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【第56話:不純な品質管理 —— 22歳の奴隷、主人たちに「格差」を配分する】

「おい、田中。今日からザックスの旦那もお前の『共同オーナー』だ。感謝しろよ、設備投資で抽出効率が上がるんだからな」


ガラムが上機嫌で田中の肩を叩く。その横では、ザックスが巨大な魔力増幅機能付きの「ろ過槽」を馬車に連結させ、田中の首輪から伸びる魔力伝達経路を自らの装置に繋ぎ変えていた。


「……はぁ、……ひぃ。……ガラムさん、……ザックスさん。……俺、……精一杯……やらせて……いただきますわ……。……二人の……偉大な……オーナーの……ために……」


田中は鎖に繋がれたまま、深々と頭を下げた。

22歳の若々しい肉体は泥にまみれ、首輪を介して二つの装置に「魔力のバイパス」を通される姿は、見るからに痛々しい。


だが、田中の指先は、すでに「不純な仕掛け」を開始していた。


(……まずは……バレん程度の……『誤差』……からや……)


当初、二人のラインから出る水は、どちらも「奇跡の真水」として飛ぶように売れた。利益は折半、ガラムもザックスも、手に入る金貨の重さに笑いが止まらない。


だが、一週間が過ぎた頃。

田中は、指先から出る魔力の配分を、0.1%刻みでズラし始めた。


「……ガラムさんの……方には……喉越し……さっぱり系の……軟水を……。……ザックスさんの……方には……微量な魔力成分……残した……重厚な……硬水を……」


最初は誰も気づかなかった。

だが、次第に客の間で、小さな「好み」の差が生まれ始める。

「ガラムの水は、飲みやすいが……なんだか物足りないな」

「ザックスのところの水は、少し癖があるが……なんだか力が湧いてくる気がする」


「おい、ガラム。最近、俺のところの方が客の並びが良いようだが……お前、自分の水を薄めて売ってるんじゃねぇだろうな?」

「何を言ってやがる。同じ『水瓶』から出てるんだ、そんなはずねぇだろ。お前の気のせいだ」


(……ええぞ、……『気のせい』……。……これ……不信感の……第一歩……やからな……)


さらに数日が経過。田中は、その「格差」をさらに広げていく。

ザックスのラインには「疲労回復」の魔力成分を露骨に上乗せし、ガラムのラインには「ただの冷たいだけの水」を流した。


街の噂は、もはや無視できないレベルの「確信」へと変わる。

「ザックスの店の方が、本物の『聖母の涙』だ。ガラムの方は、ただの魔法使いの残りカスだ」


「ザックス、お前……! 田中の指に何か細工したろ! 俺の方の水の評判が、目に見えて落ちてやがるぞ!」

「言いがかりはやめろ、ガラム! 客は正直なんだよ。俺の管理が行き届いている証拠だ。……お前、管理能力がねぇなら、田中の所有権を俺に全部譲ったらどうだ?」


「なんだと……! 拾ったのは俺だぞ!」


(……よし、……『所有権争い』……に……発展したな……)


田中は、怒鳴り合う二人の足元で、首輪の鎖に引かれながらも、伏せた瞳の中で不気味に笑った。

かつての商社時代、合併企業の主導権争いで相手を自滅させた時と同じ。

「不平等な利益」という毒を少しずつ流し込めば、強欲な男たちは勝手に疑心暗鬼の沼に沈んでいく。


「……さぁ、……どっちが……先に……相手の背中……刺すんやろなぁ……。……不純な……ボーナスタイム……の……始まりやわ……」


砂漠の熱風に吹かれながら、田中は首輪を付けたまま、二人の破滅へのカウントダウンを静かに楽しんでいた。

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