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第97話:清掃の跡 —— 境界線の惨状

「……やっぱり、田中がいないと捗るな」

草原の少しだけ草深い場所。ザックは手際よく角ウサギを仕留め、満足げに鼻を鳴らした。

ミアもニコも、田中の「小言」がない解放感を噛み締めるように、順調に獲物を積み上げていく。彼らはまだ、自分たちの手に負える「浅瀬」で、昨日の延長線上にある成功を楽しんでいた。

「もう少しだけ奥に行ってみない? 今日は調子がいいし、僕らならもっといけるよ」

ニコの提案に、二人が頷く。少しだけ、田中が「絶対に入るな」と厳命していた森の境界線に近づいてみることにした。

だが、その境界を越えた瞬間に、三人は言葉を失い、足を止めた。

「……なんだ、これ」

そこにあったのは、凄惨という言葉すら生温い光景だった。

草原の覇者の一角、大牙狼グレートウルフが、まるで精密機械で断裁されたかのように、首と胴体が綺麗に泣き別れになって転がっていたのだ。

「……切り口が、真っ平らだ。……剣じゃない。斧でもない。何だこれ」

ミアが震える指でその断面に触れる。血が滴る暇さえ与えず、一瞬で「切断」された形跡。

奥へ進むほど、その残骸は増えていった。一体や二体ではない。十体、二十体。それも、奥へ行けば行くほど、魔物のランクは上がっていく。

「……おい、誰かがここで戦ってるのか?」

「こんなことできる奴……ギルドのトップランクでも無理だよ……」

恐怖と好奇心に突き動かされ、三人は吸い寄せられるように死骸の列を辿っていった。

そして、さらに深い森の入り口で、彼らは「それ」を見た。

「……ええい、どこにおるんや! あのガキども、返事くらいせえ!」

苛立った声と共に、指先から放たれる目に見えぬほど細い「水の糸」。

襲いかかろうとした、この森に一体しかいないはずの「森の主」――巨大なフォレストベアが、その糸が触れた瞬間に、抵抗する間もなく首を跳ね飛ばされた。

それだけではない。周囲には、同じく「主」クラスの魔物たちが、まるで掃除のついでに片付けられたゴミのように、無造作に首をチョンパされて転がっている。

「……た、田中……?」

ザックの口から、乾いた声が漏れた。

自分たちが「後ろで見てるだけ」と蔑んでいた男が、指先一つで、森の主をバターのように切り裂いている。その足元には、もはや数えるのも馬鹿らしいほどの高位魔物の死骸が、ただの「素材の山」として放置されていた。

「……帰ろう。……田中が見つかる前に、早く帰ろう」

ミアが顔を引きつらせて囁く。

もし、今の自分たちの「反抗」を知ったこの男が、その指先を自分たちに向けたら。

想像しただけで、三人の顎は完全に外れ、震える膝を必死に動かして、這うようにしてボロ屋へと逃げ帰った。

一方で、田中は一人、暮れなずむ森の中で盛大に毒づいていた。

「……おかしいな。どこにもおらん。……あのアホんだらども、もしかして、違う狩場に行ったんか?」

周囲は文字通り「魔物の墓場」だった。

すべて持ち帰れば金貨100枚は下らない価値があるが、田中の頭には今、市場価値のことなど微塵もなかった。あるのは、行方のわからない「手のかかるガキども」への、心配と苛立ちが混ざり合った感情だけだ。

「……ったく、手間かけさせおって。……暗くなる前に、一旦戻るか」

金貨の山には一瞥もくれず、田中は空の手で、静まり返った森を後にした。

魔物相手には無敵の力を振るう彼だが、子供たちは知らない。

彼がこれほどまでに「暴力」に長けているのは、かつて事務手違いで放り込まれた、地獄のようなブートキャンプの賜物であることを。

そして、その過酷な経験ゆえに、彼は「対人」に対して、魔物相手とは正反対の拭いきれない苦手意識を抱えていることを。

田中は一人、重い足取りでボロ屋へと向かった。

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