどよめきが起こった。
「その金を使えば、村の周りに設置できる簡易な防御装置くらいは買えるやろ」
俺はそれだけ言い残し、老婆の肩から手を離した。 これからの村の身の守り方は、ここに住む彼ら自身が考えることだ。
俺はブーツの泥を軽く払い、静かに休眠している自分の機体の方へ視線を戻した。
老婆の深い皺に、大粒の涙がいくつも浮かんでいた。
泥と汗の混じった土の匂いが、俺の鼻先をふわりとかすめる。
震える両手が、俺の右手をギュッと強く握りしめてきた。
「これで、なんとかこの村で生きて..いけ....」
老婆は何度も何度も頭を深く下げる。 背後で見ていた村人たちも、次々と地面に膝をつき、祈るように両手を合わせていた。
「本当に、ありがとうございました」
老婆は震える手で、懐から古ぼけた皮袋をゆっくりと取り出した。
ツギハギだらけで、あちこちの糸がひどくほつれている。
ジャラリという重たい金属の音が、静かな広場に響いた。
村人全員が少しずつ出し合って集めたであろう、今回の討伐依頼の報酬だ。
差し出された皮袋を受け取ろうと手を伸ばしかけて、俺はピタリと動きを止めた。
周りの村人たちの顔をゆっくりと見渡す。 大人も子供もみんな頬がこけ、着ている服はボロボロだ。
森の奥にあるあの大量のスクラップを街のジャンク屋へ運び、金に換えるにはそれなりの日数がかかる。
その間、この人たちは一体何を食べて飢えをしのぐのだろうか。
俺がこの皮袋を持っていってしまえば、明日食べる硬いパンすら買えなくなるのは目に見えている。
俺は伸ばしかけた手をスッと引っ込めた。 わざと明るい声を出し、後頭部をガシガシと乱暴に掻き回す。
「あ、そうや。大事なことすっかり忘れとったわ」
老婆が不思議そうに顔を上げる。
「俺、こないだ街で買った宝くじが大当たりしたんやった。金ならもう腐るほどあるんや」
俺は口の端をニヤリと歪めて笑った。
「そんな小銭、荷物になるから持って帰りたないわ。村の修繕費にでもしとき」
呆気にとられた老婆の顔が、間抜けにポカンと口を開けている。
周りの村人たちも、俺の言葉の意味が全く理解できずに目を丸くしていた。 俺はその隙を見逃さず、すぐにクルリと踵を返した。
地面の土をブーツで強く蹴り上げる。
そのまま全速力で、広場の端に停めてある大型の運搬トラックへと走り出した。 ギエルレウを載せてここまで運んできた、俺の移動用の足だ。
冷たい風が頬を強く打つ。 背後から何かを叫ぶ声が聞こえたが、振り返らずにひたすら足を動かし続けた。
トラックの横までたどり着き、運転席の冷たいドアノブを乱暴に掴む。
ガチャンと重たい金属音を立ててドアを引き開け、高いシートへ一気に飛び乗った。
古い布製シートのホコリっぽさと、かすかなタバコの匂いが鼻を突く。
ステアリングの横にあるキーシリンダーに鍵をねじ込み、右へ思い切り回した。
キュルキュルという甲高いセルモーターの音に続き、古いエンジンが低い咆哮を上げる。 床板から伝わる荒々しい振動が、俺のブーツの底を小刻みに揺らした。
右足でアクセルペダルを深く踏み込む。 ブォンと重たい排気音が鳴り響き、トラックの車体が前へと大きく揺れた。
俺は左手でシフトレバーを荒々しく押し込み、村から続くデコボコの一本道へとトラックを急発進させた。
古いエンジンが悲鳴のような咆哮を上げた。 分厚いタイヤが乾いた土を激しく削り取る。
トラックの車体が大きく跳ね上がり、前へ勢いよく飛び出した。
荷台に積んだギエルレウの重みで、車体全体がギシギシと嫌な軋み音を立てる。
開け放した窓から、冷たい風が運転席へ一気に流れ込んできた。 巻き上がった土埃の匂いが鼻を突く。
俺は左手でシフトレバーを握り、次のギアへガコンと強引に押し込んだ。
エンジンの回転数が上がり、トラックはさらに速度を上げてデコボコ道を駆け抜けていく。
視線を少しだけ上へ動かした。 フロントガラスの上にある、バックミラーをチラリと覗き込む。
四角い鏡の中には、猛スピードで遠ざかっていく村の入り口が映っていた。
土煙の向こう側で、老婆や村人たちがまだ小さく手を振っているのが見える。
その姿が豆粒のような大きさになり、やがて森の木々に遮られて完全に見えなくなった。
俺は小さく息を吐き出し、ミラーから前方の道へ視線を戻した。
両手で握りしめたステアリングから、エンジンの荒々しい振動がダイレクトに腕へ伝わってくる。
少しだけ冷静になると、急に現実的な問題が頭をもたげてきた。
あの熱殺蜂球から逃れるためとはいえ、俺は高いマシンガンを完全にぶっ壊したのだ。
さらに両腕のハンドガンも、エネルギーを空っぽにしてしまった。
2超のマシンガン買い替え代と、空になったエネルギーの充填費用。
頭の中でざっと計算しただけで、かなりの額が飛んでいくことになる。
いくらなんでも、カッコつけて全額を受け取らなかったのはやりすぎたかもしれない。
せめてあのボロボロの皮袋から、武器代と経費の分くらいはもらっておくべきだった。
完全に空っぽになった自分の財布を想像して、思わず顔をしかめる。 胃の奥に冷たい石が落ちたような感覚がした。
だが、本当の地獄はこれからだ。
一番の問題は、基地に帰った後の報告だった。
機体の整備を任せているユミィの怒った顔が、頭の中に浮かび上がった。
今回の討伐依頼の稼ぎは、見事にゼロだ。
おまけにマシンガンを二丁も跡形もなくスクラップにして帰るのである。
一体どんな顔をして報告すればいいのか、全く想像がつかない。
「怒られるなんてもんやないな」
誰に聞かせるわけでもなく、狭い車内に自嘲気味な声が響いた。
どんな言い訳を並べても、あの容赦ないスパナが飛んでくる未来しか見えない。
俺はステアリングを握る両手にギュッと力を込めた。
どうせ怒られるなら、少しでも早く帰って頭を下げるしかない。
右足のアクセルペダルをさらに深く、床板に押し付けるように踏み込む。
ブォンという重たい排気音が森中に響き渡った。
トラックは土煙を高く舞い上げながら、基地へと続く一本道をひたすらに走り続けた。
右足の裏で、硬いアクセルペダルをじわじわと押し込む。
古いトラックのエンジンが、床下で重たい唸り声を上げた。
開け放した窓から、生温かい風が運転席へ勢いよく吹き込んでくる。
汗とオイルの混じった匂いが、風に乗って鼻先をかすめた。
今回の依頼の報酬は完全にゼロだ。
おまけに高価なマシンガンを二丁も完全にスクラップにしてしまった。
大赤字もいいところだ。
なのに、ハンドルを握る俺の気分は不思議なほど晴れやかだった。
胸の奥につっかえていた重たい石が、すっかり消えてなくなったような感覚だ。
ひび割れたフロントガラスの向こうに、崩れかけた巨大なコンクリートの壁が見えてきた。
ついさっきまで、あのアルヴィアの群れと死闘を繰り広げた廃墟の跡地だ。
俺はステアリングを左に切り、瓦礫の山を大きく避けてアクセルを踏み足した。
1時間ほどしてガタガタと揺れていた車体が、ふっと滑らかな動きに変わる。
タイヤが弾き飛ばす音も、硬い石からサラサラとした軽い音へ変わった。
廃墟地帯を抜け、乾ききった広大な砂漠地帯へと入ったのだ。
フロントガラス越しの景色が、見渡す限りの茶色い砂の海へと変わる。
強烈な日差しが砂の表面で反射し、目を刺すように眩しい。
丸いサングラスを指で押し上げ、俺は目を細めて地平線の先を睨んだ。
揺らぐ陽炎の向こうに、巨大な鉄の塊がぼんやりと浮かび上がってくる。
俺たちのチーム、アヴェントゥラの移動拠点だ。
愛艦チュラクシスが、砂埃の向こうから少しずつはっきりと見えてきた。
「ようやく帰り着いたで」
乾いた唇を舐め、俺はアクセルペダルをさらに深く踏み込んだ。
トラックの速度が上がり、見慣れた母艦の姿がどんどん大きくなっていく。 だが、そのすぐ横に奇妙なものが停まっているのに気がついた。
チュラクシスの巨大なタラップの下だ。 見慣れない、真っ黒な機体がポツンと立ち尽くしている。
何だあれは。
俺は右足をアクセルから浮かせた。 トラックの速度が少し落ち、黒い機体の輪郭がはっきりと見えてくる。
装甲の表面が、太陽の光を反射してギラギラと滑らかに光っていた。
いつもユミィが拾ってくるような、泥とサビにまみれたジャンク品じゃない。
小綺麗な機体だ。
まさか街でこんな上等なものを丸ごと買ってきたのだろうか。
もしそうなら、新しいオモチャを手に入れたユミィの機嫌は最高潮のはずだ。
俺の顔は自然とニヤリと歪んだ。
「丁度ええタイミングやな」
機嫌のいい今なら、マシンガンを二丁お釈迦にしたことを報告しても、飛んでくるスパナは一本くらいで済むかもしれない。
俺はブレーキから足を離し、再びアクセルペダルを床板まで一気に踏み抜いた。
ブォンと排気管が吠え、タイヤが砂を高く巻き上げる。
俺は謎の黒い機体が待つ母艦へ向けて、トラックを全速力で走らせた。




