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18話:The Chessboard of Wastes 〜荒野の布陣〜

ペダルを深く踏み込む。

私の愛機フラウスレイの脚部スラスターが青白い炎を噴き上げた。

強烈な重力加速度がシート越しに私の背中を押し付ける。

機体がふわりと宙に浮いた。

眼下に広がる険しい岩山を、下から上へと一気に舐めるように飛び越えていく。


空中で機体が僅かに傾く。

私は両手の操縦桿を左右に開くように動かした。

フラウスレイの両腕が外側に開き、空力バランスを補正する。

コクピットの計器類が緑色の数値を慌ただしく弾き出した。


視界の端のモニターを見る。

二つの機影が私にしっかりと続いている。

ヒカリくんとラキくんだ。

私たちは今、目標である掘削場へ向かって全速力で移動している。


正規のルートは通っていない。

岩山を強引に飛び越えるショートカットだ。

機体の関節部から、無理な駆動による高い摩擦音がコクピットに響き続けている。

オイルの焦げる匂いが微かに鼻を突いた。


この無茶なルートで、どれだけの時間を稼げるかはわからない。

想定外の障害物があれば、かえって遅れをとる可能性だってある。

それでも、急がなくては。 胸の奥で焦りがチクリと針を刺す。

操縦桿を握る手に、自然と力が入った。


ふと、フロントモニターの上部に視線を向けた。

薄暗い空のずっと高い場所。

そこに、巨大な影が浮かんでいる。

チュラクシスだ。

まるで私たちを見下ろすように、不気味な静けさを保って滞空している。


私は両足のペダルを細かく踏み替え、着地の衝撃に備える。

フラウスレイの足裏が岩山の向こう側へ着地し、激しい地響きと土煙が舞い上がった。

サスペンションが悲鳴を上げる。

強烈な振動を、足首のバネで吸収した。


着地と同時に、右手の親指で通信コンソールのスイッチを弾く。

今は通信圏内のギリギリの距離を高速で移動している。

この速度と周囲の岩山の地形のせいで、回線は非常に不安定なはずだ。


ザザッ。

ノイズがコクピットのスピーカーから耳障りに鳴り響く。


「クレティさん。ユミィ。聞こえるかな」


私はできるだけ普段通りの口調で呼びかけた。

返事はない。

ノイズの音だけが断続的に響く。


ザァァッ。

激しい砂嵐の音。

その奥から、切羽詰まった声が届いた。


「聞こえます。こちらユミィです」


ユミィの声だ。

私は少しだけ安堵の息を吐き出した。


ザザッ。 ノイズの向こうで声がする。

私はペダルを踏み込みながら、通信コンソールに目を向けた。


「ユミィなの。クレティさんは一緒じゃないの」


機体の揺れに合わせて、私の声も少しだけ跳ねた。

ザァァッ。

さらに強い砂嵐の音がコクピットに響く。

耳障りな音の隙間から、必死な声が返ってきた。


「はい、ユミィです。クレティさんは、もう一匹のリノセロスを足止めしてくれています」


私は操縦桿を握る手に力を込めた。

なるほど。

ヒカリくんとラキくん、そして私の三人が、あの巨大なボスリノセロスとの戦闘に集中できた理由。

背後からの奇襲や増援を全く気にしなくて済んだ理由。

クレティさんが、たった一人でもう一匹の化け物を引き受けてくれていたのだ。


つまり、クレティさんはウィリディチで出撃したということだ。

あの重装甲機を、この短時間で戦える状態まで直したのだ。


「ユミィ、よく修理が間に合ったね。さすがだわ」


私は素直な称賛をマイクに乗せた。


「いえ、私はただ応急処置をしただけで。クレティさんの無茶な操縦のおかげです」


ユミィの声が、さっきよりもはっきりとコクピットに響いた。

耳障りだったザザッというノイズが、急に小さくなっている。

通信の音声がクリアになってきたのだ。

それは、私たちが通信の発生源に急速に近づいている証拠だった。

発生源は、遥か上空に浮かぶ巨大な影。 チュラクシスだ。


私はフロントモニターの上部をもう一度見上げた。

分厚い雲の下で、巨体がゆっくりと移動している。 あの船の中にユミィがいるのだ。


「ユミィの現状は。今どこで何をしているの」


私は足元のペダルを細かく操作し、岩だらけの荒野を駆け抜けながら尋ねた。

フラウスレイの関節が激しい摩擦音を立てる。

焦げたオイルの匂いが鼻をかすめた。


「今はチュラクシスで掘削場に向かっています。掘削員用の物資を空から降下させるつもりです」


ユミィの真っ直ぐな声がスピーカーから届く。

私は目を細めた。

掘削員用の物資。

まだ掘削場の作業員たちには救援物資が届いていなかったのだ。


最悪の事態が頭をよぎる。

物資がないということは、作業員たちは今も自力では一歩も動けない状態に陥っている可能性が高い。

ただ息を潜め、暗い岩陰で化け物たちの足音が遠ざかるのを待っているのかもしれない。

あるいは、もう。


いや、悪い想像はここまでだ。

私は首を横に振り、思考を切り替えた。

左手の操縦桿を前に押し出し、機体のバランスを前傾姿勢に保つ。


「わかった。私たちも急ぐわ」


私は両足のペダルをさらに深く踏み込んだ。

フラウスレイが青白い炎を上げ、赤黒い大地を猛烈な速度で削り取っていく。


ーーーーーーーーーー


フラウスレイの機体を前傾姿勢で安定させる。

荒野の景色が猛烈な勢いで後ろへと吹き飛んでいく。

大地の表面に、奇妙なものが点々と転がっているのがフロントモニターに映し出された。

昨日私が戦った、小型竜の残骸だ。


ひしゃげた装甲の破片。

ちぎれた羽の関節部分。

どれも無惨に引き裂かれ、中身を乱暴にくり抜かれたように空っぽになっている。

あの巨大なリノセロスが食い散らかした跡なのだろうか。

コクピットのフィルター越しでも、鉄の錆びた匂いと微かな腐敗臭が鼻を突く。

嫌な光景だ。

だが、その点々と続く不気味な残骸の列は、掘削場へと向かう私たちにとって確かな道標になっていた。


モニターの先を凝視する。

切り立った岩山の隙間に、見覚えのある巨大な人工物のシルエットが浮かび上がってきた。

昨日も訪れた掘削場だ。

到着まであと少し。


私は右手の親指を伸ばし、通信コンソールの周波数を合わせた。

急いで掘削場の作業員用チャンネルを開く。


「こちらアヴェントゥラのシルヴィア。応答を」


マイクに向かって短く呼びかける。

ザザッ。

一瞬のノイズの後、すぐに声がスピーカーから返ってきた。


「こちら掘削場。アンタたちの戦いは見ていた。救援に感謝する」


昨日のあの作業員の声だ。

生きていたのだ。

私は胸の奥で小さく安堵の息を吐き出した。

だが、まだ喜んでいる余裕はない。

一番重要な確認が残っている。


私は両足のペダルを細かく踏み替え、機体の減速準備に入りながら素早く質問を投げかけた。


「状況を手短に教えて。そっちにいる八十九名は自力で移動して避難できる?」


少し語気が強くなってしまったかもしれない。

だが、今は一分一秒が惜しい状況だ。


餓死寸前で一歩も歩けない。

それがただの私たちの杞憂であってほしい。

全員が自分の足で動ける状態ならば、私たちが護衛しながら、一気に安全圏へ歩いて離脱する作戦もある。

取れる作戦の幅が全く違ってくる。


私は操縦桿を握る手に力を込め、スピーカーからの返答をじっと待った。


スピーカーから、ざらついた作業員の声が返ってくる。

「すまない。自力での移動は難し」


私は右手の親指で通信コンソールのスイッチを強く押し込み、その言葉を強引に遮った。 「餓死寸前なのね」


コクピットに一瞬の重い沈黙が落ちる。

通信機越しに荒野の風の音だけが鳴っていた。


「そこまでわかっているのか」

野太い声が、かすかに震えていた。


やっぱり。

クレティさんの最悪の予測は的中していたのだ。

食料も水も尽き、彼らの体力はとうに限界を迎えている。

作業員たちを機体で護衛しながら、自分の足で安全圏まで歩いて避難させる。

その作戦は完全に消滅した。

彼らはもう、立ち上がることすらできない状態なのだ。

となれば、私たちが取れる手段は限られてくる。


「了解したわ。あの掘削機を借りるわよ」


私は短く告げて通信を切った。

左手の操縦桿を前方へ真っ直ぐに押し出す。

フラウスレイの左腕が滑らかに連動して持ち上がった。

細身のマニピュレーターが、切り立った岩山の奥にそびえ立つ巨大な人工物を指差す。


モニターに映し出されたのは、砂漠にそびえ立つ巨大な掘削機だ。

足元には四角い建物を思わせる巨大な軌道が並んでいる。

そこから空に向かって、斜めに伸びる複雑な鉄骨の櫓が組み上がっていた。

巨大なクレーンのようなアームの先端には、岩盤を削り取るための装置がついている。

鉄骨の階段や手すりのあちこちには、防塵対策なのか、細かい網目のネットが何重にも張り巡らされていた。


無骨で巨大な鋼鉄の塊。

だが、今の私にはそれが天へ続く都合の良い階段に見えた。


複雑に入り組んだ鉄骨のトラス構造も、張り巡らされた分厚い防塵ネットも、機体の引っ掛かりにはちょうどいい。

ウィリディチやルベルジンカミシモのような重装甲機なら、その重量で足場が崩れてしまうかもしれない。

けれど、装甲を極限まで削ぎ落とした身軽な私のフラウスレイなら話は別だ。

あの網目や鉄骨に手足を掛けて、上まで一気に登りやすそうだ。


私が直接あの上へ登り、高所から周囲の状況を把握して戦況を把握する。


私は両足のペダルを細かく踏み替えた。

フラウスレイの姿勢を低く保ち、脚部のサスペンションに力を溜める。

背後を走るヒカリくんとラキくんを待たせるわけにはいかない。

私はメインペダルを床の底まで強く踏み込み、機体を巨大な掘削機へと向かって一気に加速させた。


右手の操縦桿を前に引き倒し、人差し指でワイヤーアンカーの発射トリガーを引いた。

シュバッという甲高い空気吐き出し音とともに、腕部の噴射口から鋼鉄のワイヤーが勢いよく撃ち出される。

先端の四爪アンカーが、巨大な掘削機の太い鉄骨へガチリと噛み付いた。


両足のペダルを細かく踏み替え、足裏の接地圧を調整する。

ワイヤーの巻き取りスイッチを入れると同時に、右足のペダルを力強く踏み込んだ。

フラウスレイの細身の身体が、一気に夜空へ向かって跳び上がる。

風を切る音がコクピットの装甲越しにビュンと響いた。


左手の操縦桿をひねり、二本目のアンカーをさらに高い位置にある防塵ネットの保持フレームへ打ち込む。

カツン、と硬い手ごたえ。 交互にワイヤーを巻き取り、鋼鉄の骨組みを蹴り上げていく。

身軽な軽量機ならではの機動だ。

立体的な足場を縦横無尽に駆け登る感覚。

こういう芸当は、私の得意分野であり、まさに最高にお手のものだ。


一挙手一投足に合わせて、足元操作のサスペンションが軽やかに伸縮する。

コクピットを包む内部照明が、登攀の揺れに合わせてかすかに明滅していた。

オイルの匂いと、駆動系が摩擦で熱を帯びる独特の匂いが鼻をくすぐる。


あっという間に、地上数十メートルの掘削機上部アームへと到達した。

私は両足のペダルを深く踏み込んで旋回軸を固定し、フラウスレイを太い鉄骨の上にしっかりと立たせた。


「さて」


操縦桿のダイヤルを指先で回し、メインモニターの光学カメラの倍率を引き上げる。

視界が一気に広がり、夜の荒野の全貌がくっきりと浮かび上がった。


まず目に飛び込んできたのは、猛烈な勢いで土煙を巻き上げながら進む巨大な影だ。

ボスリノセロス。

その巨体のすぐ脇を、滑らかな動きで並走している機体がある。

ラキくんのギエルレウだ。

絶妙な距離感を保ち、敵の意識をこちらへ釘付けにしているのがわかる。


さらにその少し後方。 一定の間隔を空けて追従しているのは、ヒカリくんのルベルジンカミシモだ。

敵の側面に圧力をかけつつ、逃げ道を確実に塞ぐような見事な位置取りをしている。

連携は思いのほかうまくいっている。

特に大きなトラブルや破綻もなさそうだ。

ふっと、胸の奥で小さな安堵の息を吐き出した。


高度を稼いだおかげで、通信回線の状態も変わった。

ザザッという鬱陶しいノイズが綺麗に消え去り、スピーカーから澄んだ電波音が届く。

上空に滞空するチュラクシスとの直線上の障害物が、完全に無くなったのだ。


「ユミィ、聞こえる。ここは通信良好よ」


「はい、シルビーさん。すごくクリアに聞こえます」


通信コンソールからユミィの真面目な声が響いた。

私はモニターに表示された周囲の空間データを見つめながら、一番重要な情報を言葉にして伝えた。


「掘削場の作業員たちの状況がわかったわ。八十九名全員が、餓死寸前の状態よ。自力での歩行も、自力での避難も一切不可能」


「そんな……それじゃあ、物資が届かないと本当に立ち上がることすらできないんですね」


ユミィの声に、ショックの色が混ざる。

救援が少しでも遅れていれば、全員が全滅していたかもしれない。

最悪のシナリオが、現実として目と鼻の先に迫っていたのだ。


「ええ。だから一刻も早く食料を彼らに届ける必要があるわ」


私は言いながら、コクピットの中で視線を巡らせた。

チュラクシスから食料が詰まった大型の物資コンテナを直接投下してもらい、それを私がこの場所からフラウスレイのワイヤーで素早く掴み取って引き寄せる。

そんな豪快な空中キャッチのアイデアが、一瞬だけ頭をよぎった。


だが、私はすぐに首を横に振ってその案を打ち消した。

フラウスレイは、限界まで装甲と骨組を削ぎ落とした超軽量機体だ。

上空から落下してくる巨大な物資コンテナの重量と運動エネルギーを、細いワイヤーで受け止められるはずがない。

受け止めた瞬間にワイヤーが千切れるか、あるいはフラウスレイの腕部フレームごと引きちぎられ、

機体ごとこの高い掘削機から真っ逆さまに叩き落とされるのが目に見えている。


無理なパフォーマンスは命取りだ。

現実的で、確実に物資を地上へ届ける手順を組み立てなければならない。


「ユミィ、コンテナの直接キャッチは取りやめるわ。フラウスレイのフレームじゃ耐えきれない。チュラクシスからの降下手順を、別の方法に切り替えましょう」


「了解しました。安全な降下ポイントと、作業員の方々へ届けるための最適な場所を計算します」


ユミィの手惑いのないキーボード打鍵音が、通信越しにカチャカチャと心地よく響いてきた。


同時に、足元の操作ペダルをわずかに踏み、フラウスレイの視線を地上へと向け直す。

遠くから迫ってくるボスリノセロスの重厚な足音が、大気を震わせてこの高い掘削機にまで伝わってきた。

ヒカリくんとラキくんが、着々と化け物をこの場所へと誘い込んできている。


時間はあまりない。

だが、状況のピースは少しずつ噛み合い始めていた。

私は操縦桿を握り直し、迫り来る巨影と上空の補給船の軌道を、静かにその目に焼き付けた。


ーーーーーーーー


上空の風は強い。

フラウスレイの装甲を叩く風切り音が、コクピットの防音材を抜けて耳に届く。

微かに混じる鉄錆の匂い。

私はメインモニターの表示を広域マップに切り替えた。

戦場全体の俯瞰図が、緑色のフレームで展開される。


状況を正確に把握する。

これは生存のための絶対条件だ。

私のように、影を歩いてきたような人間でなくても、戦場ではこの情報整理が生死を分ける。

手持ちのカードを確認し、盤面を読み解くのだ。


赤く点滅する巨大な光点。 ボスリノセロスだ。

ヒカリくんとラキくんに誘導され、猛烈なスピードでこちらへ向かっている。

巻き上がる砂埃が、モニター越しでもはっきりと肉眼で確認できる距離まで迫っていた。

巨獣が大地を踏み砕く重低音が、鉄骨を伝って私の座るシートまで響いてくる。


視線を下に向ける。

足元に広がる掘削場には、身動きの取れない八十九名の命がある。

彼らは餓死寸前だ。

自力では一歩もここから動けない。


クレティさんの機体を示す光点は、ここには反映すらされない。

ここから絶望的に遠い場所なのだ。

彼が駆けつけるまで持ちこたえるという選択肢は、今この瞬間に完全に消滅した。

私たちが後退すれば、作業員たちが踏み潰される。

退路はない。

時間稼ぎも意味を持たない。


コクピットの静寂の中。

私はふっと小さく息を吐く。

絶体絶命の窮地。

なのに、頭の中は驚くほどクリアだった。


やるべきことが、ひどくシンプルになったからだ。

いや、違う。 最初から何も変わっていなかったのだと気づいた。

ヒカリくん。 ラキくん。 そして私。

この三人で、あの巨大なボスリノセロスを倒す。

ただそれだけのことだ。


私は両足のペダルに力を込めた。

フラウスレイの脚部関節が駆動音を上げる。

二人に合流するため、この巨大な掘削機から地上へ降りようとした。

右手の操縦桿を手前に引き、ワイヤーのロックを解除する準備をする。


だが、ペダルを踏み込む足がピタリと止まった。

機体がわずかに前傾姿勢をとったまま、動きを止める。


私のフラウスレイは、正面からの殴り合いを想定した重装甲機ではない。

極限まで軽量化されたフレーム。

立体的な機動を可能にするワイヤーアンカー。

私が最も力を発揮できるのは、常に敵を見下ろす高い位置だ。


視線を上げる。

足元に広がるのは、複雑に組み上がった巨大な掘削機。

見渡す限りの広大な砂漠の中で、今、最も背の高い建造物は間違いなくこれだ。

強固な鋼鉄の足場。

視界を遮るものもない。

これ以上の陣地がどこにあるというのだ。


私は足元のペダルをゆっくりと踏み直した。

フラウスレイの姿勢を起こし、巨大な鉄骨の上でどっしりと構えさせる。

両手の操縦桿を強く握り直した。

指先から伝わる機体の微かな振動が、私の心臓の鼓動とシンクロしていく。


「ヒカリくん。ラキくん。聞こえる」


通信コンソールのスイッチを入れる。


「シルヴィアさん。こっちはええ感じに誘導できとるで」


ラキくんの余裕ぶった声が返ってくる。

その後ろで、重い地響きのようなノイズが混ざっていた。


「この砂漠で一番高い場所は、今私が立っているここよ。ここを最終決戦の舞台にするわ」


私は左手の操縦桿を操作し、フラウスレイのメインカメラを真正面から迫り来る巨大な影にロックオンした。

ターゲットの熱源反応が赤くハイライトされる。


「二人はそのままボスの注意を引きつけて。私はこの空から、あいつの急所を貫くわ」


「なるほどな。そっちのほうがシルヴィアさんらしいわ」


ラキくんの短い笑い声が聞こえた。


「わかった。シルヴィアさん」


ヒカリくんの力強い声が通信機に響く。

彼らの機体が再び加速したのが砂埃で分かった。


私は深く息を吸い込む。

オイルと鉄の匂いが肺を満たす。

夜空の雲がゆっくりと切れ、冷たい月明かりが荒野を照らし出していた。

巨大な鋼鉄の掘削機の上に立つフラウスレイのシルエットが、月光を浴びて白く浮かび上がる。

手の中の操縦桿が、まるで自分の腕の一部のように熱を帯びていた。

全ての準備は整った。 風が砂埃を彼方へ吹き飛ばしていく。


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