【第69話:氷の再会 —— 51歳の社畜、元職のお局様に捕捉される】
「……あ、……あぁ……。……セレス……さん……。……お、……お久しぶりです……。……いや……これ……その……『再就職先』……間違えた……だけなんです……」
引き攣った笑みを浮かべる田中の視界は、恐怖と激痛でチカチカと点滅していた。
目の前には、5年前の「バックレ」以来、最悪のタイミングで現れた元上司(お局様)・セレスティア。
戦場の喧騒さえも凍りつかせる、彼女の圧倒的な冷気が中央広場を支配する。セレスティアは泥にまみれた田中を一瞥し、汚物を見るかのように扇で口元を隠した。
「……不愉快だわ。私の管理していた『魔力源』が、よその泥にまみれて、あんな安物の首輪を嵌められているなんて。……ねぇ、田中。貴方が勝手に行方をくらましたせいで、私の茶会のスケジュールがどれほど乱れたか、理解しているのかしら?」
感動の再会など微塵もない。彼女にとって田中がいない5年間は、ただ「便利な道具が手元になくて不便だった空白」に過ぎないのだ。
「……身の程を教えなさい、アリス。この野良犬を、速やかに『回収』するわよ」
その時、凍りついた空気を切り裂くように、背後からガウル部長の怒号が飛んだ。
「……おい! 田中ぁ! 何をボケッとしている! さっさと魔力を出せ! 前線の連中に『冷却水』を叩き込め! さもなくば、その首輪で脳を焼き切るぞ!」
ガウルは、目の前の美女が王国軍の最高戦力であることなど眼中にない。納期を守らせるために、無慈悲に制御キーを最大まで回した。
「……ぎ、……あがっ……! ……が、……ガウル……さん……。……む……無理……、……死……ぬ……ッ!!」
首輪の呪印が赤く発光し、逆流する魔力が田中の神経を蹂躙する。
田中は地面をのたうち回り、泥を噛みながら、ただ激痛に耐えることしかできない。その無残な姿を、セレスティアが氷のように冷たい瞳で見下ろす。
「……安っぽい部長さん。……その汚い手を……私の持ち物から離しなさい。不快だわ」
セレスティアの冷徹な一言と共に、極大の氷結魔法が放たれた。
ガウルをその場から吹き飛ばし、同時に田中の首輪へと凍てつく魔力が直撃する。
「……ガ、……ァ……ッ!!」
帝国の「拘束」と、王国の「奪還」。
二つの巨大な魔力が田中の首を「中継地点」にして正面衝突し、過負荷に耐えきれなくなった田中の意識は、ぷつりと断線した。
泥の中に崩れ落ち、ぴくりとも動かなくなった田中。
その首には、依然として不気味に発光する「奴隷の首輪」が食い込んだままだ。
「……酷い有様ね。……アリス、その汚れた『備品』を拾いなさい。城に戻って徹底的に……洗浄してあげるわ」
セレスティアは、気絶した田中を見下ろし、冷たく、だが確かな所有欲を込めて微笑んだ。
帝国軍の砦が崩壊する火光の中、田中は「アイゼンガルド製の小鍋」を抱えたまま、王国軍の魔導師団によって、再び「あの頃」よりも厳しい管理下——専用ウォーターサーバーへと強制連行されていった。




