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【第62話:不純な浸水被害 —— 22歳の奴隷、地下室を「水没」させる】

「……ごふっ、……はぁ。……水浸しの……パン……。……不純すぎて……涙が出るわ……。……商社時代の……立ち食いそばの……ふやけた……天ぷら……の方が……まだ……芯があった……」


田中は、水流で手繰り寄せた、ぐっしょりと濡れたパンを喉に押し込んだ。

だが、食事を終えても田中の指先から出る水は止まらない。首輪による「強制抽出」は、田中の意志とは無関係に、一定のノルマを吐き出させようと脈動を続けている。


(……待てよ。……このまま……水槽に……律儀に……貯めとったら……管理側の……思うツボ……やんか……)


田中は、鎖の届く範囲で、貯水槽の「外側」に指を向けた。

本来なら、水槽を溢れさせるには膨大な時間が必要だ。だが、今の田中には、先ほど皿を引き寄せた「高圧水流ケルヒャー」の応用がある。


「……いでっ、……熱っ! ……でも……止まらんぞ……! ……この……魔力の……バイパス……全部……床に……ぶちまけたる……!」


シュパパパパッ!!


針のような鋭い水流が、石の床を叩きつける。

水槽という「正規の納品先」を無視し、田中はすべての「商品(水)」を、自分の足元の床へと投下し始めた。


地下室は、排水設備が不十分な、ただの石造りの密室だ。

みるみるうちに水位が上がり、田中の足首を浸し、やがて膝の高さまで達する。


(……ええぞ、……ええ感じや。……これ……『在庫過剰』……による……倉庫の……パンク……状態……。……ロジスティクス……大混乱……やで……)


ガボッ、ガボボボッ。


地下室の隅にある、僅かな隙間から水が逆流し始める音が聞こえる。

そして、ついにその時が来た。


「……おい、なんだこの音は! 差し入れ口から水が漏れて……ぎゃあぁっ! 冷たっ!」


鉄の扉の向こう側で、先ほどの雑用の男の悲鳴が響いた。

扉の隙間から、凄まじい勢いで水が廊下へと溢れ出しているのだ。


「……おい! 水瓶! 何をしてる! 水槽を満たせと言っただろ!」


監視窓が開き、焦り狂った男の顔が覗く。

田中は、腰まで水に浸かりながら、22歳の若々しい顔に「最高に不純な微笑」を浮かべて見上げた。


「……あ、……あの。……すんません……。……お腹……空きすぎて……手元……狂うてしもて……。……今……床……掃除……しとるんですわ……。……ほら……ここ……埃……凄かったから……」


「馬鹿野郎! 廊下が水浸しだ! 早く止めろ! 領主様の絨毯が台無しに……!」


(……フフッ、……『被害報告』……上がったな。……これで……上の……偉い……管理職(魔導師)……たちも……現場に……来ざるを……得んやろ……)


田中は、わざとらしく足を滑らせ、バシャバシャと水を跳ね上げた。

「……あぁっ! ……滑る! ……危ない! ……労災……労災や! ……今……首輪……変な音……したで!」


暗闇の地下室。

水位はさらに上がり、扉の向こう側からは、大勢の足音と怒号が近づいてくる。

独房に閉じ込められた「設備」が、文字通り「逆流リーク」を開始した瞬間だった。

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