【第71話:余計な御世話メンテナンス —— 51歳の社畜、二次災害に泣く】
「……ギ、……アァァァァァァッ!!」
田中の絶叫が、防音の施された豪華な寝室に虚しく響き渡った。
セレスティアの白く細い指が首輪に触れるたび、彼女の極大魔力が帝国の呪印と正面衝突し、その衝撃が田中の頸椎をダイレクトに焼き焦がす。
「……っ、……まだ外れないの……!? この、しぶとい……不潔な術式が……!」
「……や、……やめて……! ……セレス……さん……! ……俺の……頭……弾け飛ぶ……ッ!!」
本来なら、専門の奴隷商が「解除キー」をかざせば数秒で外れるはずの代物。しかし、セレスティアが「自分の所有物を他人の鍵で開けたくない」というプライドから力技でこじ開けようとした結果、事態は最悪の方向へ転がっていた。
彼女の強大すぎる氷結魔力が首輪の術式に無理やり割り込み、内部の魔法回路がドロドロに**「魔力癒着」**を起こして固着してしまったのだ。
「……チッ、……もういいわ。アリス、近場の奴隷商を連れてきなさい。……私の魔力に耐えきれず『故障』したようね、このガラクタ」
(……壊したん……あんたやろ……!!)
田中は白目を剥き、泥のようにシーツへ沈んだ。
翌日。セレスティアに引きずり出された王国の奴隷商は、田中の首元を見て、泡を吹かんばかりに震え上がった。
「……な、……な、……なんということを……!! 令嬢様、これは……! 貴女様のあまりに強大すぎる魔力が術式の核まで侵食し、完全に**『拒絶反応』**を起こしておりますぞ! 今や首輪とこの男の神経が、魔法的に縫い合わされたような状態です!」
「御託はいいわ。10分以内に外しなさい。……できなければ、貴方の店ごと氷漬けにしてあげる」
「10分!? 無茶をおっしゃらないでください! この癒着を解くには、本来なら数日は安静にして慎重に……!」
「あと9分50秒よ。……それとも、私の命令が聞けないのかしら?」
セレスティアの周囲に、パキパキと空気を凍らせる音が響く。彼女の「早く私の所有物を綺麗にしろ」という理不尽な圧力が、奴隷商の心臓を締め上げる。
(……お、……おっさん……。……泣いとる場合ちゃうぞ……。……俺ら……一蓮托生や……)
田中は、激痛に震える指先で、必死に奴隷商の服の裾を掴んだ。
「……おっちゃん……。……俺……元・商社マンや……。……現場のトラブル対応なら……嫌というほど……やってきた……。……俺が……内側から……水の魔力で……熱を……『冷却』して……抑える……。……あんたは……その隙に……物理的に……回路を……切り離せ……」
「……あ、……あんた……。死ぬ気か……!?」
「……ここで……何もしなくても……セレスさんに……消されるだけや……! ……行くぞ……『納期』は……もう……刻一刻と……迫っとる……!」
奴隷商と、死にかけの奴隷。
かつては「売る側」と「売られる側」だった二人が、今、最強最悪のクライアント(セレスティア)の無理難題を前に、涙ながらの共同作業を開始した。
(……ポ……チ……。……俺……今……人生で一番……仕事しとるわ……!)




