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【第54話:不純な価格競争 —— 22歳の奴隷、水だけで「相見積もり」を取る】

「……おい、ガラム。最近えらく評判じゃねぇか。うちの客がみんな、お前のところに流れてるぞ」


砂の街『カササ』の裏通り。

ガラムの馬車の前に立ち塞がったのは、この街で「泥水(ろ過水)」の利権を独占してきた地元の有力商人、ザックスだった。背後には、抜き身のナイフを弄ぶ荒くれ者たちが控えている。


「ハッ、ザックスか。僻むなよ。俺の商品は『聖母の涙』、お前のところの泥水とは格が違うんだ」


ガラムは田中の首輪の鎖をジャラリと鳴らし、自慢げに鼻を鳴らす。

その足元で、田中はぐったりと砂の上に座り込んでいた。22歳の若々しい肌は日焼けで赤くなり、首輪の熱で喉元は常に炎症を起こしている。


(……ええぞ、……もっと揉めろ。……独占禁止法違反の……泥仕合……。……これこそ……不純な商売の……醍醐味や……)


田中は薄目を開け、二人の商人のやり取りを冷徹に観察していた。

ザックスの目は、ガラムへの敵意以上に、田中の「指先」への強烈な執着でギラついている。


「……ガラムさん、……あのおじさん……怖い。……俺、……ガラムさんの……高い水……一生懸命……出しますから……」


田中はわざとらしく震えながら、ガラムの足にしがみついた。

22歳の「弱々しい奴隷」を演じる田中に、ガラムはすっかり気を良くする。


「安心しろ田中。お前は俺の『大事な資産』だ。……おいザックス、話は終わりだ。消えな!」


だが、その日の夜。

ガラムが酒に酔い潰れ、馬車の外で高い鼾をかいている隙に、田中は首輪の鎖を限界まで伸ばし、檻の隙間から外を覗いた。そこには、案の定、ザックスの放った密偵が潜んでいた。


「……おい、……そこの……お兄さん。……ザックスさんに……伝えてぇや……」


田中は、首輪の警告音が鳴らない程度の、極限まで出力を絞った「真水」を一滴、指先から絞り出した。

それは酒ではない。だが、田中が5年間の研究で培った「成分調整」により、**「この街のどの水よりも甘く、飲んだ瞬間に疲れが吹き飛ぶ、不純なほどの純水」**だ。


「……これ、……ザックスさんに……飲ませてみ。……ガラムさんの……ボッタクリ……もう……限界やろ? ……俺、……もっと……効率的に……出せるんやけどなぁ……」


密偵は怪訝な顔でその一滴を小さな瓶に受け、闇に消えていった。


(……フフッ、……これで……『引き抜き(ヘッドハンティング)』の……準備は整った。……ガラムさん、……あんたの……資産管理……ガバガバやわ……)


田中は、冷たい檻の床に横たわり、静かに笑った。

22歳の奴隷という皮を被った、51歳のハイエナ。

酒が使えないなら、水の「質」だけで市場を操作し、商人同士を共倒れさせる。


「……ポチ……、……はよ……見つけてくれ……。……この首輪……肩凝りに……最高に……悪いんや……」


月明かりの下、田中の首輪が不気味に青白く光っていた。

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