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10話:Silent Launch 〜静寂の出撃〜

基地の大きな門を出て、俺たちは荒野を進み始めた。

太陽は高く昇り、周囲の乾いた地面を白く照らし出している。

風が吹くたびに、細かい砂が顔に当たってチクチクと痛む。

しかし、数日間走り込みを続けたおかげか、この程度の道のりで息が上がることはなかった。 俺の体は、確実にこの過酷な環境に馴染みつつあった。


しばらく歩くと、周囲の景色が少しずつ変わり始めた。

荒涼とした地面にぽつぽつと緑の草が混ざり合い、遠くに石造りの古い建物が見えてくる。

道はいつの間にか、平らにならされた石畳へと変わっていた。 周囲には、傭兵や商人、大きな荷物を背負った旅人の姿が増えていく。


街に入ると、周囲の騒がしさが一気に耳へと飛び込んできた。

レンガ造りと木製の梁がむき出しになった建物が並んでいる。 窓辺には色とりどりの花が飾られ、軒先からは様々な看板が吊り下げられていた。

通りを歩く人々からはすれ違うたびに羊毛の匂いや、屋台から漂うスパイスの香りが鼻をくすぐる。


ハイテクなマシンの技術が存在する一方で、この街の生活様式はどこか古風で温かみがあった。

俺はその不思議な対比に目を奪われながら、クレティさんの広い背中を追いかけた。 クレティさんが通りを歩くと、道行く人々が次々と声をかけてくる。


「よう、クレティ。怪我ぁ治ったのかい」


「ハハハ。見ての通りだ。お前さんも商売繁盛のようだな」


クレティさんは大声で笑いながら、親しげに手を振り返す。

この豪放磊落な男は、どうやらこの街の有名人らしい。

シルヴィアさんやユミィも、知り合いを見つけるたびに軽く手を振ったり、会釈をしたりしていた。


通りをいくつか曲がった先、街の中心部と思われる広場に、ひときわ大きく頑丈そうな建物が佇んでいた。

分厚い石壁には、大きな金属製の紋章が掲げられている。

建物の重厚な木製の二重扉は使い込まれて黒ずんでおり、周囲には独特の厳格な空気が漂っていた。 ここがギルドだ。


クレティさんが先頭に立ち、片手でその重い扉を押し開けた。 ギィ、という低い軋み音が響き、内部の空気が一気に流れ出してくる。


中に入ると、外の喧騒とは異なる、独特のざわめきが満ちていた。

高い天井には太い梁が走り、そこから吊り下げられたランプがオレンジ色の柔らかな光を投げかけている。

空気は少しひんやりとしており、古い紙の匂いと、タバコの煙、そして奥の食堂から漂う安酒の匂いが混ざり合っていた。


板張りの広い床には、多くの人々が行き交っている。

様々な人々が壁際に設置された巨大な掲示板を真剣な顔で見上げていた。

掲示板には、無数の依頼書がピンで留められている。 それぞれのグループが、ヒソヒソと作戦を練るような低い声が、部屋全体に響くノイズとなっていた。


俺は少し圧倒されながらも、クレティさんたちの後ろについて歩いた。

床板が踏みしめるたびに、ギシギシと心地いい音を立てる。 クレティさんは迷いのない足取りで、部屋の最奥にある長い受付カウンターへと向かった。


カウンターの向こうには、いくつかの窓口があり、それぞれに書類を整理する職員が座っている。

そのうちの一つ、一番広い窓口にいた女性が、俺たちの姿に気づいて顔を上げた。


彼女は落ち着いた深緑色の制服を着ており、綺麗に整えられた茶色の髪を後ろでまとめている。

その顔には、長年の仕事で培われたと思われる、穏やかで隙のない微笑が浮かんでいた。


「おや、これはこれは。アヴェントゥラの皆さん、お揃いで」


受付の女性は、手にしたペンを置いてカウンターに軽く身を乗り出した。

彼女の声は、この騒がしいギルドの中でも驚くほどよく通り、耳に心地よく響く。


「久しぶりの全員集合ですね、クレティさん。」


クレティさんがカウンターに両肘を乗せ、親しげに話しかける。

女性は小さく頷いて、引き出しから書類を取り出した。

しかし、彼女の視線はすぐに、クレティさんの後ろに立っていた俺へと移った。


彼女の瞳が、値踏みするようでありながらも温かい好奇心を持って俺を捉える。


「あら。見ない顔が一人混ざっているね」


女性は少し首を傾げ、俺の顔をじっと見つめた。 俺は急に注目されて、少しだけ体が硬くなるのを感じた。

いつもの口調でどう答えようかと考えていると、後ろからクレティさんの大きな手が、再び俺の背中を叩いた。


「おう。こいつはヒカリ坊だ。俺たちの新しい仲間さ」


クレティさんは自慢げに胸を張り、大声で俺を紹介した。

周囲の何人かの傭兵風の男たちが、その声に反応してこちらを振り返る。

ラキは横でフンと鼻を鳴らし、シルヴィアさんは楽しそうにクスリと笑った。


「ヒカリ、ね」


受付の女性は、その名前を確かめるように小さく呟いた。

それから、彼女は俺の全身をもう一度ゆっくりと見つめ、最後には優しい笑みを浮かべた。


「良いチームに拾われたね、お兄さん」


女性は少し声を潜め、俺にだけ聞こえるような優しいニュアンスでそう言った。


「ここの連中はね、見た目は少し荒っぽいし、やることなすこと規格外だけど。仕事の確実さと仲間の面倒見の良さは、この街でも一、二なんだから」


彼女の言葉には、アヴェントゥラというチームに対する確かな信頼が込められていた。

俺は一瞬、言葉を失った。

良いチーム、か。


確かに、毎日ボコボコにされて、筋肉痛で体はボロボロだ。

ユミィはメカのことになると周りが見えなくなるし

ラキはひねくれている。

クレティさんは豪快すぎてついていくのが大変だし、

シルヴィアさんは何を考えているか分からない。

それでも、彼らの間にある不思議な信頼感と、強さの裏にある温かさを、俺もこの数日間で少しずつ感じ始めていた。


「俺は、拾われた訳だけど。自分でここにいる事を選んだんだ...と思う」


俺は少し照れくささを隠すように、思ったことをそのまま口にした。

まっすぐな言葉だったが、嘘は一切なかった。


受付の女性は驚いたように少しだけ目を見張り、それから本当に嬉しそうに、本日一番の綺麗な笑顔を咲かせた。


「そう。それは頼もしいね、ヒカリくん」


彼女は手元の書類をクレティさんの方へと滑らせた。


「アヴェントゥラの新メンバーとしての初仕事、期待しているよ」


俺は深く息を吸い込み、クレティさんの手元の書類を覗き込んだ。 そこには、これから向かうべき戦場の名前が、静かに記されていた。


ーーーーーーーーーーーーーー


紙には、赤いインクで殴り書きのような文字が並んでいる。 端には血の跡のような黒黒とした染みも付いていた。

ただの小遣い稼ぎという雰囲気ではない。

俺は顔を上げて、横に立つ大きな男を見た。


「クレティさん、これ緊急って書いてあるけど」


俺がまっすぐに聞くと、彼は大きな手で自分の顎ひげを撫でた。


「ハハハ。バレたか。少し前に情報屋から聞いてな。それで急いで全員を集めたんだ」


クレティさんは悪びれる様子もなく笑う。 紙の束を横から覗き込んだラキが、毒づく。


「なんや、おやっさん。小遣い稼ぎ思たのに、ヤバい案件やないか」


不格好な手書きの地図が記されている。 現在地から少し離れた、海沿いの砂漠地帯。 バツ印がつけられた場所には、採掘場という文字があった。


「ここはツァイト鉱石の採掘現場よ。私たちのマシンの動力、ツァイトモーターの原材料になる特別な金属を掘り出している場所」


ユミィが横から顔を出し、真剣な声で教えてくれた。

その瞳には先ほどまでの穏やかさはなく、メカニックとしての鋭い緊張感が走っている。

ツァイトモーターの材料。 あの砂時計の心臓を作るための特別な金属が、そこにあるということだ。


俺はさらに次の紙をめくった。 そこに描かれていたスケッチを見て、俺は息を呑んだ。

背筋に冷たい汗が伝う。 四本足の巨大な獣。


「中型、ううん大型アルヴィアね。しかも四足歩行のが二体。上空には小型の飛行タイプが十から二十体」


シルヴィアさんが紙を横から見つめ、静かな声で読み上げた。 彼女の顔にもいつもの余裕の笑みはない。


アルヴィア。 それは金属を喰らい、自分自身の装甲や武装を強化していく機械生物の総称だ。

俺が初めてユミィと出会ったあの日、俺たちを襲ってきたのも竜の形をした機械のバケモノだった。

あいつらと同じ種類の群れが、特別な金属の匂いを嗅ぎつけて採掘場を襲っている。


「採掘場の人たちは、別の傭兵隊に護衛を頼んでいたみたいね。でも、その部隊は全滅したと書いてあるわ」


ユミィも紙を覗き込み、読み上げる。

全滅。 その言葉の重みが、腹の底にズシリと響く。 他の傭兵隊すら歯が立たないほどの、圧倒的なバケモノの群れだ。


「ハハハ。そういうことだ。奴らも必死にこのギルドに救援を出した。だが、今この近くにいる連中で、そんな大群を相手にできるチームは他にいない」


クレティさんがカウンターにドンと両手をついた。 受付の女性が小さく頷く。


「ええ。小型とはいえ、戦艦チュラクシスを保有しているアヴェントゥラにしか頼めない緊急事態よ。採掘場の人たちの命がかかっている」


受付の女性の眼差しは真剣そのものだった。 戦艦チュラクシス。 あの巨大な船のことだ。

マシンの輸送と拠点機能を兼ね備えた、俺たちの母艦。

あれを使って砂漠の海を越え、直接現場に乗り込むということだ。


「それでも行くしかないだろ」


俺は口を開いていた。 飾る言葉は思いつかない。

採掘場には人がいて、バケモノに襲われている。

俺たちは戦う力、ソルダールフレームを持っている。 やるべきことは最初から決まっていた。


俺の言葉を聞いて、クレティさんがニヤリと笑った。


「ハハハ。ヒカリ坊の言う通りだ。賭けに出るには最高の舞台だぞ。全員、大急ぎで戻る。チュラクシスを発進させる」


クレティさんの声がギルドの建物全体に響き渡る。


受付の女性が、赤いインクの染み込んだスタンプを書類に強く押し当てた。

ドンという重い音が、ギルドの喧騒を少しだけ切り裂く。 クレティさんがその受領印の押された紙を乱暴に丸め、ポケットに突っ込んだ。


「よし、手続きは終わりだ」


クレティさんが踵を返す。 俺たちもそれに続いて、ギルドの重い木製の扉へ向けて歩き出そうとした。

緊急のブリーフィングを行う必要がある。

一刻も早く基地に戻り、戦艦チュラクシスを発進させなければならない。 焦りが足早なリズムになって床板を鳴らした。


「ラキ、ちょっと待って」


背後から、よく通る声が響いた。 受付の女性がカウンターから身を乗り出している。

俺は足を止め、振り返った。 彼女の視線は俺ではなく、2つ隣を歩いていたラキに向けられていた。


「ラキ。あなた宛に預かり物があるんだ」


ラキが面倒くさそうに振り返る。 ポケットに両手を突っ込んだまま、怪訝な顔でカウンターへ近づいた。


「俺宛やて。借金の取り立てならお断りやで」


受付の女性はクスリと笑い、引き出しから一通の封筒を取り出した。

真っ白ではなく、少し日に焼けたような素朴な紙の封筒だ。 表には不器用な丸っこい字で、ラキの名前が書かれていた。


「こないだの蜂型アルヴィア退治の件だよ。あの村の子供たちから、お礼の手紙が届いているんだ」


その言葉に、ラキの動きがピタリと止まった。 封筒を受け取る手が、微かに宙で迷っている。


「あんな辺境の村から、わざわざギルドの定期便に乗せて送ってきたんだ。大事に読んであげてね」


ラキは無言で封筒を受け取った。 いつもは斜に構えているこいつの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。

耳の先まで真っ赤だ。 居心地が悪そうに視線を泳がせ、封筒を無造作にポケットへねじ込もうとする。


俺は何も言わず、横からじっとその顔を見つめた。

目が合う。 俺は口角を少しだけ上げ、ただ黙って視線を送り続けた。


「なんやねん。見んなや」


ラキが声を荒げて顔を背ける。 その照れ隠しの怒声が、静かなギルドの受付に響いた。


「ハハハ。よくやったな、ラキ坊」


クレティさんの巨大な手が、ラキの背中を勢いよく張り飛ばした。

バァンという破裂音が鳴る。 ラキの体が大きく前にのめり込み、ポケットに入れ損ねた手紙が床に落ちた。


「痛っ。おやっさん、力加減ちゅうもんを知らんのか」


ラキが咳き込みながら手紙を拾い上げる。 そこに、素早い影が二つ忍び寄った。


「ラキ、何て書いてあるの。見せてよ」


ユミィが右側から身を乗り出し、封筒の裏側を覗き込もうとする。 その実直な瞳が、純粋な好奇心で輝いていた。


「あら、可愛い字ね。ラキくん、村の女の子にでも惚れられたの」


左側からは、シルヴィアさんが滑り込むように顔を出した。 余裕のある笑みを浮かべ、封筒の端を指先で軽くつまむ。


「やめろやぁ。関係ないやろ」


ラキが慌てて両手で手紙を隠し、後退りをする。 真っ赤な顔で二人から距離を取ろうとする姿が、どうにも滑稽だった。


「ハハハ。帰りの船の中でゆっくり読ませてもらうとしようぜ。行くぞ」


クレティさんが大声で笑い飛ばし、ギルドの出口へ向かって歩き出す。

俺たちもその後を追った。 ラキだけが、手紙を胸の奥深くにしまい込みながら、ぶつぶつと文句を言いつつ最後尾をついてきた。


ーーーーーーーーーー



太陽が真上から照りつける荒野を急ぎ足で戻る。

俺たちの母艦、小型戦艦チュラクシス。

無骨で鋭角的なフォルムの船だ。 全長はそれほど長くないが、内部には俺たちのマシンを四機以上を格納できるだけの十分なスペースがある。


分厚いハッチを抜け、船内へ足を踏み入れる。

外の熱気が嘘のように、冷やりとした空気が全身を包み込んだ。

機械油の匂いと、微かなオゾンの匂いが鼻を突く。 通路の床に埋め込まれた青い誘導灯が、等間隔に光っていた。

足元から伝わる低い振動が、船の心臓部がすでに目覚めていることを教えてくれる。


俺たちは迷うことなく、船体中央のブリーフィングルームへ向かった。

周囲の壁には、いくつかのモニターが埋め込まれ、複雑なデータが絶え間なく流れていた。


俺とラキは冷たいパイプ椅子に腰を下ろした。

シルヴィアさんは壁に軽く寄りかかり、腕を組んでいる。 ユミィはすでに操作パネルの前に立ち、素早い手つきでコンソールを叩いていた。


「全員揃ったな。早速ブリーフィングを始める」


クレティさんが部屋の入り口に立ち、低い声で宣言した。

彼が部屋の照明を落とす。 ユミィがパネルのボタンを押し込んだ。


一つの立体的な地形図を描き出した。

起伏の激しい砂漠の地帯だ。 すり鉢状になった巨大な窪みの底に、人工的な建造物の影がいくつも並んでいる。


「ここが目的地、ツァイト鉱石の採掘現場よ。現在、通信は完全に途絶しているわ」


ユミィの声が、薄暗い部屋に響いた。 ホログラムの地図上に、赤い光点がいくつも点滅し始める。 その数は尋常ではなかった。


「空に展開しているのが、小型の飛行型アルヴィア。ざっと見て二十体ね」


シルヴィアさんが壁際から静かに状況を分析する。

彼女の言う通り、赤い光点は採掘場の上空を旋回するようだった。


俺は地形図をじっと見つめた。 上空の光点だけではない。

すり鉢状の窪みの縁に、ひときわ大きな赤い光点が二つ、不気味に静止している。


「この二つが、四足歩行の大型アルヴィアだな」


俺は思ったことをそのまま口にした。 真っ直ぐな言葉が、冷たい空気の中に落ちる。


「ええ、そうよ。金属の匂いを嗅ぎつけて、すり鉢の底の採掘場を完全に包囲している状態ね」


ユミィがコンソールを操作し、大型アルヴィアの予想図を空中に投影した。

凶悪な機械の獣だが、俺の記憶にある竜の姿とはだいぶと異なる。


「ハハハ。相手にとって不足はねえ。真っ向から突っ込んで、特大の獲物を狩るぞ」


クレティさんが拳を鳴らし、獰猛な笑みを浮かべた。

ブリーフィングルームの空気が、一気に張り詰める。


ユミィがコンソールを素早く叩く。

空中に浮かぶ赤い光点が拡大され、詳細な立体映像へと切り替わった。

青白い光が形作るのは、四本の太い足を持つ重装甲の獣だ。


まず目に飛び込んできたのは、その頭部だった。

鼻先の部分から、天を衝くような巨大な一本の角が突き出ている。

岩盤すら一撃で粉砕しそうな、分厚く鋭い鋼鉄の角だ。

さらに俺の視線を釘付けにしたのは、機体の後方だった。

本来なら尾があるべき場所に、極太の円筒形の砲身が接続されている。


「尻尾がそのまま巨大な砲門になっているわね」


ユミィが緊張した声で言った。 それだけではない。

獣の広い背中には、無数の小さな砲塔が生え揃っている。 全身が武器の塊だった。


「ハハハ。まるで分厚い鎧を着たサイだな。こいつの呼称はアルヴィア・リノセロスで決まりだ。敵の呼称はリノセロスだ」


クレティさんが腕を組み、面白そうに笑う。

リノセロス。

俺はその名前を頭の中で反芻した。


シルヴィアさんが壁際からゆっくりと歩み寄り、ホログラムの映像を覗き込んだ。

彼女の鋭い視線が、リノセロスの背中をなぞる。


「背中の装甲の隙間を見て。大きな排気口のようなものがあるわ。かなり高熱を発する武装を積んでいる証拠ね」


シルヴィアさんの指摘に、俺も目を凝らす。

確かに、首の後ろから背中にかけて放熱フィンがあった。 青白い光の中でも、その構造の複雑さがはっきりと見て取れる。


「おそらく、尻尾の巨大砲門だけじゃないわね。口からも高出力のビームを撃ってくる可能性があるわ。

口と尻尾はビーム兵器。背中の小型砲門は実弾をばら撒くタイプだと予想するわ」


シルヴィアさんが静かな声で分析を終える。

口と尻尾からビーム。 背中から無数の実弾。 正面から突っ込めば蜂の巣にされるか、消し炭にされるかのどちらかだ。


「どうする。こんな化物二体と、空飛ぶおまけが二十体や。まともにやり合ったら一瞬で鉄屑やで」


ラキがパイプ椅子に深く背中を預け、忌々しそうに天井を仰いだ。


「上から一気に急降下して、弾を全部撃ち込むんはどうや」


「ダメよ。上空には小型の飛行竜が二十体もいるの。私たちが空から近づけば、一斉に群がられてマシンの関節を食いちぎられるわ」


ラキの提案を、ユミィが即座に否定する。

小型とはいえ、相手は金属を食う機械生物だ。 空中で囲まれれば逃げ場はない。


「なら、俺が先に飛んでるやつらを片付ける。地上スレスレを走って気を引くから、その間に背後からリノセロスを叩いてくれ」


俺は地形図を指差して言った。

囮なら俺の機体でもできるはずだ。 だが、クレティさんが首を横に振った。


「却下だ、ヒカリ坊。リノセロスはすり鉢状の採掘場の縁に陣取っている。お前が下でチョロチョロ動けば、奴らにとっては最高の的だ」


地形図を見ると、二体のリノセロスは巨大なクレーターの対角線上に配置されていた。

上空には飛行竜の群れ。 地上には十字砲火を放つ巨大なサイ。


「つまり、空と地上から完全に挟み撃ちにされる位置取りってことね。このまま突っ込めば、確実に私たちがすりつぶされるわ」


シルヴィアさんが顎に手を当てて呟いた。

重い沈黙がブリーフィングルームに降りた。

船のエンジンの低い振動音だけが、足元から伝わってくる。 挟み撃ちにされたらどうしようもない。 俺たちは互いの顔を見合わせた。


「ハハハ。簡単なことだ。挟まれるのが嫌なら、引き剥がせばいい」


クレティさんの大声が沈黙を破った。 分厚い手で、ホログラムを力強く叩く。


「引き剥がすって、どうやって」


ユミィが目を丸くして尋ねる。


「奴らの連携を崩すんだよ。二体のリノセロスを同時に相手にするから手詰まりになる。空の飛行竜も同じだ。敵の戦力を完全に分断するんだ」


分断。 同時に全てを相手にする必要はない。 一体ずつ引き離し、各個撃破していく。


「リノセロスを二手に引き裂くってことか」


俺が身を乗り出すと、クレティさんがニヤリと笑って頷いた。


二匹の分断。 そして小型竜との分断。 それが俺たちが生き残るための唯一の解答だった。

それぞれの役割が明確になりつつあり、部屋の空気が再び熱を帯び始める。 俺はきつく拳を握りしめ、青白く光るホログラムの戦場を睨みつけた。


パン、という鋭い破裂音がブリーフィングルームに響き渡る。

クレティさんが巨大な両手を強く打ち合わせた音だった。 部屋の空気が一瞬で引き締まる。

俺たちはホログラムから顔を上げ、彼の方へ一斉に視線を向けた。


「ハハハ。方針は決まったな。ここからは各自の役割を伝える」


クレティさんの低い声が、船のエンジンの振動と混ざり合って腹の底に響く。 彼は青白い光を放つ地形図を指差した。


「まず大前提だ。すり鉢の底にある採掘現場の作業員たちは、現在も生きていると仮定する」


その言葉を聞いて、俺の背筋に冷たいものが走った。

生存者がいる。

その事実が、作戦の前提を根底から覆すことに気付いたからだ。

もし作業員が全員死んでいて、生存者がゼロだとすれば話は単純だ。 戦艦チュラクシスの主砲で、採掘場ごとバケモノたちを吹き飛ばせばいい。


だが、人が生きているのなら無差別な爆撃はできない。

こちらから攻撃を仕掛け、リノセロスの注意を採掘場から完全に引き剥がす必要がある。

少しでも敵の射線が作業員たちに向かえば、その瞬間に取り返しのつかない大惨事になる。

俺たちの動き一つに、見知らぬ誰かの命が懸かっているのだ。 掌にじわりと嫌な汗が滲んだ。


「ユミィには最速でウィリディチの修理と調整を頼む」


クレティさんがパネルを操作するユミィを見る。

緑色の巨体、ウィリディチ。 修理中のクレティさんの専用機だ。


「了解よ、クレティさん。すぐにとりかかるわ」


ユミィが実直な声で即答した。 彼女の顔に迷いはない。


「徹夜の作業になるかもしれないが、頼めるか」


「平気よ。こういうこともあろうかと、栄養ドリンクは大量に買い込んであるからね」


ユミィがドンと自分の胸を叩く。

彼女の作業着のポケットから、ドリンクのガラス瓶がカチャリと小さな音を立てた。 甘ったるい薬品のような匂いが、少しだけ空気に混ざる。

彼女のその頼もしい返答に、俺は少しだけ肩の力が抜けた。


「次はシルヴィアだ」


クレティさんが壁際に立つ金髪の女性に視線を移す。


「お前は一人で先行して、現場の斥候を頼む。上空を飛んでいる小型のアルヴィアを見つけ次第、可能な限り落としてくれ」


シルヴィアさんは壁から背中を離し、静かに頷いた。


「わかったわ、クレティさん。空の掃除ね」


「それから、もし採掘場の作業員とコンタクトが取れたら、状況の確認と情報収集も頼む」


「任せて。音も立てずに潜り込んで、正確な情報を拾ってくるわ」


シルヴィアさんの口調には一切の力みがない。

飄々とした態度のまま、彼女はホログラムの光点を冷たい目で見つめていた。

彼女の機体は、高機動と隠密性に特化している。 この過酷な任務を一人でこなせるのは、彼女しかいない。


「さて、最後はお前ら二人だ」


クレティさんがゆっくりと振り返り、俺とラキを順番に見た。

その顔には、獰猛で楽しそうな笑みがべったりと張り付いている。

俺は嫌な予感がして、身を硬くした。 横に座るラキも、顔をしかめている。


「俺たちは何をすればええんや。」


クレティさんが太い腕を組み、仁王立ちになった。

「ハハハ。お前らは俺と一緒に特訓だ」

「今の動きじゃ、マシンの足元のペダルを踏み込む前に潰される。だから、今から俺がリノセロスの代わりになってやる」


俺の頭の中で、先日の生身の組み手の記憶が蘇った。


「リノセロスを引きつけられないと、この作戦は確実に失敗する。作業員も俺たちも全滅だ。

だから、大型アルヴィアとの戦い方を徹底的に動きを叩き込んでやる」


クレティさんの声から笑い声が消えていた。

その目は真剣そのものだ。 俺は唾を飲み込み、両手できつく拳を握った。


機体の腕を動かす左右の操縦桿。 機体を走らせる足元のペダル。 その全ては、俺自身の身体の動きと直結している。

目の前の巨大な壁であるクレティさんを躱せなければ、本物の巨獣の突進を避けることなど絶対にできない。


「わかった。やってやるよ」


俺たちが真っ直ぐに見据えて言うと、クレティさんは再び豪快に笑った。


「いい返事だ、ヒカリ坊。ラキ坊」


船内の冷たい金属の床を歩きながら、迫り来る痛みの予感に、俺の心臓はすでに早鐘を打ち始めていた。


「よしっ」

「作戦開始は2日後の23時だ」


クレティさんの低く通る声が、ブリーフィングルームの空気を震わせた。


「シルヴィア。お前は今すぐ出発してくれ」


「了解よ、クレティさん。すぐに向かうわ」


シルヴィアさんは壁から背中を離し、迷いなく頷いた。

そのやり取りは、あまりにも淀みがなかった。

俺は巨大な男の顔をじっと見つめた。 いつも大口を開けて笑い、俺たちを木の棒で殴り飛ばす豪快なオッサン。

だが、今の彼は全く違う。


現場の状況を瞬時に分析し、生存者の可能性を考慮し、最善の分断作戦を組み立てた。

それぞれの適性を見極め、一切の無駄なく的確な指示を飛ばす。

すごい指揮力だ。

腹の底から湧き上がるような畏敬の念を、俺ははっきりと感じていた。 命を預けるに足る、本物の指揮官の背中がそこにあった。


「よし、解散だ。各自持ち場につけ」


クレティさんの号令で、俺たちは一斉に動き出した。

しかしまず目指すは船の巨大な格納庫だ。 まずはシルヴィアさんの出撃を見送らなければならない。


ーーーーーーーーーーーーー


重い金属の扉を抜け、格納庫へ足を踏み入れる。

ひんやりとした空気が肌を撫でた。 むせ返るような機械油の匂いと、金属が焼けるような特有の匂いが混ざり合っている。

薄暗い空間の奥で、3機のソルダールフレームと修理中の1機が静かに眠っていた。


シルヴィアさんが自分の機体へ向かって真っ直ぐに歩いていく。

俺とラキ、そしてクレティさんもその後を追った。


「あれが、私のフラウスレイよ」


シルヴィアさんが足を止め、機体を見上げて言った。

フラウスレイ。

俺はその名前を心の中で繰り返しながら、黄色と黒の機体を隅々まで観察した。


俺やラキの乗る無骨な機体とは、根本的に造りが違う。

どこまでも細身で、無駄な装甲が一切削ぎ落とされていた。

機体の色は、闇に沈むような艶のない漆黒がベースになっている。 その上に、くすんだ黄金色の装甲が装飾のように配置されていた。


最も目を引くのは、関節や腹部の構造だ。

分厚い鉄板の代わりに、銀色の細かい網目状の素材が使われている。

古い時代の戦士が身につけていた鎖帷子を思わせる、不気味なほどの柔軟さがあった。

どんなに激しく動いても、金属同士が擦れる音を一切立てないための工夫に見える。


顔の造形も異質だった。

目を保護するメインカメラらしきものが見当たらない。

顔の上半分を、分厚く滑らかな漆黒のバイザーがすっぽりと覆い隠している。

表情を完全に消し去った、冷酷な仮面だ。

頭部の両脇からは、空気抵抗を逃がすように後方へ鋭く伸びる金色の角がついていた。

風を切り裂き、音もなく背後へ忍び寄るための完璧な流線型だ。


両太ももの外側には、バイクのマフラーのような短い円筒形のパーツが備わっている。

スラスターのようだが、火を吹くというよりは、圧縮した空気を一気に噴出して瞬間的な瞬発力を生み出す機構に違いない。

足先は鋭い刃物のように尖っていた。 足音を極限まで殺し、つま先だけでどんな悪路でも音もなく駆け抜けるための形状だ。


その機体は、黄色という派手な色合いでありながら、なぜか暗闇に溶け込むような錯覚を覚えさせた。

気配を消し、影から影へと渡り歩く。 そんな闇夜に生きる者の凄みが、全身から立ち上っている。


フラウスレイの横には、機体に装備させるための専用武器が並んでいる。


巨大な剣でも、重い銃器でもない。 それは真っ黒な刃を持つ、先端が鋭く尖ったクナイという名の短剣だった。

持ち手の部分は鈍く光る銀色の円筒形で、細かい滑り止めが刻まれている。

特徴的なのは、柄の底に菱形の大きな輪がついていることだ。

シュミレーターでは、シルヴィアさんはマシンの指をその輪に引っ掛け、逆手で構えていた。

そして、気配を殺して敵の懐に潜り込み、装甲の隙間へ正確にその黒い刃を突き立てる。

あるいは、遠距離から音もなく投擲して敵の急所を貫く。


完全に暗殺に特化した、恐るべき武器だった。


「どう。かっこいいでしょ」


シルヴィアさんが振り返り、俺たちに向かってウインクをした。 その飄々とした態度はいつも通りだ。


「2人とも、しっかりしごかれなさいね。」


シルヴィアさんは昇降用のワイヤーを掴み、軽やかな動作でコクピットへと上がっていった。

胸部のハッチが開き、彼女の姿が機体の中に吸い込まれる。 分厚い装甲が閉じる重い音が、格納庫に響いた。


数秒後。 フラウスレイの目に、光のラインが走った。

低い起動音が鳴る。 だが、その音は驚くほど小さかった。

巨大な機械が目覚めたというのに、床を伝う振動すらほとんど感じない。


フラウスレイがゆっくりと歩き出す。

銀色の網目状の関節が滑らかに動き、尖った足先が床を捉える。

本当に足音がしない。 巨大な鉄の塊が動いているのに、まるで幻を見ているようだった。


格納庫の天井に吊るされた巨大なランプが、じりじりと低い音を立てて光を放っている。

その不気味な光の下で、フラウスレイのハッチが完全に閉ざされた。

金属同士が噛み合う、重く冷たい音が響き渡る。

カシャリ、という厳重なロックの音がその後に続いた。

それだけで、シルヴィアさんが存在する世界と、俺たちの世界が完全に切り離されたような感覚に陥る。


俺は無意識のうちに、格納庫の壁に取り付けられたモニターへと視線を移していた。

モニターには、フラウスレイの暗いコクピットの内部が映し出されている。

狭く、しかし洗練された機体の内部。

シルヴィアさんの細い体が、シートベルトによって深く固定されている。


彼女の表情は、先ほどまでの飄々としたお姉さんのものとは全く異なっていた。

冷徹で、寸分の迷いもない、鋭利な刃物のような横顔。

その細い指先が、左右に配置された黒い操縦桿を静かに、しかし深く握りしめる。


頭上のスピーカーから、チリチリとしたノイズが流れた。 続いて、耳を突き刺すような静かな声が、格納庫全体に響き渡る。


「アヴェン3。フラウスレイ。シルヴィア。」


その一言だった。

短く、飾り気のない、しかしあまりにも重い言葉。

そこには一切の私情も、油断も、不安も含まれていない。

数々の死線を越えてきた者だけが持つ、絶対的な意思が宿っていた。

俺の背筋を、冷たい衝撃が駆け抜ける。 これが本物の傭兵の、本物の戦闘開始の合図なのだ。


コックピット内のシルヴィアさんが、瞳を鋭く光らせたように見えた。

彼女の手首が僅かに動き、左右の操縦桿が手前に引かれる。 同時に、足元のペダルが奥へと押し込まれた。


管制卓に座るユミィの声が、インターホンを通じて響いた。

彼女のいつもの明るく無邪気な声は、そこにはなかった。

艦長代理としてのプロフェッショナルの声だ。

ユミィはコンソールの目の前に並ぶ、いくつものスイッチを次々と押し下げていく。 そのたびに、カチャカチャという乾いた音が響いた。


「ツァイトモーター正常。圧力正常。オールグリーン」

「システムオールグリーン。カタパルト接続、最終固定解除」


ユミィがコンソールの中央にある、一際大きな黒いレバーを両手でしっかりと握りしめた。

彼女の小さな肩に、ぐっと力が込もる。


「フラウスレイ射出!」


ユミィが叫ぶと同時に、レバーが勢いよく前方へと押し倒された。


凄まじい風圧が、格納庫の中に吹き荒れた。

ハッチの奥に備え付けられた巨大なレールが、青白いプラズマの火花を激しく散らす。

キィィィン、という鼓膜を破壊するような金属の悲鳴が空気を震わせた。


爆発的な速度だった。

黄色の機体は、一瞬にして俺たちの目の前から消え去った。

射出口の狭い隙間をすり抜け、外の深い闇へと吸い込まれていく。

その動きには、一瞬の澱みも、狂いもなかった。


あまりにも見事な出撃だった。

これだけの爆発的な加速を行いながら、機体はブレ一つ起こしていない。

空中での姿勢制御も、まるで最初からそこに道が存在していたかのように自然だった。

紛れもなく、プロの動きだ。

体の一部として機体を支配する技術。 鳥肌が全身に立ち、皮膚が粟立つのを感じた。


これが、アヴェントゥラ。

これが、本物のソルダールフレーム乗りの傭兵たちの戦いなのだ。

暗闇の彼方へ、黄金の残光だけを残して消えていったその機体を、俺は瞬きすら忘れて見つめていた。


「すげえな」


ぽつりと、思ったことがそのまま口から漏れ出た。

飾らない、俺の本心だった。 あそこまでの高みがある。 あんな風に、機体を完全に自分の手足として操り、闇の中を自在に駆けることができるのだ。


それに比べて、今の俺はどうだ。 毎日泥にまみれ、クレティさんの木の槍一本に翻弄され、地面をのたうち回っている。

まだ何もできていない。 ルベルジンの真の力を引き出すことすら、できていない。


負けていられない。 胸の奥から、言葉にできない熱い感情が湧き上がってきた。

その熱は、心臓の鼓動を急激に速め、全身の血を沸騰させるように熱くした。

悔しさと、憧れと、そして何よりも強い闘志が、俺の中で一つの巨大な炎となって燃え盛る。


ふと、右隣に気配を感じた。 俺は横を向いた。 そこには、ラキが立っていた。


こいつもまた、フラウスレイが消えていった暗闇をじっと見つめていた。

いつもはニヒルな薄笑いを浮かべているこいつの顔から、一切の余裕が消え失せていた。

その目は、飢えた獣のようにぎらぎらと鋭く光っている。 顎のラインがきつく強張っており、噛み締められた奥歯の音がこちらまで聞こえてきそうだった。


ポケットに突っ込まれたこいつの両手が、布越しでも分かるほどに固く握りしめられている。


俺と同じだ。

こいつもまた、今の自分の無力さに歯噛みし、同時にあの圧倒的なプロの技術に魂を揺さぶられているのだ。

言葉を交わす必要はなかった。 横顔を見るだけで、こいつが俺と全く同じ熱を胸に宿していることが痛いほどに伝わってきた。


「ハハハ。いい目をするようになったじゃねえか、お前ら」


背後から、地響きのような声が聞こえた。 クレティさんだ。

彼はいつの間にか、特訓用の太い木の棒を肩に担ぎ、俺たちのすぐ後ろに立っていた。 その巨大な影が、俺とラキをすっぽりと覆い隠す。


彼の顔には、先ほどまでの指揮官としての冷徹さはなかった。

いつもの、豪放磊落で、賭け事が大好きな、獰猛なオッサンの笑みが戻っている。

だが、その瞳の奥には、俺たちの覚悟を試すような鋭い光が宿っていた。


俺は振り返り、クレティさんの目をまっすぐに見据えた。

恐怖も、躊躇いも、今の俺には一切なかった。 ただ強くなりたい。 あのバケモノを倒し、仲間を護りたい。


「フン。あんなん見せられたら、ダサい動きはできへんからな」


ラキもまた、ニヤリと不敵な笑みを取り戻しながら、髪を乱暴にかき上げた。 口調は軽い。

だが、その瞳に宿る熱は、先ほどよりもさらに激しく燃え上がっていた。


「ハハハ。よし、来い。夜が明けるまで付き合ってやる。死ぬ気でついてきやがれ」


クレティさんが太い木の棒を構え、地面を強く踏みしめた。

彼の体から、圧倒的な質量を伴った闘気が膨れ上がる。


「行くぞ」


俺はラキに声をかけた。


「言われんでもわかっとるわ。」


ラキが鋭く地を蹴る。 俺も同時に、足元に全身の力を込めて固い地面を強く蹴り出した。


オレンジ色のランプに照らされた格納庫の隅で、俺たちの影が交錯する。

目の前の巨大な壁に向かって、俺たちはただひたすらに、力強く走り出した。


砂の海の向こうに待つ本物の戦場へ向けて、俺たちの熱い夜が、今、再び始まろうとしていた。

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