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第95話:不機嫌な行軍 —— 膨張する不信

翌朝、ボロ屋を出発する際、一行を包んでいたのは「気まずさ」を通り越した、冷ややかな緊張感だった。ザックたちは田中を置いていくことはしなかったが、会話は完全に絶たれた。指示を聞く耳も持たず、ただ義務的に、田中を「後ろに伴って」草原へ向かう。

「……ザック、深追いするな。その奥は風の通りが悪い。魔物の臭いが消えとるぞ。待ち伏せの可能性がある」

田中の言葉に、ザックは足を止めず、露骨に舌打ちをしてみせた。

「……ふん。昨日もそう言って、俺たちが獲り逃した獲物がどれだけいたか覚えてるか? 田中、あんたは慎重なんじゃなくて、ただ怖いだけなんだ。自分が戦えないから、俺たちのチャンスを潰してまで安全を確保したがってる」

ザックが目の前のウサギを瞬時に仕留める。一撃だ。横ではニコが、素早い身のこなしで別の獲物を追い込み、鮮やかなナイフ捌きでトドメを刺した。二人とも、田中の指示を待つまでもなく、自分たちの判断で完璧に動いているように見えた。

「……ほら、見ろよ。あんたが『危ない』って言った場所でも、俺たちは楽勝だ。……結局、あんたの言う『リスク管理』なんて、俺たちが稼いだ金を楽して手に入れるための口実なんだよ。自分は安全な場所で指図だけして、俺たちが泥にまみれて稼いだ銀貨を四分の一も持っていく……。そんな商売がいつまでも続くと思うなよ」

ミアも無言で獲物を解体しながら、田中に一瞥もくれない。彼女たちの手つきは洗練され、もはや田中の「検品」など必要ないと言わんばかりの正確さだった。

「……なるほど。お前らの目には、俺が『リスク』を盾にピンハネしとるように見えるわけや。ええか、俺のやり方は変えん。これが『タナカ』という組織のコンプライアンスや。安全をコストカットするような奴に、商売(狩り)をさせるわけにはいかんからな。不満があるなら、それは『実力』で示すんやなくて、まずは『契約』の場で見せるもんやぞ」

田中のその淡々とした、どこか突き放すようなビジネスライクな言い方が、ザックの逆鱗に触れた。

「コンプライアンスだぁ? わけのわかんねぇ言葉で煙に巻くなよ! あんたが勝手に決めたルールだろ? それも、自分に一番都合がいいようにな。……俺たちはもう、あんたの顔色を窺って、あんたの恐怖心に付き合って狩りをするのには飽き飽きしてんだ。俺たちの足を引っ張らないでくれ」

銀貨が積み上がり、生活に余裕ができるほど、彼らの中の「田中」という存在は、重荷コストとして肥大化していった。かつての命の恩人は、今や「利益を阻害する古い規律」へと成り下がっていた。

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