【第46話:不純な販路拡大 —— 51歳、連邦の懐(ふところ)を酒精で揺らす】
「……おい、ポチ。……この岩塩パレス、維持費はかからんけど、仕入れが持ち出しばっかりや。……商社マンとして、『ノー収益』でサービスを提供し続けるのは、健全な経営とは言えんわな」
レナたちが去り、約束通りドワーフのガラムを連れて戻ってきてから数ヶ月。
洞窟は「岩塩パレス」へと変貌し、物流の要である「不純ハイウェイ」も開通した。
田中は、カイルが仕立ててくれた藍色の服の袖を捲り、51歳の「計算高い顔」を覗かせた。
「……レナさん、ドーンさん。あんたら、この『不純な酒精』を、アイゼンガルド連邦のギルド上層部に、こっそり卸してみる気はないか?」
「……なっ、……!? 田中殿、これを連邦へ出すというのか!? この魔力を一瞬で底上げし、戦士の恐怖を溶かす……この禁断の酒を……!」
ドーンが驚きで、ガラムが新調した岩塩グラスを落としそうになる。
田中は、指先から出した酒精を、小さな岩塩の小瓶に詰め、トントンとカウンターに置いた。
「ええか、これは『酒』やない。……『魔の森の最深部、伝説のフェンリルが守る聖域でしか採取できない、高濃度魔導触媒』や。名前は……そうやな、**『不純な雫』**とでも呼んでおけ」
田中は、商社マン時代の「商品ブランディング」を異世界に転用し始めた。
「売る相手は選べ。連邦の冒険者ギルドの幹部や、引退間際の金持ちの商人や。『一口で金貨一枚』。安売りは絶対にするな。希少価値こそが、この不純な商売の生命線やからな」
「……田中さん、貴方、本気なの? そんなことをすれば、連邦の有力者たちが、独占権を狙って血眼になるわよ……」
レナが、かつて「欲深い官僚には教えない」と言った時の懸念を口にする。だが、田中は不敵に笑う。
「だから、『総代理店契約』にするんや。この酒を取り扱えるのは、あんたら『紅蓮の牙』だけ。俺はここから一歩も出ん。あんたらに、連邦唯一の『窓口』としての特権をやる。……これなら、変な虫もあんたらが払ってくれるやろ?」
そこから数週間。
レナたちが連邦の裏オークションや有力ギルドの会合で「極秘のサンプル」を披露すると、効果は劇的だった。
「一口で、枯渇した魔力が泉のように湧き上がる」
「古傷の痛みが消え、精神が鋼のように安定する」
そんな不純な噂が、連邦の経済を動かす「金と権力」の層を駆け抜けた。
「……田中殿! 見てくれ、今週の売上だ! 連邦の金貨が、袋の底が抜けるほど詰まっとるぞ!!」
ドーンが、重そうな革袋をカウンターに叩きつける。
中には、かつてハンスからもらった予備の小鍋など、何百個も買えるほどの連邦金貨が詰まっていた。
「……ほう、ええ仕事したな。これだけあれば、連邦の『最高級のコーヒー豆』や『シルクの寝具』も取り寄せられるわ。不純や。隠居生活が、どんどん『成金』の別荘みたいになっていくわ……」
田中は、金貨をポチの寝床の横にある岩塩の箱に放り込んだ。
もはや、ただの遭難者ではない。
魔の森の深部から、連邦の市場を不純な酒精でコントロールする、「裏の供給元」。
だが、田中はまだ気づいていなかった。
「自由」を謳う連邦だからこそ、そこに渦巻く「欲」は、時に魔物よりも凶暴で、不純な牙を剥くということに――。




