【第44話:魔の森の収穫祭 —— 51歳、不純な「山菜」を飼い慣らす】
「……おい、ポチ。……それ、……食うても大丈夫なやつか? ……見た目、……完全に『毒々しい紫色のブロッコリー』やぞ。……これ、……商社の『接待ゴルフ』で、……マナーの悪いライバル会社の部長が着てた派手なウェアと同じ色のエグみがあるわ……」
岩塩パレスのカウンター。
レナが持参した麻袋の中から転がり出たのは、魔の森の奥深くに自生する希少な山菜**『魔導ゼンマイ』と、淡く発光する『月光茸』**だった。
「……田中さん、……酷いわね。……これ、……採取するのにドーンが『森の主』の目を盗んで、……泥まみれになりながら摘んできたのよ。……連邦の王宮晩餐会でも、……一皿で金貨が飛ぶような高級食材なんだから!」
「……そうか、……ドーンさん。……そら、……済まんことしたな。……でもな、……これ……。……今にも、……袋の中で動いてへんか? ……植物のくせに、……『シャーーッ!』とか言うとる気がするんやけど……」
田中が恐る恐る指先で魔導ゼンマイに触れると、それはまるで蛇のように鎌首をもたげ、田中の指を噛もうとした。
「……あかん! ……これ、……食材やない、……『敵』や! ……レナさん、……これ、……どうやって食うんや!? ……胃袋の中で暴れ回られたら、……51歳の腹、……一発で穴空くぞ!!」
「……がっはっは! ……田中殿、……そこをどうにかするのが……貴殿の『不純な腕の見せ所』ではないか! ……このガラム、……今日はこの『暴れる草』を肴に、……冷たい酒が飲みたくて堪らんのじゃ!!」
ドワーフのガラムが、期待に満ちた目でカウンターを叩く。
田中は、呆れ果てながらも、51歳の商社マンとして培った「難題を力技でねじ伏せる」覚悟を決めた。
「……はぁ。……しゃあないな。……ポチ、……ちょっと手伝いや。……こいつらの『戦意』、……お前の不純な魔力で、……一気に削いでくれ!」
ポチが面倒そうに鼻を鳴らし、カウンターに置かれた山菜たちに、一瞬だけフェンリルの圧倒的な威圧感を浴びせた。
すると、先ほどまで牙を剥いていた魔導ゼンマイが、一瞬にして萎れ、しおしおと従順な野菜へと姿を変えた。
「……よし、……今や。……カイル君、……その『凍結魔法』で、……一気にアク抜き(仮死状態)にしてや!」
「……えっ!? ……攻撃魔法を、……料理に使うんですか!? ……そんな不純な使い道、……魔導学院の教科書には……っ!」
「……ええから、……やれ! ……教科書より、……今日の『酒の肴』や!!」
カイルの精密な魔法でキンキンに冷やされた山菜を、田中は手際よく岩塩の板の上で刻み、指先から出した酒精と、ドーンが持ってきた魔獣の脂で一気に炒め上げた。
立ち上る香りは、野生の力強さと、酒精の芳醇さが混ざり合った、暴力的なまでの食欲をそそる匂い。
「……ほら、……できたぞ。……魔の森の特製、……『不純な山菜チャンプルー』や!」
一口食べた瞬間、レナたちの表情が劇的に変わった。
シャキシャキとした食感と共に、魔力が体中に染み渡り、戦いの疲れが急速に溶けていく。
「……信じられない……。……このゼンマイ、……あんなに凶暴だったのに、……今はこんなに優しく……っ。……田中さん、……貴方は本当に……『毒』を『薬』に変える天才ね……」
「……ポチ。……見てみ。……アイツら、……もう『動く野菜』の恐怖、……完全に忘れとるな。……不純や。……魔の森の猛毒食材を、……居酒屋のスピードメニューに変えてしまうとは……」
夜が更けるまで、岩塩パレスは「森の恵み(という名の戦利品)」を食らう、最強の戦士たちの笑い声に包まれていた。
51歳の商社マン田中。彼の不純な知恵は、ついにこの凶暴な森の植物すらも、自分の「おつまみラインナップ」に従えさせてしまったのだった。




