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【第74話:廃棄処分の夜 —— スラムのゴミ山、拾う神あり?】

(……動くな……。……まだ……動いたら……あかん……。……今は……自分が……『産業廃棄物』やと……思い込め……)

真っ暗な麻袋の中。田中は、自分の呼吸音すら殺して、必死に「死体」を演じ続けていた。

爆発の衝撃で、22歳の肉体はボロボロだ。だが、中身は51歳の熟年社畜。かつて、無理難題を押し付ける上司の前で「責任の所在が曖昧になるまで気配を消す」ことで生き残ってきた男の忍耐力は、今、極限の生存戦略として機能していた。

「……ひ、……ひぃぃ、重い……! 衛兵に見つかったら終わりだ……!」

袋の外から聞こえる、奴隷商の老人の震える声。ガタゴトと、粗末な荷車が石畳を跳ねるたびに、田中の体に激痛が走る。

(……耐えろ……。これ……無料で運んでもらえる『深夜タクシー』や……)

辿り着いたのは、王都の城壁外に広がるスラム街の端。不法投棄されたガラクタと生ゴミが山をなす、異臭漂う暗がりに荷車が止まった。

「……ここなら……誰も見向きもしない。……すまんよ、あんた。運がなかったと思ってくれ……」

奴隷商の短い呟きと共に、田中の体は袋ごと宙を舞った。

ドスッ。

湿った生ゴミの山に叩きつけられる衝撃。荷車が、追い立てられるように急いで走り去っていく音が聞こえなくなるまで、田中は袋の中でじっと待った。

(……ふぅ……。ようやく……一人に……なれたか……)

肺に残ったわずかな魔力で全身を癒やそうとするが、意識が朦朧とする。袋の口をこじ開ける力すら残っておらず、田中が薄れゆく意識の中で「……これ、詰んだな……」と社畜らしい諦観を抱いたその時。

「……おい、アニキ! 袋が動いたぞ。……生きてんのか?」

カサカサと、袋の周りを囲む複数の小さな気配。

田中が最後の力を振り絞って袋の中から這い出すと、そこにはボロボロの服を着た、汚れだらけの三人の子供たちが立っていた。

「……う、……うぅ……。……あ……」

月明かりの下、泥と血にまみれた全裸に近い22歳の青年が這い出してきた。子供たちの視線が、田中の首元に釘付けになる。そこには金属の首輪こそない。だが、**首を一周するように真っ赤に焼けただれ、肉が抉れた「凄惨な首輪の跡」**が刻まれていた。

「……ひっ!? アニキ、こいつ……首の跡、見ろよ! **『逃げ出した奴隷』**だ!」

「……バカ、声がでけぇよ! ……待て、首輪がねえぞ。どうやって外したんだ? 普通、外そうとしたら首が飛ぶだろ……!」

子供たちに戦慄が走る。

この世界の常識では、奴隷の首輪を無理に外せば、魔法的な制裁で即死する。それなのに、目の前の男は「首輪を力ずくで引きちぎられた」ような恐ろしい火傷を負いながらも、まだ息をしている。彼らにとって、田中はただの病人ではなく、**「死の呪いすら跳ね除けた化物」**に見えたのだ。

「……アニキ、関わるとヤバいよ。騎士団が追ってくるどころか、呪われるぜ……!」

冷たい言葉が耳に届く。51歳の精神は「せやな、それが正解や」と納得しかけたが、口から出たのは必死の「交渉」だった。

「……ま、……待て……。……助けて……くれたら……。……『水』……出す……。……綺麗な……飲み水……いくらでも……」

スラムにおいて、清潔な水は金以上の価値がある。

子供たちの目が、一瞬で変わった。

「……水? 魔法使いなのか、兄ちゃん。……本当に出せるのか?」

「……ああ……。……だから……お願い……や……。……俺を……『在庫処分』……せんといて……くれ……」

51歳の哀願が通じたのか、リーダー格の少年はナイフを収め、唾を吐いた。

「……ちっ、運べねえ重さじゃねえな。……おい、運ぶぞ! こいつが嘘つきだったら、その時はゴミ山に埋め戻せばいい!」

小さな、しかし逞しい腕が、田中の体を支える。

意識が途切れる寸前、田中は「……最近の……若手は……頼もしいな……」と、場違いな感心をしながら、深い眠りに落ちていった。

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