【第65話:不純な再上場 —— 22歳の奴隷、帝国の「政商」に買い叩かれる】
「……ひぃ、……あぁ。……これぞ……セリ市の……熱気……。……51歳の……加齢臭……紛れる……ほど……ムンムン……しとるわ……」
砂塵舞う熱砂の国。その中心地にある奴隷市場の壇上に、田中は引きずり出された。
首には「領主館・払下げ品」という、不名誉極まりない木札。一度「公権力」が匙を投げた欠陥品というレッテルに、買い手たちは疑念の目を向けている。
「……領主の魔導師が扱いきれなかった『水瓶』か。どうせ魔力回路がイカれてるんだろ?」
「安けりゃ、家畜の飲み水くらいにはなるんじゃねぇか?」
野次が飛ぶ中、田中はわざとらしく肩を落とし、22歳の若々しい瞳に「絶望」を溜めて俯いた。
(……ええぞ、……もっと……市場価値……下げろ……。……安ければ……安いほど……『買い手』の……ハードル……下がるからな……)
だが、その喧騒を切り裂く、冷徹な声が響いた。
「——金貨50枚。言い値だ、その『欠陥品』をこちらへ」
市場が静まり返る。
現れたのは、砂漠の民とは明らかに異なる、機能的で厚手の黒い外套に身を包んだ一団。その中心に立つ、銀髪の男——バルトが、領主館の使いに無造作に金を投げた。
「……お、……おい。……いいのか? ……中身……保証……せえへんぞ?」
「構わん。我が主は、多少の癖がある方が好みでな」
セリのハンマーが叩かれる。
田中は、抗う間もなく屈強な男たちに担ぎ上げられ、窓のない、鉄板で補強された頑丈な馬車へと放り込まれた。
(……よっしゃ、……『再就職』……完了や。……今度の……オーナー……身なりは……地味やけど……金払いは……ええな……。……地元の……中堅企業……ってところか……?)
馬車が走り出し、砂漠の街の喧騒が遠ざかる。
しばらくして、田中は檻の中で、自分を買った男、バルトに愛想笑いを浮かべた。
「……あの、……バルト様……? ……俺……これでも……22歳の……働き盛り……ですから……。……どこまで……連れて……行って……もらえるんで……?」
バルトは、馬車の小窓から流れる乾いた景色を眺めながら、短く答えた。
「——西だ。この砂漠を抜け、山脈を越える」
「……山脈? ……え、……支店……でもあるんですか?」
「違う。我々はこれより、貴様を**『帝国』**へと運ぶ。この砂漠の国で貴様のような『戦略物資』を腐らせておくのは、皇帝陛下への冒涜だからな」
「……は……? ……て、……帝国……? ……あの……今……世界中で……絶賛……侵略戦争……展開中の……ブラック国家……ですか……?」
田中は凍りついた。
かつての商社時代、紛争地帯への出張を全力で回避し続けてきた彼にとって、これは「海外赴任」どころか「敵国への軍事輸出」である。
「……ちょっと……待ってや……! ……俺……パスポート……持ってへんし! ……そもそも……俺……砂漠の……のんびりした……商売……が好きなんです! ……不純な……密輸……は……コンプライアンス的に……あかん……!」
「黙れ。貴様はもう、この国の民ではない。帝国の『軍備品』だ」
馬車は、砂塵を巻き上げながら西へと急ぐ。
緩やかな砂漠の空気から、冷徹で機能的な「帝国の規律」へ。
田中は、揺れる檻の中で、自らの「人生設計」が、とんでもない「外資系ブラック企業」に買収されたのを悟った。
(……あかん、……これ……『現地採用』……どころか……『徴兵』……やんけ……。……不純な……グローバル……展開……いきなり……ハードモード……すぎへん……?)




