【第57話:不純な過当競争 —— 22歳の奴隷、街を「渇き」の狂乱に叩き落とす】
「おい、ザックス! お前のラインの水、さっきから一滴も出てねぇぞ! ろ過槽を独占して魔力を横流ししてやがるな!」
ガラムの怒声が、砂の街『カササ』の広場に響き渡った。
田中の指先から出る「高品質な水」を巡る争いは、もはや隠しきれないレベルにまで達していた。田中は首輪を介して二つのろ過槽に繋がれたまま、わざと魔力の供給バランスを「ランダム」に乱し始めたのだ。
「ふざけるなガラム! お前のところの客が、俺のろ過槽を壊そうとしたんだ! 自業自得だろ!」
二人の商人が雇った荒くれ者たちが、互いに剣を抜き、睨み合う。
だが、一番の誤算は「客」たちの反応だった。
田中の仕込んだ「疲労回復(微細魔力)」が含まれる水に、街の住人たちはすでに**「軽度の依存状態」**に陥っていた。その水が、商人たちの諍いで止まったり、質が落ちたりしたことで、民衆の不満が爆発したのだ。
「ふざけるな! 俺たちの水を返せ!」
「ガラムの店は偽物だ! ザックスの店から奪い取れ!」
「……あ、……あれ? ……これ、……ちょっと……コンプライアンス的に……不純すぎたか……? ……ただの……シェア争い……のつもりやったのに……」
田中の足元で、住人たちが暴徒と化し、ガラムの馬車に石を投げ始めた。
「待て! 落ち着け! 水は出す、今出すから!」
ガラムが焦って田中の鎖を引くが、隣でザックスがろ過槽のレバーを強引に奪い合う。
「田中! 俺の方に全魔力を回せ! 報酬は倍にしてやる!」
「嫌だ! ガラムさん、助けて! 鎖が……鎖がちぎれる……!」
田中は悲鳴を上げる「22歳の哀れな奴隷」を演じながらも、内心では冷汗を流していた。
広場ではすでに殴り合いが始まり、商人の私兵と暴徒化した住人たちが入り乱れる大騒動に発展。市場のテントが倒れ、火の手が上がる。
「……あかん、……これ……倒産……どころか……『内乱罪』……適用されるレベルやん……。……51歳の……リスク管理……甘すぎたわ……」
砂煙と怒号の中、田中の計画は、制御不能な「暴動」という名の濁流に飲み込まれていった。




