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第94話:鉄の証明と、静かに歪む天秤

冒険者ギルドの喧騒の中、カウンターに鈍い光を放つ四枚の鉄板が並んだ。「アイアンランク」への昇級。それはスラムの泥を啜り、ドブ板の上で震えていた子供たちにとって、人生で初めて手にした「社会的な信用」の証だった。昨日までは「ただのガキ」だった彼らが、今は「鉄の冒険者」として、ギルドの保証を受ける身分になったのだ。

「……っしゃあ! 見ろよ、俺たちもこれで『新人』卒業だ!」

ザックが汗の染みた拳を固く握り、真新しいプレートをこれ見よがしに掲げる。その横で、ミアは鋭いナイフの重みを確かめるように深く頷いた。彼女のナイフ捌きはこの一ヶ月で劇的に進歩し、獲物の急所を寸分の狂いなく貫く。特筆すべきはニコだった。一ヶ月前は薬草の知識だけで重宝されていた少年は、今や身軽さを活かした狩りの才能を開花させていた。獲物の動きを先読みし、急所を射抜く精度は、もはやザックやミアをも凌駕する勢いにある。

「おめでとう。現場の積み重ねが数字になったな。ええ仕事やった」

背後から声をかけた田中は、いつものように穏やかな笑みを浮かべていた。しかし、その祝いの言葉は、今の彼らの耳にはどこか「現場を知らない重役からの退屈な訓示」のように響き始めていた。

その夜、雨漏りのするボロ屋での報酬精算。焚き火が爆ぜる音だけが響く中、田中はいつものように銀貨を四つの山に分けていく。正確に、平等に、四等分。一ヶ月前なら誰もが拝むように受け取ったその光景を、ザックは射抜くような目で見つめていた。

「……田中。いい加減、この配分はおかしくないか?」

ザックの声は低く、そして明確な敵意を孕んでいた。

「……何がや?」

「何が、だと? あんた、自分の足元を見てみろよ。今日も一日、一滴の返り血も浴びてない。泥一つついてないじゃないか。俺たちは今日、ランクアップしたんだ。ギルドが俺たちの『実力』を正式に認めたんだよ。……なのに、後ろで見守ってる(ポーズをしてる)だけのあんたに、なんで俺たちと同じだけの分け前がいくんだよ」

田中は手を止め、ザックを静かに見つめ返した。

「……俺の役割は、お前らの安全確保と、現場全体のマネジメントや。不可視のコストを払ってリスクを管理しとる。それが機能しとるからこそ、お前らは怪我一つなく、効率よく稼げたんやぞ」

「マネジメントだぁ? そんなの、ただ後ろに突っ立って『あっちに行け』だの『深追いするな』だの言ってるだけだろ! 実際、魔物の息の根を止めているのは俺たちだ。ニコだって、今じゃあんたよりよっぽど動ける。……結局、あんたは『リスク』だの何だのと言い訳して、俺たちが必死に稼いだ分を、あんたが楽して掠め取ってるだけだろ。……分け前を減らされたくないから、もっともらしい理屈を並べてるだけにしか見えねえんだ」

ザックの瞳には、かつての尊敬の欠片もなかった。あったのは、自分たちの利益を不当に吸い上げていく「働かない大人」に対する、剥き出しの苛立ちだった。ミアも、ニコも、田中の味方をすることはなかった。彼らの沈黙は、ザックの言葉への何より強い肯定だった。

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