19話:Iron Counterattack 〜鋼の反撃〜
フロントモニターの真ん中で、猛烈な土煙が弾けている。
ボスリノセロスの巨大な背中が、ぐんぐん遠ざかっていく。
俺は床が歪むほどに、足元のメインペダルを踏み込んだ。
ルベルジンカミシモのジェネレーターが甲高い悲鳴を上げる。
背中のスラスターが火を噴き、強烈なGが俺の胸を圧迫した。
だけど、追いつかない。
全開で飛ばしているのに、ジリジリと距離を離されていく。
あの化け物の脚力は異常だ。
四本の太い足が大地を蹴るたび、クレーターのような穴が掘れ、大量の砂が俺のフロントガラスを叩く。
「くそっ!」
俺はコクピットの中で叫んだ。
汗が額から垂れて、目に沁みる。
熱気がシートの隙間から立ち上り、焦げたオイルの匂いが鼻を突いた。
両手の操縦桿を力任せに握り閉める。
ルベルジンの腕部フレームがギチギチと軋む音が響いた。
無理にアンクロスを使って装甲をパージすれば、追いつけるかもしれない。
無理に追いついたりする必要はない。
脳裏に、シルヴィアさんの落ち着いた声が蘇る。
さっきの通信で、あの人ははっきりと言っていた。
「落ち着け、俺」
俺は荒い息を整え、両足のペダル操作を細かく切り替えた。
ペダルを踏む圧力をわずかに緩め、脚部スラスターのオーバーヒートを抑える。
機体の揺れが少しだけ収まった。
今、俺がやるべきことは何だ。 俺は自分自身に問いかけた。
ただ目の前の化け物とスピード競走をすることじゃない。
意地になって一番乗りを目指すことでもない。
答えなんて、最初から決まっている。
あのボスリノセロスを完全に叩き潰すことだ。
そして、あの地下で動けなくなっている八十九名の作業員たちを、絶対に生きて救出することだ。
そのために、俺は今このルベルジンカミシモのコクピットに座っている。
この鉄の塊は、俺の身勝手な怒りを撒き散らすための道具じゃない。
仲間と一緒に勝利を掴み、誰かを守るための足であり、刀なのだ。
さっき、シルヴィアさんから届いた通信が頭の中で響く。
あの人は、あの巨大な掘削機の頂上に登り切った。
そして言ったのだ。
ここを最終決戦の舞台にする、と。
フロントモニターのズーム倍率を上げる。
視界のはるか前方。 巨大な掘削機の頂上。
そこに立つフラウスレイの姿がくっきりと映し出された。
シルヴィアさんの機体が動いた。
両腕のマニピュレーターが腰の装甲へ素早く伸びる。
引き抜かれたのは四本のクナイだ。
フラウスレイはそれを空中で見事に組み合わせた。
ガシャンという硬質な金属音が通信越しに聞こえた気がした。
四つの刃が十字に噛み合い、巨大な手裏剣へと変形する。
俺は操縦桿を握りながら首を傾げた。
今から攻撃を仕掛けるタイミングなのか。
いくらフラウスレイでも、あの位置からじゃ距離がありすぎる。
巨大な手裏剣を投げたところで、装甲の分厚いあの化け物に届くのか。
届く前に失速するか、硬い表皮に弾かれるのがオチだ。
なぜあんな大技の準備をしているんだ。
ペダルを踏み込む足裏に、大地を蹴る巨獣の振動がビリビリと伝わってくる。
その規則的な重低音を感じながら、俺はハッと息を呑んだ。
違う。 こいつの目的だ。
あいつは俺たちと戦うために走っているわけじゃない。
極限の空腹を満たすために、一直線に掘削場へ向かっているのだ。
道中には食い散らかされた小型竜の残骸があった。
あの巨大な顎なら、鋼鉄の施設ごと中の作業員たちを丸呑みにする。
到着してしまえば、真っ先に掘削場の設備に食らいつくはずだ。
シルヴィアさんはそれに気づいている。
だからあんな大仰な武器を用意したのだ。
施設へ向く化け物の食欲を、無理やり自分に向けさせるために。
一撃で確実に強烈な痛みを与え、怒りを引き出すための特大ダメージ。
自分が最も危険な的になる覚悟なのだ。
「あの人らしいな」
俺は口の中で小さく呟き、メインペダルを踏む。
ルベルジンの背部スラスターが咆哮を上げる。
シートが背中を激しく殴りつけた。
感心している余裕はない。
フロントモニターの中で、ボスの巨体が掘削場の手前まで迫っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーー
俺はフロントモニターを食い入るように見つめた。
遥か上空にそびえる巨大な掘削機の頂上。
フラウスレイの左腕から、太いワイヤーが射出されるのが見えた。
だが、それは敵へ向けられた攻撃ではなかった。
ワイヤーの先端のアンカーが、自分が立っている掘削機の太い鉄骨へ向かって深く突き刺さる。
自らの機体を、巨大な建造物と完全に固定したのだ。
両足のペダルを踏み込むような動きが見える。
ワイヤーを限界まで巻き取り、足裏の接地圧を極限まで高めているのだ。
反動に耐えるための、絶対的な固定姿勢。
次の瞬間、フラウスレイの右腕が、大きく背後へ引かれた。
機体の上半身がバネのように大きく捻られる。
合体させた巨大な手裏剣が、夜空に向かって高く振りかぶられた。
次の瞬間。
フラウスレイの右腕が、猛烈な速度で前へ振り抜かれる。
ズォォッという風を叩き割るような轟音が、地上の俺のコクピットまで響いてきた。
巨大な十字の刃が、空気を切り裂きながら一直線に地上へと落下していく。
狙いは一つ。
掘削場へ向かって一直線に突進する、ボスリノセロスの巨大な背中だ。
激しい金属音が荒野に木霊した。
巨大な手裏剣が、ボスの分厚い装甲に深々と突き刺さる。
青白い火花が滝のように散り、焦げた匂いがフィルター越しに鼻を突いた。
ギャアアアッ。
鼓膜を破るような、獣の凄まじい絶叫が大気を震わせた。
ボスの四本の太い足が激しくもつれる。
急ブレーキをかけるように、大地を力任せに削り取った。
凄まじい土煙が天高く巻き上がる。
掘削場への突進が、止まったのだ。
狙い通りだ。
ボスの意識が、目の前の施設への食欲から切り離された。
土煙の中から、巨大な頭部がゆっくりと持ち上がる。
赤く濁った双眸が、一直線に上空のフラウスレイを睨みつけていた。
完全な怒り。
全ての殺意が、あの鉄塔の頂上へと向いたのが肌でわかる。
俺は両足のペダルを細かく操作し、ルベルジンカミシモの姿勢を低く保った。
ボスの挙動が変わる。
太い足で大地を強く踏みしめ、巨体を大きく捻った。
背中から生えた巨大な尻尾が、不自然なほど高く空へ向かって持ち上がる。
尻尾の先端にある、巨大な砲身のような器官。 そこから、チカチカと不気味な光が漏れ出し始めた。
あの構えは間違いなくあれだ。
「尻尾の主砲だ」
俺は通信コンソールのスイッチを乱暴に叩いた。
「シルヴィアさん。尻尾の主砲だ」
声が少し裏返ってしまったかもしれない。
両手の操縦桿を強く握り直す。
掘削機の上では、回避もまともにできない。
だが、フラウスレイは巨大な手裏剣を投げた後、自らをワイヤーで掘削機に固定したままだ。
即座に回避行動へ移るには、ロック解除の数秒の遅れが出る。
ボスリノセロスが、天を仰ぐように大きく咆哮した。
ビキビキと空気が震動し、コクピットのガラスに細かいヒビが入るような錯覚を覚える。
持ち上げられた尻尾の先端が、極限まで眩く輝いた。
視界が真っ白に染まる。
強烈な熱線が、ボスの尻尾から一直線に放たれた。
大気を焼き焦がす轟音が、一拍遅れてコクピットを激しく殴りつける。
熱線の軌道は、フラウスレイが固定されている巨大な掘削機の頂上へ向かって、寸分の狂いもなく伸びていった。
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フロントモニターが強烈な赤い光に染まる。
俺は反射的に両足のペダルを踏み込み、ルベルジンカミシモの姿勢を低く沈めた。
両手の操縦桿を握る手に、じっとりと冷たい汗が滲む。
コクピットの遮光フィルターが自動で展開された。
視界が少しだけクリアになる。
俺ははるか上空の巨大な掘削機を見上げた。
少し前にシルヴィアさんのフラウスレイが動いていたようだ。
機体を固定していたワイヤーのロックが外し、フラウスレイが夜空へ向かって大きく跳躍した。
足裏のスラスターが青白い光を吹く。
機体がくるりと空中で回転した。
しなやかで美しい動きだ。
月明かりの中で鮮やかな軌道を描く。
空中に飛び出してしまった。
そこには蹴り出すための足場も、隠れるための障害物もない。
尾の主砲から放たれる熱線は、恐ろしい速度で飛んでくる。
軌道を変える手段のない空中で、あんな巨大なビームを躱せるはずがない。
熱線が夜空を真っ二つに裂く。
一直線だ。
標的は無防備に空中に浮かぶフラウスレイ。
その時。
フラウスレイの右腕が動いた。
腕部の射出口からワイヤーが撃ち出される。
漆黒の線が夜空を走る。
ガチン。
ワイヤーの先端が、掘削機の太い鉄骨に深く突き刺さった。
熱線が迫る。
閃光がモニターを埋め尽くす。
ジリジリとした熱気が地上のコクピットまで届く。
速い。
直撃する。
フラウスレイの右腕が強く引かれる。
ワイヤーが一気に巻き取られる。
空中の機体が強引に引っ張られる。
重力と慣性を無視した不自然な動き。
空中で、フラウスレイの機体が真横へ猛スピードでスライドした。
熱線がフラウスレイのすぐ横を通り抜ける。
装甲の表面をかすめるように光が走った。
背後にあった厚い雲が、熱線に撃ち抜かれて一瞬で消し飛ぶ。
間一髪だ。
空中で、ワイヤーの巻き取りを利用して強引に軌道を変えた。
見事に回避を成功させていた。
「嘘だろ、あんな躱し方があるのかよ」
俺は大きく息を吐き出した。
全身の筋肉が強張っていたことに今さら気づく。
シルヴィアさんのフラウスレイは、スライドした勢いのまま掘削機の別の鉄骨へと綺麗に着地し、再び体勢を低く構えていた。
ーーーーーーーーーー
「ヒカリくん大正解。なんで尻尾の主砲って思ったの?」
シルヴィアさんの余裕のある声だ。
死と隣り合わせの空中回避をやってのけた直後だというのに、息一つ乱れていない。
俺は手のひらにじっとりと冷たい汗をかいているというのに。
なんとなくそう思った。
正直に言えば、それしか答えようがない。
あのボスの尻尾の動きを見て、思っただけだ。
直感で叫んだ言葉が、結果的に大正解だった。
答えは合っているのに途中式が全くわからない。
テストでまぐれ当たりをしたような、なんとも言えない奇妙な感覚だった。
「あいつの攻撃は三パターンあるわ」
シルヴィアさんの声がモニターの向こうから響く。
俺が返答に詰まっているのを察してか、彼女はすぐに答えの解説を始めた。
「なるほどな」
別の回線から、ラキが素早く口を挟む。
「シルヴィアさんが高いところにいるから、あの巨体じゃ突進はできへん。距離も離れすぎとるから、高威力で近距離用の口から吐くビームは届かへんってことやな」
ラキの声が、スピーカー越しに答えを導き出した。
ハッと息を呑んだ。
シルヴィアさんは、そこまで計算していたのか。
あのバカでかい掘削機の上に登ったのは、単に上からの視界を確保するためだけじゃない。
ボスリノセロスの攻撃手段を、あえて一番回避しやすい尻尾の主砲一つに絞り込ませるためだ。
敵の行動を完全にコントロールしていたのだ。
これが歴戦の兵の思考回路。
俺はフロントモニターを鋭く睨みつけた。
感心している場合じゃない。
シルヴィアさんが命懸けで作ってくれた、絶対の隙だ。
ペダルを強く踏み込む。
ルベルジンカミシモの背部スラスターが、爆音を上げた。
シートが背中を乱暴に押し潰す。
強烈な加速のGが全身にのしかかる。
赤黒い砂埃を切り裂く。
視界のど真ん中に、巨大な岩山のような背中が迫ってくる。
ボスリノセロスだ。
あいつはまだ上のシルヴィアさんに気を取られている。
尻尾の主砲を撃った直後の、完全な無防備状態。
俺のルベルジンカミシモが、ついにボスの真後ろへ追いついた。
巨獣が動くたびに響く地響きが、機体の装甲をビリビリと震わせる。
獣の放つ強烈な熱気がコクピットにまで充満してきた。
左手の操縦桿を前に倒し、右手の操縦桿を強く引き絞る。
両腕のフレームが駆動音を上げ、大剣を構える態勢に入った。
絶対に逃さない。
照準器の真ん中に巨大な背中を捉えた。
ルベルジンカミシモの太い両腕が巨大な剣を天へ掲げる。
目の前には、尻尾の主砲を撃ち終えた直後の無防備な背中があった。
右足のペダルを強く踏み込み、機体の全推力を前方へ乗せる。
息を短く吐き出し、両手の操縦桿を力任せに振り下ろした。
ルベルジンの大剣が、ボスの分厚い装甲へ激突する。
ガアァンという凄まじい金属音がコクピットを激しく揺らした。
手応えは十分だ。
操縦桿から伝わる重い反動が、確実に装甲を割り、肉を断ったことを教えてくれる。
青白い火花が滝のように散った。
装甲の焼ける嫌な匂いと、獣の血の匂いがフィルター越しに機内へ入り込んでくる。
ボスの巨体が痛みに耐えかねたようにグラリと前に傾いた。
「ヒカリくん、よくやったわ。次の攻撃がもし突進だったら場所を入れ替えて回避。そのまま掘削場側で私たちと合流して。ビームだったら」
通信機からシルヴィアさんの冷静な声が響く。
だが、その言葉が最後まで続く前に眼前の巨獣が動いた。
痛みに怒り狂ったボスリノセロスが、太い四肢で赤黒い大地を激しく蹴り上げる。
ズシン、ズシンと重い地響きが足元のペダルから這い上がってきた。
頭を低く下げ、巨大な角を真っ直ぐこちらへ向けてくる。
間違いない。
今日、嫌というほど何度も見せられたあの構えだ。
奴は怒りに任せて、俺の機体を真っ向から跳ね飛ばす気だ。
「了解」
俺は通信マイクに向かって短く返した。
両足のペダルを細かく踏み替え、ルベルジンの重心をわずかに右へズラす。
真正面から受け止める必要はない。
あの突進の軌道とタイミングは、もう完全に見切っている。
ボスの巨体が爆発的な速度でこちらへ突っ込んできた。
視界が巨大な角と土煙で埋め尽くされる。
迫る岩山のような圧倒的な質量。
俺は衝突の直前、左足のメインペダルを蹴り飛ばすように深く踏み込んだ。
ルベルジンの機体が左へ鋭くスライドする。
同時に、右手の操縦桿を下から上へ弾き上げた。
大剣の平らな腹を使い、迫り来るボスの角の側面を強打する。
ガキンと硬い火花が散った。
受け流しだ。
俺の剣の表面を滑り台にするようにして、ボスの突進の推進力を横へと逸らす。
凄まじい風圧と熱気がルベルジンの装甲を撫でていく。
ボスの巨体が俺のすぐ横をすれすれですり抜けていった。
見事に場所の入れ替えに成功した。
これで俺は掘削場側へ陣取り、ボスは俺たちに背を向ける形になったのだ。
ズザザザザッ。
背後で、大地を力任せに削り取るようなけたたましいブレーキ音が鳴り響く。
俺は素早くペダルを踏み込み、機体を反転させた。
ボスリノセロスが四つの足を踏ん張り、強引に向きを変えているところだった。
巻き上がった大量の赤黒い土煙の中から、血走った双眸がこちらを鋭く睨みつける。
ビキビキと周囲の空気が震えた。
直後、鼓膜を突き破るような巨大な咆哮が荒野に轟いた。
怒りと威嚇に満ちた、腹の底を直接揺らすような恐ろしい叫びだ。
俺は両手の操縦桿を固く握り直し、大剣を再び正眼に構えた。
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視界の端で、巨大な掘削機の頂上から一つの影が飛び降りるのが見えた。
シルヴィアさんのフラウスレイだ。
空中でワイヤーを巧みに射出し、周囲の鉄骨を次々と経由しながら落下速度を殺していく。
スラスターの光が夜空に軌跡を描いた。
着地の瞬間、両足のサスペンションが深く沈み込み、荒野の砂を大きく巻き上げる。
無駄のない、身軽な着地だった。
フラウスレイが身を低くして構えた横へ、猛烈な勢いで砂埃を切り裂きながらもう一機が滑り込んでくる。
ラキのギエルレウだ。
足元のホバーユニットが甲高い駆動音を立て、俺のルベルジンカミシモと並ぶようにしてピタリと停止した。
巨大なボスリノセロスを前にして、三機が同じ地上で陣形を組んだのだ。
俺はモニター越しに、並び立つ仲間の機体を改めて見つめた。
そして、自分のルベルジンの状態を示す計器盤へ目を落とす。
ひどい有様だった。
三機とも、腕や足が丸ごと千切れて吹き飛んでいないだけで、まさに満身創痍のボロボロな状態だ。
俺のルベルジンカミシモは、正面の重装甲がひしゃげ、無数の亀裂が走っている。
何度もボスの突進を大剣で受け流したせいで、右腕の関節からはオイルが黒い血のように滲み出していた。
コクピットの中は異常な熱気に包まれている。
冷却システムが限界を超え、焦げた金属の匂いが充満していた。
右側に立つラキのギエルレウも痛々しい。
滑らかな流線型の装甲には無数のえぐれたような傷跡が刻まれている。
肩のアーマーは留め具が外れ、辛うじてぶら下がっている状態だ。
ホバーの噴射口の周りは度重なる攻撃で高熱でドロドロに溶け落ち、機体全体がわずかに傾いていた。
左側にいるシルヴィアさんのフラウスレイも例外ではない。
あの恐ろしい尻尾の熱線を間一髪で躱した代償だ。
機体の右半身の軽量装甲が、高熱に炙られて黒く炭化し、剥がれ落ちかけている。
ワイヤーを巻き取るドラムは過負荷で赤熱し、今にも焼き切れそうな火花を散らしていた。
ボロボロだ。
でも、それも当然なのだと俺は内心で納得していた。
ほんの少し前、ボスの突進の構えを見たとき、俺は今日何度この攻撃を見たかわからないと思った。
それだけ長い時間、俺たちはこの規格外の化け物を相手に、死闘を繰り広げ続けてきたのだ。
一歩でも判断を間違えれば即死する極限の綱渡りを、三機で何度も何度も繰り返してきた。
その果てに、今がある。
しかし俺たちだけが消耗したわけじゃない。
前方の土煙が晴れ、ボスリノセロスの巨体が再び姿を現した。
全身の分厚い皮膚のあちこちが大きく裂け、生々しい傷が露出している。
さっきまでなら、あの裂け目は不気味な細胞の増殖ですぐに塞がっていた。
傷を瞬時に塞ぐ異常な回復能力。
だが今は、裂けた傷口から赤黒い液体が滝のように流れ落ち、荒野の砂を黒く染め上げている。
俺たちの執拗な攻撃が、ついにあの化け物に回復の切り札を使わせ切ったのだ。
奴の体力もジェネレーターも、とうの昔に限界を迎えている。
あんな威嚇の咆哮を上げているが、その太い四肢は微かに痙攣し、巨体を支えきれずに震えていた。
「どうやら、向こうさんも底が尽きたみたいやな」
通信機から、ラキの静かな声が聞こえた。
ニヒルな響きの中に、隠しきれない熱い闘志が混ざっている。
「ええ。もう小細工はいらないわね」
シルヴィアさんの透き通った声が通信回線を満たした。
「お互いに後がない。ここが最終決戦よ。ここで決着をつけるわ」
俺は額の汗を手の甲で乱暴に拭い去り、両手の操縦桿を力強く握り直した。
足元のペダルに両足の裏を密着させる。
自分がやるべきことは一つしかない。
目の前の敵を倒し、仲間の命を守り・掘削員たちの命も救う。
ボスリノセロスが、残された全ての命を燃やすように巨大な角を振りかざして突進してくる。
巻き上がる赤黒い砂埃。
俺は両手の操縦桿を高く振り上げ、月明かりを反射して鋭く輝く大剣を、構え直した。




