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21話:Bonds in the Fire 〜誓いの双翼〜

時間をほんの少しだけ遡る。

俺、ラキのフロントモニターには絶望的な光景が広がっていた。


「ラキくんもっと後方飛び下がって」


通信機からシルヴィアさんの切羽詰まった声が飛んでくる。

俺は両足のペダルを乱暴に蹴り飛ばした。

ギエルレウのホバーが悲鳴のような駆動音を上げる。

足元で砂を激しく巻き上げる。

俺は機体を大きく後ろへ飛び下がらせた。


正面の化け物は、すでに巨大な顎を外していた。

喉の奥で赤黒い光が極限まで圧縮されている。

冷却なんてとっくに終わっていたんや。

ゼロ距離からの極大主砲。 それが今まさに放たれようとしている。


俺の目の前には、ルベルジンカミシモの背中があった。

分厚い黒の重装甲だ。

だが、あの熱線の威力は俺たちが一番よく知っている。

いくらルベルジンの装甲でも耐え切れるもんやない。

一瞬でドロドロに溶かされる。

極太の熱線はこいつの機体を貫く。

そのまま後ろにいる俺の機体も一直線に飲み込む。

二機まとめて跡形もなく消し炭にされる。

最悪の結末が、俺の脳裏を鮮明によぎった。


俺は両手の操縦桿を力いっぱい握り直した。

回避は絶対に間に合わない。

そう覚悟を決めた瞬間だった。


炸裂音が戦場に轟いた。

ルベルジンカミシモが弾け飛んだのだ。

アンクロスだ。

全身の黒い装甲が、内側からの爆発で一斉にパージされた。


フワリと重力が消えたような錯覚。

巨大な鉄の塊が宙を舞う。

四方八方へ飛び散る分厚い装甲パーツ。

それが一瞬だけ、化け物の小さな眼球を塞いだ。

完璧な目眩しだ。

化け物の動きがほんのわずかに硬直したのが見えた。


だが、目眩しを食らったのは俺も同じだった。

俺のフロントモニターが、飛び散る黒い装甲で完全に埋め尽くされる。

視界が真っ黒に塞がれた。

向こう側にいるはずの、中身のルベルジンカミシモの姿がない。 ヒカリはどこへ消えたんや。


思考が空回りする。

だが、そんなことを考えている時間すら与えられなかった。


強烈な閃光が、黒い装甲の隙間から溢れ出した。

戦場のすべて染め上げる、圧倒的な破壊の光。

化け物の口から、極大の主砲がついに放たれたのだ。


閃光がコクピットを焼き尽くすかと思った。

異常な熱波が装甲越しに俺の肌を焦がす。

髪の毛がチリチリと焼けるような匂いが鼻を突いた。

だが、ギエルレウは完全に吹き飛ばされてはいなかった。


両手の操縦桿から伝わる振動は激しい。

それでも致命的な損傷を知らせるアラートはどこからも鳴っていない。

俺はペダルを踏み込んでホバーの暴走を抑え込みながら、化け物の浅はかな考えを理解した。


あいつは手前にいたこいつの機体にピタリと照準を合わせていたんや。

ゼロ距離から極大の熱線を叩き込む。

邪魔な手前のルベルジンカミシモをドロドロに溶かす。

そして、あわよくばその後ろにいる俺のギエルレウも一緒に焼き払う。

そんな大雑把で傲慢な計算やったんやろう。


だから助かった。

あの巨大な顎から放たれる主砲は、至近距離での破壊力に完全に特化している。

俺はシルヴィアさんの切羽詰まった指示で、機体を大きく後ろへ飛び下がらせていた。

距離が空いたことで、熱線の威力は俺の機体に届く前に大きく拡散していたんや。

これが一つ目の理由だ。


そして二つ目。

視界の奥で、弾け飛ばされた巨大な黒い塊が見えた。

アンクロスでパージした、ルベルジンカミシモの黒い重装甲の残骸だ。

あの分厚い盾が、熱線の最も威力が凝縮された中心部分を完全に受け止めてくれたんや。

極太の熱線が装甲を破壊しようとするわずかな時間。

その一瞬の壁が、俺の命を確実に繋ぎ止めていた。


俺は両足のペダルを細かく踏み直した。

ホバーの出力を安定させ、後方に流れていた機体の姿勢を完全に立て直す。

熱気で曇るフロントモニターを睨みつけた。

両手の操縦桿を軽く手前に引く。

ギエルレウの頭部カメラが、ゆっくりと前方へ向かって持ち上がった。


目の前に巨大な影がそびえ立っていた。

ボスリノセロスだ。

極大の主砲を撃ち終えた直後。

あいつの巨大な顎は、だらしなく大きく開かれたままになっていた。

喉の奥からは細い煙がプスプスと上がっている。

熱線を放った直後の凄まじい反動で、太い四本足の体勢も大きく崩れていた。


無防備だ。

全く身動きが取れない、完全に隙だらけの姿が俺の目の前にあった。


傑作やな。

思わず喉の奥から乾いた笑いが込み上げてきそうになる。

さっきまでの絶望的な状況からの、あまりにも完璧すぎる盤面。

俺は口の端を歪めるだけにして、その笑いを無理やり噛み殺した。

今はまだ余韻に浸る場面やない。

俺は両手の操縦桿を、骨が鳴るほど強く握り直した。


シルヴィアさんの事前の指示は、すでに完璧にこなしてある。

俺は両足のペダルを踏み込み、機体を砂地にしっかりと固定した。

生き残っている左のハンドガン。

リミッターを完全に切り飛ばし、エネルギーはとっくに最大出力に達している。


左手の操縦桿を、滑らかに、そして確実に前方へ押し出した。

ギエルレウの左腕が重い駆動音を立てて真っ直ぐに伸びる。

青白い光が漏れ出す極太の銃身を、だらしなく開かれた化け物の巨大な口へ向けた。


心臓の音がやけにうるさい。

コクピットの中に、自分のドクン、ドクンという鼓動だけが響き渡っているように感じた。

焦熱の空気が装甲越しに伝わってくるせいで、首筋を伝う汗がひどく冷たく思える。


次の瞬間には、あの巨大な顎がガクンと音を立てて閉じるかもしれない。

態勢を立て直され、信じられない質量で俺たちを轢き潰しに再び突進してくる可能性だってある。

早く。

早く撃て。

生存本能が激しく警鐘を鳴らし、今すぐに引き金を引けと急かしてくる。


でも、あかん。

絶対に慌てたらあかんのや。

ここで少しでも焦って照準がぶれたら、すべてが水の泡だ。

外側の硬い装甲に弾かれたら全く意味がない。

狙うのは喉の奥の、一番柔らかくて致命傷になる一点のみ。

そこを確実に撃ち抜く。

俺たちに次のチャンスなんてものは、もう残されてない。


俺は息を吐き出した。

不思議な感覚だった。

極限の緊張の中で、周囲の時間が急激にゆっくりと流れ始めたように思えた。


宙を舞う黒い装甲の破片が、スローモーションのように落ちていく。

化け物の口から立ち上る細い熱の煙が、ピタリと静止したように見える。

砂を巻く風の音も、自機のモーターの唸りも、すべてが遠くへ遠ざかっていった。

視界の中心にある、巨大な標的だけが異常なほど鮮明に浮かび上がる。


照準が重なる。

化け物の喉の奥底。

赤黒い光の残滓がわずかに渦巻く、その絶対的な中心点。

ここや。


俺は左手の操縦桿のトリガーを、指の骨が砕けるほどの力で一気に引き絞った。


閃光。

鼓膜を粉砕するほどの甲高い発射音。

最大出力のエネルギーの塊が撃ち出される。

極限まで圧縮された青白い光の奔流。

空気を激しく焼き切り、空間そのものを歪める極太のビーム。


弾き出される。

一直線に飛ぶ。

何の抵抗もなく。

開け放たれた巨大な顎の間を正確にすり抜ける。

化け物の無防備な喉の奥深くへと、致命的な青白い光が完全に吸い込まれていった。


化け物の大きく開かれた口内に、青白い極太の閃光が突き刺さる。

内側から激しく弾け飛ぶ嫌な音がコクピットまで響いてきた。


次の瞬間、鼓膜を完全に破壊し尽くすような、悲痛で、それでいて周囲の空気を物理的に引き裂くほどのけたたましい絶叫が戦場全体を大きく揺るがした。

極限まで圧縮されたエネルギーの塊が体内で暴れ回り、ボスの巨体が苦痛で大きくのけぞり、頭部から大量の黒い煙と体液を撒き散らしながら、でたらめに太い四本足を振り回して大地を無惨に叩き割る。


俺は熱気で曇るフロントモニターを睨みつけながら目を細めた。


おいおい、嘘やろ。

あれだけ完璧に無防備な喉の奥底を撃ち抜いたんや。

今の最大出力の攻撃でも、まだトドメになってないんか。


化け物の規格外の生命力に、背筋を冷たいものが這い上がる。

だが、あれが致命傷であることには間違いないはずだ。

急所を内側から完全に焼かれている。

今のあの暴れ方は、どう見てもただの死に物狂いの足掻きだ。

あんなデタラメな動きに巻き込まれるのだけは御免だ。


俺は両足のペダルを浅く踏み込み、ホバーの出力を微調整した。

両手の操縦桿をゆっくりと手前に引く。

ギエルレウを砂の上で滑らせ、巨獣からさらに数歩分だけ後ろへと飛び下がらせた。


ガツン、と。

機体の踵に、何か重くて硬いものがぶつかる感触があった。

後方カメラのモニターへ素早く視線を向ける。


砂に半分埋もれているのは、巨大な鉄の塊だった。

さっき大爆発とともに弾け飛んだ、ルベルジンカミシモの黒い重装甲だ。

分厚い盾の役目を果たし、熱線で無惨にひしゃげている。


パージされた装甲はここにある。

俺の身代わりになって熱線を防いだ確かな残骸だ。

でも、中身がない。

アンクロスで重い鎧を脱ぎ捨てたはずの、ルベルジン本体の姿がどこにも見当たらないのだ。


そういえば、ルベルジンはどこへ行ったんや。


俺はフロントモニターに視線を戻し、荒れ狂う砂煙の向こう側へと目を凝らした。


ーーーーーーーーーーー


時間を少しだけ巻き戻す。

ラキくんの視界が弾け飛んだ黒い装甲で真っ黒に塞がれる、ほんの数秒前のことだ。

巨大な掘削機の上に立つフラウスレイのコクピットで、私はひたすらに息を殺していた。


『2』


通信回線から、ルベルジンカミシモのシステム音声が小さく響いてきた。

無機質なカウントダウンだ。

ヒカリくんが仕掛けたアンクロスの秒読みである。


ドクン、ドクン。

私の心臓の音がひどくうるさい。

装甲に守られた狭いコクピットの中で、自分の鼓動だけが異常なほど大きく反響している。

焦熱の空気が足元のペダルから這い上がってきて、呼吸が浅くなっていた。

極度の緊張だ。

ヒカリくん・ラキくんの命を完全に預かる、絶対に失敗の許されないタイミング合わせ。

操縦桿を握る手のひらに嫌な汗が滲み、指先がかすかに震えているのが分かった。


これでは駄目だ。

私は深く、ゆっくりと息を吸い込む。

うるさく鳴り響く心臓の音を落ち着かせるため、あえて他の音へと強く意識を向けた。

目を細め、耳を澄ませる。


風が荒野の砂を巻き上げる乾いた音。

フラウスレイの背部スラスターが低く唸るアイドリングの振動。

ボスの巨大な口内で熱線がバチバチと圧縮されていく焦げた音。

そして、通信機から聞こえるルベルジンカミシモの電子音声。


緊迫した死と隣り合わせの状況だというのに、私は少しだけ可笑しくなった。

あのルベルジンカミシモの電子音声。

無骨で暴力的なまでに重装甲な機体のデザインに、全く似合っていない。

まるで内気な少女が、一生懸命に声を張って健気に頑張っているような響きだ。

そんな場違いで可愛い声の印象が、私の極限まで張り詰めた神経をほんの少しだけ優しく解きほぐしてくれた。


目を見開く。

指先の震えは完全に止まっていた。

心臓の音も、もう全く気にならない。

冷たい思考が頭の中をクリアに満たしていく。

準備は整った。


私は両手の操縦桿を強く握り込む。

右手の射出トリガーに指をかけた。

両足のメインペダルを軽く踏み込み、フラウスレイの姿勢を前傾に固定する。

熱線の発射と同時に、ヒカリくんの機体がアンクロスで黒い装甲を吹き飛ばす。

その直前の、ほんの一瞬の隙。


今。


私は右手のトリガーを力強く引き絞った。

フラウスレイの右腕から、鋭い発射音が鳴り響く。

太いワイヤーが勢いよく飛び出す。

空気を一直線に切り裂く。

真っ直ぐに伸びる。

狙いはただ一点。

アンクロスでパージされない部分。

ルベルジンの本体だ。

その二の腕にある、白い装甲のパーツ。

放たれた鋼の線は、そこへ向けて寸分の狂いもなく正確に絡みついた。


『1』

『Uncloth Kamishimo』


通信機から電子音声が響き渡った。

同時に眼下で炸裂音が轟く。

ヒカリくんの乗るルベルジンカミシモの全身を覆っていた分厚い黒色装甲。

それが内側からの爆発で一斉にパージされた。

四方八方へ巨大な鉄の塊が吹き飛んでいく。


私は両足のメインペダルを強く踏み込んだ。

フラウスレイの両足が巨大な掘削機の鉄柱をガッチリと掴み込む。

機体の姿勢を斜め後ろへ大きく傾けた。

同時に両手の操縦桿を力いっぱい手前へ引き絞る。

射出した左右のワイヤーのウインチを全力で巻き上げる。

黒い装甲を脱ぎ捨てたルベルジンの中身だけを、一気に上空の安全圏へと引き抜くのだ。


バツンッ。

右手の操縦桿から、骨が折れるような嫌な破断音が突き抜けてきた。


右腕のワイヤー発射部の機構が完全に砕け散ったのだ。

今までの無茶な戦闘の負荷が限界を超えたのか。

それとも、軽装になったとはいえ赤と白のルベルジン本体の重量に耐えきれなかったのか。

手元の計器が真っ赤なエラー表示を吐き出す。

右側のワイヤーの張力が急速に失われていく。


マズイ。


眼下の巨大な顔面が大きく波打った。

化け物の大きく開かれた口から、極大の閃光が放たれた。

装甲のパージと同時か、ほんの少しだけ遅れた最悪のタイミングだ。

周囲の空間をすべて焼き尽くすような極太の熱線。

一直線に放たれる破壊の光の束。

それがパージされた黒い装甲の残骸に直撃し、分厚い装甲を傷つけていく。


熱線の軌道のすぐ上。

装甲を脱ぎ捨てた赤と白のルベルジンが宙吊りになっている。

右のワイヤーが切れたせいで、機体が右下へ向かって大きく傾いた。

灼熱の光の束へ向かって落ちそうになる。

ここで軽装になった機体を落とすわけにはいかない。


私は右足のペダルをさらに強く踏み込んだ。

フラウスレイの右足の関節を完全にロックする。

機体の体勢を強引に支えた。

同時に右手の操縦桿を素早く前へ押し込み、そして内側へ捻る。

フラウスレイの右手が素早く動く。

千切れて空を舞う右の太いワイヤー。

それを機体の金属の指で直接、力任せに鷲掴みにした。


そのまま左手の操縦桿を限界まで手前に引く。

生きている左腕のウインチを全力で巻き上げ続ける。

右手のワイヤーは、直接掴んだまま機体の腕力だけで上方へ引っ張り上げる。


ギギギギギッという耳障りな金属音がコクピットに響き渡る。

凄まじい摩擦だ。

ワイヤーを握りしめるフラウスレイの右手から、激しい火花が滝のように噴き出している。

金属の指の装甲がゴリゴリと削れ落ちる。

高温の熱が手元の操縦桿まで伝わってきた。

手のひらが焼け焦げるように熱い。


それでも私は両手の力を絶対に緩めなかった。

奥歯を強く噛み締める。

絶対にヒカリくんを落とさない。

あの身を焦がす熱線の前に、彼を晒すわけにはいかない。


右手の操縦桿から伝わる熱が限界を超えていた。

フラウスレイの右腕の金属指が、限界を訴えるように嫌な音を立てる。

私の決意とは裏腹に、機体の物理的な限界がすぐそこまで来ていた。


黒い装甲を脱ぎ捨てたとはいえ、ルベルジンカミシモは重い。

赤と白の無骨な本体の重量が、容赦なく私の右腕にのしかかる。

握りしめた太いワイヤーが、ミリ単位で指の間を滑り始めた。

油と焦げた金属の匂いがコクピットに充満する。


落ちる。

ヒカリくんの機体が、灼熱の熱線が走る空間へ向かって傾いていく。

私が両足のペダルを踏み込む力を強めようとした瞬間だった。


眼下の視界が、強烈な青白い光に染め上げられた。

下で待機していたラキくんのギエルレウだ。

最大出力のエネルギーの奔流が、一直線に空気を焼き切って飛んでいく。

狙いはただ一つ。

熱線を放ち終えて無防備に開かれた、巨大な化け物の口元だった。


青白い閃光が、ボスの喉の奥へ正確に吸い込まれていく。

鼓膜を突き破るような絶叫が戦場に轟いた。

巨体が苦痛に大きくのけぞる。

化け物の口から漏れ出していた熱線の余波が、完全に霧散して消え去った。


完璧なタイミングだった。

一切の迷いがない、恐ろしいほど正確な一撃。

見事だと目を見開いた。


少し前に、私はあの二人に通信で問いかけた。

命を懸ける覚悟と、絶対に死なない覚悟はあるか。

あの極限状態の中で、二人は全く同じタイミングで即答した。

当たり前だ、愚問だ、と。


彼らはその言葉を、たった今この状況で完璧に証明してみせたのだ。

なら、私も応えなければならない。


私は静かに息を吐き出した。

うるさかった心臓の鼓動は、もう完全に落ち着いている。

恐怖は全くない。

私の命を、この二人に完全に預けると決めたっ。

私もこの場で、自分自身の覚悟を示す。


私は両足のメインペダルから一気に力を抜いた。

巨大な掘削機の鉄柱をガッチリと掴み込んでいた、機体の両足のロックを解除する。

同時に、左手の操縦桿のスイッチを弾いた。

掘削機に固定して機体を支えていた左腕のワイヤーのストッパーを外す。

安全圏に留まるためのすべての命綱を、私自身の手で完全に断ち切ったのだ。


フワリと、内臓が浮き上がるような無重力感が全身を包み込む。

私はフラウスレイを何もない空中の真っ只中へと身を投げ出した。


重力が完全に消え去った。

フラウスレイの機体が空中へと放り出される。

下から吹き上げる猛烈な風が、装甲を激しく打ち据える音がコクピットに響き渡った。


私の体はシートから浮き上がりかけている。

それでも両手は操縦桿をしっかりと握り込んでいた。

視界の先には、バランスを崩して落下しかけているルベルジンカミシモの姿がある。


私は左手の操縦桿を前方へ鋭く押し込んだ。

そのまま射出トリガーを強く引き絞る。

フラウスレイの左腕から、甲高い発射音が鳴り響いた。

太い鋼線が空気を切り裂いて飛び出す。

一直線に伸びた左のワイヤーは、ルベルジンの機体に巻き付くようにしてしっかりと絡みついた。


これで両腕が繋がった。

右手は直接ワイヤーを握りしめている。

左手は射出機構でワイヤーを接続している。

眼下には、口から煙を吹き上げながら荒れ狂う巨大な化け物が迫っていた。


墜落する。

このままいけば、フラウスレイは地面に激突して完全にスクラップだ。

だが、そんなことは今の私にはどうでもよかった。


私は両足のペダルから完全に足を離した。

姿勢制御をすべて放棄する。

機体の全エネルギーを両腕の駆動機構だけに集中させた。


両手の操縦桿を、手前へ向かって限界まで一気に引き絞る。

落下するフラウスレイ自身の凄まじい質量と勢い。

それをそのまま巨大な遠心力へと変換した。

空中で振り子のように機体を大きく振る。

ワイヤーの先に繋がったルベルジンカミシモを、力任せに上空へと放り投げた。


関節部が悲鳴を上げ、左右のワイヤーが同時に弾け飛ぶ。

拘束から解き放たれた赤と白の機体が、空高く打ち上げられていく。


私のフラウスレイは、その反動でさらに加速して地上へと落下していった。

二つの機体が空中で交差する。

時間がゆっくりと引き伸ばされたような奇妙な感覚に包まれた。

フロントモニター越しに、真横を通り過ぎていくルベルジンの姿が見える。


錯覚だったのかもしれない。

極限状態が見せた、ただの幻覚だったのかもしれない。

でも、すれ違うほんの一瞬。

ルベルジンの無骨な頭部が、私へ向かって小さく頷いたように見えたのだ。


命を預けた。

その想いが、ヒカリくんへ確かに伝わったと分かった。


次の瞬間、凄まじい衝撃がフラウスレイを襲った。

受け身を取る余裕なんて全くない。

機体は背中から完全に無防備な状態で、荒野の硬い地面に激突したのだ。


轟音が響く。

コクピット全体が激しく跳ね回った。

シートベルトが体に深く食い込み、肺から空気が強制的に絞り出される。

視界が真っ赤なエラー警告で埋め尽くされた。

全身の骨が軋むような痛みが走る。

場所はボスリノセロスの巨大な顔面のすぐ目の前だった。


機体は仰向けのまま完全に沈黙した。

両足のペダルを踏んでも全く反応しない。

操縦桿も完全にロックされて動かなかった。

今の私にできることは、フロントモニター越しに広がる砂埃にまみれた空を見上げることだけだった。


遥か上空。

天高く舞い上がったルベルジンのシルエットが見えた。

ヒカリくんの機体は、今まで盾として使っていたボロボロの大剣を空中で静かに手放した。

役目を終えた巨大な剣がパージされ、地上へと落下していく。


手ぶらになったルベルジン。

その機体が空中で素早く手を伸ばす。


ヒカリくんの機体が力強く掴み取ったもの。

それは、空高くで鈍く光を反射する、長細い一本の白いパーツだった。


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