【第51話:不純な在庫処分 —— 22歳の肉体、悪徳商人に「一山いくら」で買い叩かれる】
「……う、……ぅ。……ここは、……どこや……。……接待の翌朝にしては、……喉の渇きが……致死量を超えとる……」
重い瞼を押し上げると、そこは揺れる馬車の中だった。だが、高級な革張りではない。家畜の糞尿と、安物の香料の匂いが混ざり合った、不快極まりない荷台の上だ。
カチリ、と冷たい金属の感触が首筋を走る。
「……なんや、……これ。……最近の……健康器具か? ……肩凝りに効く……磁気ネックレス……にしては、……殺意が……高すぎる気が……」
田中が震える手で自分の首に触れると、そこには鈍い光を放つ**「魔封じの首輪」**が、肉に食い込むほどきつく締め付けられていた。
「おい、ようやく目が覚めたか。この『不良在庫』が」
荷台のカーテンを払って顔を出したのは、金銀の指輪をこれ見よがしにはめた、恰幅のいい小太りの男だった。その目は人間を見る目ではなく、市場の野菜の鮮度を測るような、冷酷な商人の目だ。
「……あ、……あの。……これ、……何の……冗談ですか……? ……俺、……22歳の……ただの漂流者……で……」
「冗談? 冗談で銀貨を払う商人がどこにいる。お前は今、あの浜の連中から俺が買い取った**『訳ありの商品』**だ。名はガラム。この辺りで手広く商売をさせてもらっている」
ガラムは田中の首輪に繋がれた鎖を、グイと引き寄せた。
「……ひぃっ! ……いたい、……痛いですわ……!」
「22歳か。肌ツヤもいいし、何より指から真水を出せる魔導師だってのが気に入った。この先の乾燥地帯じゃあ『歩く水瓶』は金になる。……いいか、俺の許可なく一滴でも無駄にしてみろ。その首輪が作動して、お前の頭はスイカみたいに弾け飛ぶぞ」
「……奴隷……? ……商品……? ……ちょっと待ってくれ。……俺、……前の職場で……散々……搾取されて……ようやく……隠居生活……してたんやぞ。……なんで……この見た目で……『キャリアダウン』どころか……『棚卸し対象』になっとるんや……!」
田中は絶望に打ちひしがれ、荷台の隅で丸くなった。
聖域で時が止まっていたおかげで、肉体は22歳の全盛期のままだ。だが、魔力を封じられ、物理的な首輪に繋がれた瞬間、彼はただの「高機能な道具」へと成り下がった。
「……ポチ……。……レナさん……。……助けてぇや……。……俺、……今……『銀貨5枚』の月給どころか、……『一山いくら』の……叩き売り……されて……出荷されとる……」
ガタガタと揺れる馬車。砂漠の熱風が、ボロボロの藍色の服をさらに乾かしていく。
かつては「酒精」で人々を癒やし、最強の相棒とハイウェイを支配した男。
今、その首にあるのは、自由を奪う鉄の輪と、強欲な主人の鎖だけ。
「……見てろよ、……ガラム。……中身は50年以上生きてる……ベテラン商社マンを……ただの『設備投資』やと思ったら……大間違いや……。……あんたの商売……中から……徹底的に……不純にして……破産させたったるからな……」
喉の渇きで意識が遠のきながらも、田中の目には、理不尽な買収工作を受けた時のような「ドロリとした執念」が、静かに灯っていた




