【第60話:不純な労働環境 —— 22歳の奴隷、届かない「配給皿」に悶絶する】
「……あかん、……これ……物理的に……アウト……やんか……」
鉄の扉の最下部、ギギィと音を立てて開いた差し入れ口から、無造作に木皿が押し込まれた。だが、そこには残酷な「境界線」が存在していた。
壁の鉄リングから伸びる鎖の長さ、およそ2メートル。
対して、扉までの距離は……目測で3メートル弱。
「……おい、……嘘やろ……。……これ……手が……届かへん……。……1メートル……足りん……。……51歳の……五十肩……考慮しとらん……配置ミス……やで……」
田中は鎖を限界までピンと張り、指先を精一杯伸ばしたが、カビ臭いパンの乗った皿は非情にも指先から数十センチ先に鎮座している。
「おい、さっさと食え。回収の時間に皿が空になってなきゃ、明日は抜きだぞ」
扉の向こうから、無機質な男の声が響く。
「……ちょっと……待てや! ……届かん! ……これ……配置……考えた奴……呼んでこい! ……コンサル……入れろ! ……動線設計……ガタガタ……やんけ!」
田中が叫ぶが、扉の向こうの男は鼻で笑う。
「知るか。鎖を限界まで引きちぎるつもりで手を伸ばせば届くように作ってあるはずだ。それが嫌なら、干からびて死ね」
ガチャン、と差し入れ口が閉じられた。
暗闇の中、絶妙に「届きそうで届かない」場所に置かれた、薄汚れたスープとパン。
(……なるほどな。……これ……単なる……食事……ちゃうわ……。……『服従のテスト』……や……。……必死に……もがいて……惨めに……飯を……食う姿……見て……楽しんどるんや……)
22歳の若く強靭な肉体を持ってしても、物理的な「鎖」という拘束具の前では、ただの囚人に過ぎない。
田中は、額に青筋を立てて鎖を引っ張った。首輪が肉に食い込み、魔封じの回路がジリジリと火花を散らすような不快感を与える。
(……くそっ……。……でも……ここで……諦めたら……終わりや……。……直接……手が……届かんのなら……俺の……『商品(水)』……使って……手繰り寄せる……しかない……)
田中は、指先を床に向けた。
直接水を操る魔法は使えない。だが、生成する水の「勢い」と「量」を微調整し、石の床を滑らせることで、皿をこちら側へ押し流す「物理的な圧力」を作り出すことはできるはずだ。
「……見てろよ……。……51歳の……知恵……舐めるな……。……ただの……給湯器……やと……思ったら……大間違いや……。……この……不純な……ウォータージェット……で……飯……勝ち取ったる……!」
暗闇の地下室で、田中は鎖を限界まで引きずりながら、指先から一本の「鋭い水流」を放った。




