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【第88話:換金 —— 泥の中の交渉(ディール)】

「……ここや。ザック、お前らは外で待っとけ。……余計な口を利くなよ」


田中は店に入る直前、再度、自分の手と商品の部品を魔力の水で磨き上げた。 指先に残るわずかな魔力を使い切り、金属の光沢を最大限に引き出す。22歳のイケメンの顔(作画:美麗)には、下水の泥など微塵も残っていない。


「……また来たのか。……今度は何を拾い、何を『磨いて』持ってきた、若造め」


カウンターの奥から、相変わらず不機嫌そうな老人の声が響く。老人の鼻が、微かに動いた。魔力の水で洗っても、完全に消し去れない下水の湿った「気配」を、海千山千の嗅覚が捉えたらしい。だが、老人の目は、田中の「若さ」には不釣り合いな、その「落ち着き」を鋭く観察していた。


田中は何も言わず、まずは銀のフォークやバックルを置いた。老人は一瞥もしない。


だが、田中が最後に出した、あの「真鍮の円筒」を置いた瞬間、老人の濁った目が鋭く細められた。


「……ほう。この精巧な溝、そして埋め込まれた魔石の色……。……どこから流れてきたものか、察しはつくがな」


出所ソースを聞かんのが、あんたの流儀ルールやろ。……ただ、この『スレッド(溝)』の細かさと、この金属の合わせ目を見てみ。……こんなもん、並の職人が作れる代物やない。どこぞのデカい『魔導仕掛け』の、肝心要の部品やないか? これが一個欠けただけで、金持ち連中の便利な暮らしは止まるはずや」


田中は、22歳の爽やかなイケメンの顔で、ハッタリを混ぜつつ、その部品が持つ「工業製品としての格」を説く。中身は51歳の商社マン。用途の詳細は分からずとも、「替えが利かない高価なもの」であることだけは、商売人の直感が確信させていた。


「……チッ、相変わらず口の減らねえ男だ。……銀貨10枚。それ以上は出さねえ。足がついたら俺の首が飛ぶからな」


老人は、田中の「若さ」よりも、その「商売の嗅覚」の方を高く評価した。


(……10枚。ザックたちの三ヶ月分の稼ぎや。だが、ここは『商社』の引き際が肝心や……)


「……銀貨12枚や。……このフォークとバックルも付けてやる。……お互い、リスクに見合った利益マージンを取ろうや。……これ以上は、別の店(競合)に持っていくぞ」


重苦しい沈黙。老人は鼻を鳴らし、汚れた革袋から銀貨をカウンターに叩きつけた。


「……持ってけ、欲張りな若造め」


「……まいど。ええ取引ディールやったな」


田中は銀貨の重みを確かめ、店を後にした。外では、空腹で腹を鳴らしたザックたちが、今か今かと待ち構えている。

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