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【第66話:不純な海外赴任 —— 22歳の奴隷、帝国の「前線基地」で水を配る】

馬車が止まり、荒々しく扉が開かれた瞬間、田中の鼻を突いたのは砂漠の熱気ではなく、鉄錆と馬の汗、そして規律正しく整列した兵士たちが放つ殺気だった。


「……ひぃっ、……なんや……この……殺伐とした……オフィス……。……砂漠の……ゆるい……商売……が……恋しいわ……」


田中が震えながら馬車を降りると、そこには見渡す限りの黒い天幕と、機能的に配置された防衛設備が広がっていた。帝国の北進を支える最前線基地である。


「——バルト、それが『例の品』か」


重厚な鎧の擦れる音とともに現れたのは、顔に深い傷跡を持つ巨漢の男、帝国軍兵站部長のガウルだった。その眼光は、人間を「労働力」ではなく「消耗品」としてカウントする者のそれである。


「……あ、……あの。……俺……田中……って……言います……。……51歳の……窓際……あ、……いや……22歳の……働き盛り……ですわ……。……残業代……とか……有給……とか……」


「黙れ。ここでは言葉は不要だ。必要なのは成果のみ」


ガウルは田中の首にある「領主館の首輪」を一瞥すると、手にした無骨な魔導デバイスを無造作に同調させた。


「……いっ、……痛いっ! ……設定……キツすぎ……ですよ……管理部長さん……!」


「この首輪は帝国の軍規格に書き換えた。これより貴様は『第4兵站ユニット・給水班』に配属する。一日20時間、兵士たちの渇きを癒せ。水槽が空になれば、貴様の血を絞り出すだけだ」


(……20時間……営業……!? ……ブラック企業……どころか……『暗黒企業』……やんけ……! ……不純な……36協定……完全に……無視……しとる……!)


田中は即座に、巨大な鉄製の水槽へと繋がれた。

王国の領主館では「贅沢品」だった田中の水が、ここでは軍隊の進撃を維持するための「燃料」として扱われる。


「……あぁ、……あかん。……これ……前の職場……(領主館)……が……まだ……アットホーム……に見えてきたわ……。……ガウルさん……。……せめて……休憩……1時間……だけでも……」


「貴様に与えられた休憩は、気絶している間のみだ。出せ。今すぐだ」


ガウルの冷徹な命令とともに、首輪が激しく脈動する。

田中の指先から、兵士たちの喉を潤すための真水が、絶え間なく溢れ出した。


(……よっしゃ、……分かったわ。……帝国軍……。……あんたらの……強靭な……胃袋……。……俺の……出す……『不純な……軟水』……で……全部……下痢……にしたるからな……)


絶望的な強制労働の中、田中の内なる商社マンは、軍隊の「健康管理」という名のバックドアを探し始めていた。

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