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【第76話:社畜のメンテナンス —— 22歳の肉体、51歳の悲鳴】

(……あ、あかん……。これ……労災下りるレベルや……。いや、労災以前に、生命維持装置(魔力回路)がショートしとる……)

夕暮れのスラム。ゴミ拾いを終え、隠れ家に戻った田中は、泥の上に崩れ落ちた。

22歳の肉体は、爆発から一日足らずで「表面的な傷」こそ塞ぎつつあるが、中身はボロボロだ。首を動かすたびに、あの呪いの首輪が吹き飛んだ際の衝撃が蘇り、焼けた肉が引きつるような激痛が走る。

「……兄ちゃん、顔色が真っ青だぜ? 首の火傷……まだグズグズ言ってるな」

カイが、焚き火の微かな光で田中を覗き込む。

田中の首には、「セレスが無理やり外そうとして暴走した、あの首輪」の爆発による、一周回った火傷の跡が生々しく残っていた。皮膚は赤黒く盛り上がり、一部は化膿して熱を持っている。

(……セレス様……。……あんな……『ちょっと外してみよう』みたいなノリで……。……こっちは……死にかけた……んやで……)

セレス様に悪気がなかったのは分かっている。むしろ彼女なりに「解放」しようとしたのかもしれない。だが、結果として田中の首はあわや消し飛ぶところだった。あの時の「死の直感」と、彼女の驚愕した顔が脳裏に焼き付いて離れない。

(……これ……『水』で冷やす……だけでも……。……でも……魔力が……スッカラカンや……)

田中は、自分の指先に意識を集中させた。帝国軍の砦で、何百人もの兵士に熱湯を供給させられていた過酷な日々。その蓄積疲労が、今、ボロボロの回路に牙を向いている。

「……う、……ぐ……。……出ろ……向こう……行って……くれ……」

ポタ。……ポタッ。

指先から滴ったのは、水ではなく、濁った血の混じった魔力の雫だった。

「……あ、あかん……。完全に……エンジンブローや……」

51歳の社畜は知っている。限界を超えて稼働させ続けた機械が、ある日突然、一切の入力を受け付けなくなる瞬間を。今の彼の肉体は、まさにそれだ。

「……おい、これ塗れよ。……ゴミ山で見つけた『薬』の残りカスだ。誰かが使い切って捨てたやつだけど、底にこびりついてる」

カイが、中身の干からびた薬瓶を差し出す。田中はそれを指で掬い、自分の首筋に塗り込んだ。

ヒリヒリとした激痛が走り、22歳の若い神経が悲鳴を上げる。

「……痛っ……!! ……あ、あぁ……!! ……死ぬ……これ、塩入ってへんか……?」

「我慢しろよ。スラムじゃ、これが唯一の『薬』なんだよ」

悶絶する田中。

屈強な22歳の青年が小さな子供に介抱されながら転げ回っているという、情けない光景。

だが、中身が51歳だろうがなんだろうが、痛いものは痛い。

(……なんで……俺……こんな目に……。……帝国軍で……こき使われて……セレス様に……首を飛ばされかけて……。……ようやく……逃げてきたのに……)

全裸に近い体に、汚れたボロ布を巻き付けただけの姿。

首には、自由と引き換えに負った「死線を超えた証(火傷)」。

そして、魔力は枯渇し、胃袋は空。

田中は、ルウが分けてくれた「焦げたパンの耳」を、涙でふやかしながら口に運んだ。

22歳の強靭な顎が、石のように硬いパンを噛み砕くたびに、51歳の精神に「生きてやる」という泥臭い執念が灯る。

(……耐えろ……。……死んだふりまでして……掴んだ自由や……。……この地獄を……生き延びて……今度こそ……穏やかな……隠居生活を……!)

自由の味は、まだ鉄と泥、そして「もう二度とあんな怖い思いは嫌や」という切実な願いの味がしていた。

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