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【第58話:不純な公権力 —— 22歳の奴隷、領主に「強制収用」される】

「——そこまでだ。下賎な商売人ども」


広場の混乱を切り裂いたのは、腹の底に響くような、重厚な角笛の音だった。

砂塵の向こうから現れたのは、黄金の装飾が施された重装騎兵団。そして、その中央で白馬に跨る、冷徹な瞳をした男——この地の領主、カササ子爵だった。


「ひっ、……領主様……! ……これは、……その……商売上の……些細な……」


ガラムとザックスが、血相を変えてその場に跪く。先ほどまでの威勢はどこへやら、二人とも生まれたての小鹿のように震えていた。


「些細な、だと? 我が街の広場を戦場に変え、貴重な『魔導水』を巡って民を煽動した罪、万死に値する」


領主の側近が手にした長剣で、ガラムの馬車を一刀両に切り裂いた。

田中は鎖に繋がれたまま、砂の上に放り出される。22歳の瑞々しい肌が、鋭い砂利に擦れて血が滲む。


「……ほぅ。これが噂の『歩く水瓶』か。なるほど、これほどの純度の水を生成できるのなら、商人の手に余るのは当然だ」


領主の冷たい視線が、田中の首にある「鉄の首輪」に留まった。


「……あ、……あの、……領主様。……俺、……ただの……51歳の……窓際……」


「黙れ、奴隷。貴様の意志など聞いていない。……ガラム、ザックス。この者は我が領主館で『保護』する。貴様たちの資産はすべて没収だ。異論はあるまいな?」


「そ、そんな……! 私の投資した金貨が……!」

「黙れと言ったはずだ」


側近の一振りが、ガラムのすぐ横の地面を叩き割る。

田中は、二人の商人が絶望に顔を歪めるのを見ながら、自分もまた、より巨大な「檻」に引きずり込まれるのを悟った。


(……あかん、……失敗や……。……商人二人を……共倒れさせて……その隙に……自由を……買うつもりやったのに……。……もっと……太い……『不純な権力』……に……直接……飲み込まれてもうた……)


領主の兵士たちが、田中の首輪の鎖を掴み、乱暴に立たせる。

商売の駆け引きが通じる「商人」から、法そのものである「権力者」の手へ。

田中の目論見は、砂漠の砂の中に虚しく消え去った。


「……連れて行け。これからは我が館で、死ぬまで水を出し続けてもらう」


「……あぁ、……これ……『終身雇用』……ってやつやな。……しかも……24時間……営業の……。……最悪の……キャリアチェンジ……やわぁ……」


引きずられていく田中の背後に、夕闇に染まる砂の街が遠ざかっていく。

首輪の重さは、先ほどよりもずっと、不純に重く感じられた。

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